メディア

AI企業が描く次世代RPA「ブレインロボ」とは?

「知能」としてのAIと、それを実行する「身体」となるロボットやRPAなどを組み合わせることによりビジネス課題を解決するポテンシャルを秘めている。

» 2018年03月14日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
若尾和広氏 ブレインパッド 若尾和広氏

 東京・六本木アカデミーヒルズで開催された大型カンファレンス「THE AI 2018」では「RPAはAIの夢を見るか」と題した講演が行われた。ブレインパッドの若尾和広氏はその講演で「AIの応用には『身体性』が必要」だと指摘した。その意味するところは何だろうか。

AIは人間が機械に仕事をさせるための仕組みのこと

 「AIに対して人が抱くイメージはバラバラ」だと若尾氏は言う。一般の人の抱くイメージは例えばかつてのSF映画に出てきた巨大コンピュータのような人を超越した神様的な何か、あるいはスマートスピーカーのような便利機器、または家族やペットのような仲間というように、人によってまったく異なる。AIの定義は研究者間でも表現が異なっているようだ。

AIに対する認識 世間が持つAIに対する認識を整理

 そこで同氏は1947年に人工知能の概念を初めて提唱したアラン・チューリングの言葉を引用した。

 「この万能機械(コンピュータのこと)の性質からすれば、機械による処理も、人間的な処理も元は同じものであるという事実を受け止めることができれば、万能機械はそれに適当な命令を与えれば、どんな人間的な仕事もこなすようにすることができます」

 この言葉を若尾氏は「つまるところAIは人間が機械に仕事をさせるためにつくった命令の手続き、あるいは命令の実行する体系」だと解釈する。「同じインプットに対してアウトプットが人間と同じなら、その背後にある技術や仕組みは何であれ、知能があると考えてよいのではないか」というのが若尾氏の考えだ。

知能を形作る4機能

 その知能を形づくるのは「認識する」「記憶する」「学習する」「判断する」の4機能であり、それぞれの機能は相互に関係している。

 その各機能に対して人間または自然界の事象からのデータをインプットし、役に立つ結果をアウトプットするのが「人の代わりとなるAI」なのだと同氏はいう。人間は聴覚、視覚、触覚、味覚、臭覚の五感を持っているが、AIは音声データ、画像データ、各種センサーが人間のそれらの機能を担っている。それらのインプットから、人の知能と同等もしくはそれ以上の価値あるアウトプットが出てくれば立派なAIというわけだ。

人間が持つ5感とAI 人間が持つ5感を、AIは音声データ、画像データ、各種センサーで代替

 以前主流だったプログラムとデータが分離していたルールベースだけのAIとは違い、昨今はディープラーニング技術により、データからのボトムアップでルールを作る方法を加えたことで、AIの技術開発は目覚ましい発展を遂げている。これにより「認識」「記憶」「学習」「判断」の4つの機能セットがうまく機能するようになったと同氏は分析した。

「強いAI」と「弱いAI」

 しかし、今のAIにはまだ人間と同等の知能が備わっているわけではない。AIには大きく分けて2種類が考えられる。人間と同等の知能を備え持つものを「強いAI」といい、特定の課題に対してのみ人間に匹敵する知能を備え持つものを「弱いAI」という。

 強いAIの実現にはまだ時間がかかりそうだが、弱いAIであれば既に普通のソフトウェアと同様に利用できる段階にまできている。しかも、専門の課題に対しては「弱い」どころか、人間をはるかに超えるパフォーマンスで処理できる。スピードが速い上に、人間のようにものを忘れたりすることもなければ、休んだりすることもない。例えば囲碁しかできない「AlphaGo」は「弱いAI」の1つだが、試合では人間のトップ棋士に勝っているのが1つの証明だ。

AIを4つのレベルに整理すると?

 同氏はさらに、AIを4つのレベルに分けた。レベルの低い方から順に「レベル1:単純な制御プログラム=エアコンや洗濯機などの家電製品など」「レベル2:ルールベース人工知能=掃除ロボット、質問に答えるプログラムなど」「レベル3:機械学習を取り入れた人工知能=検索エンジン(検索ワードに対する検索結果レコメンド)など」「レベル4:ディープラーニングを取り入れた人工知能=自動翻訳、画像認識、不正検知など」である。

AIの機能を4段階に整理 AIの機能を4段階に整理する。レベル1と2は従来のAI、レベル3と4は最先端領域のAI

 レベル1と2は人間が用意したルールを必要とするAIであり、3、4は機械自身がルールを発見して学ぶAIだ。両者の間には本質的かつ大きな差異がある。レベル3、4のAIは最先端領域であり、機械学習の先進的アルゴリズムとビッグデータおよびハードウェアの進化と相まって、いわゆる現在のAIブームを起こしているものだ。

 一方、レベル2の従来の機械学習手法もビッグデータとハードウェアの進化により、かつてはできなかったことを可能にしており、実力が再評価されている。プレインパッドの事例をとってみても、ディープラーニングを活用した画像解析、ログ解析、対話botなど先端の技術を用いた開発を進める一方で、「昔ながらの」機械学習、数理最適化の手法を用いたトラック配送における課題解決や、故障予測などの課題解決事例もあり、レベル3、4とレベル2のどちらの手法もビジネスに役割を果たしているとのことだ。

AIが仕事をこなすには「身体性」との組み合わせが必要

 さて本題のRPAであるが、同氏はチューリングの「(AIが)『人間的な仕事をこなす』ことができる」という言葉を再び引いて、「認識、記憶、学習ができても、仕事がこなすことはできない。知能に加えて仕事を行う身体性(ボディー)が組み合わさって初めて仕事ができる」と述べた。そこで注目されるのが、ロボティクスである。

 AIのいわば手足として働くロボットとしては、話すことが中心のコミュニケーションロボット、動くことが中心の人間・動物型ロボット、そしてコンピュータ作業が中心のソフトウェアロボット(RPA)などがある。ブレインパッドが主に取り組んでいるのはRPAである。

 RPAは既存業務アプリケーションで人間が行っている操作を代替するソフトウェアだ。入力データを読み込み、検索・抽出、集計・加工、確認・判断、他サービス参照・データ取得、入力・登録、帳票の作成・出力、メール送付など、人間の事務作業のほとんどを代替できる。しかも人間と違って24時間365日休まず、間違いを繰り返さず、辞めることもない。既存システムに手を入れる必要はなく、開発がほとんど要らず保守が容易、しかも自動化を通して業務プロセスが可視化できて改善につながる副次的な機能もある。

RPA 人に代わり人間的な仕事をこなすソフトウェアロボットがRPA

 RPAの業務自動化レベルはClass1〜3への段階的発展が予測されており、従来は指示通りに動くClass1に当たるルールエンジンベースのRPAが使われてきたが、現在は非構造化データを対象にして自ら判断してルールを作るClass2に当たるRPAが台頭しているところである。さらにClass3ではビッグデータ分析や機械学習を活用した本格的なAI(Cognitive Automation)に発展すると見込まれている。いまは人間がルールを与えるRPAから自らルールを作れるRPAへの発展の端緒についたところだ。

クラス別で見るRPAの過去と今後の展望 クラス別で見るRPAの過去と今後の展望

AI機能を活用できるRPA「ブレインロボ(BrainRobo)」

 ブレインパッドはRPAテクノロジーズとのパートナーシップにより、RPAサービス「Biz-Robo!」とブレインパッドのデータマイニング技術や分析アルゴリズムを組み合わせた「ブレインロボ(BrainRobo)」を提供している。

 画像認識、音声認識、自然言語処理、機械学習といったAI機能をRPA側から呼び出して活用できるサービスだ。これにより、従来の既存システムからのデータのみならず、会話データや映像データ、Web上のコンテンツなどを対象にして、判断を要するオペレーションや、学習結果によるアクションなどを可能にしている。

 ブレインロボと同社の自然言語処理エンジン「Mynd」との連携により、行政文書データからキーワードを抽出してデータベースに登録するといったシステムが実現している。最終的にはただ抽出するだけでなく、文書を要約し作成するところまでを視野に入れている。従来なら人間しかできなかった「読む」「調べる」「まとめる」という作業が、機械に取って代わるようになる。このような自然言語や画像認識の事例が他にもあるという。

ブレインロボ 画像認識、音声認識、自然言語処理、機械学習といったAIの機能を活用し、人の作業を自動化する「ブレインロボ」

カメラ画像を活用して来店客の行動を予測するCRM「おもてなしサポートシステム」

 また、事務作業を担うRPAとは別に、同社は接客業務を高度化するためのAIとロボティクスを活用した「おもてなしサポートシステム」の提供も開始している。これは、実店舗に来店した顧客の顔をカメラで識別する顔画像認識機能により、店舗の顧客データと照合し、その来店客の来店履歴や購入履歴、購入内容といった顧客情報がスマートフォンなどの端末を通じて店舗スタッフに通知されるというものだ。

おもてなしサポートシステム 顔画像認識機能によりサービスの向上と売り上げの拡大を実現する「おもてなしサポートシステム」

 顧客の重要度や嗜好などが把握できれば、より細やかな接客が行え、加えて商品のレコメンデーションも効果的に行えるなど、売り上げの拡大につなげられるというわけだ。多店舗展開しているお店やECサイトであっても、会員IDやWeb店舗のクッキーIDとひも付けて管理すれば、顧客行動の全てを知ることができる。

 ちなみに、このシステムのベースにはMicrosoftのAIソリューション「Microsoft Azure Cognitive Services」が利用されており、その画像認識の誤認識率は人間よりも低い。つまりその識別精度は店頭スタッフと同等以上の能力を備えていることになる。来店頻度が低い顧客でも、その顔や過去の購入履歴などは保持されている。接客という人間ならではの業務も、AIとロボティクスが高度化できるというわけだ。 

 AIは人間が機械に仕事をさせるための仕組みであるという基本に立ち返り、RPAやマーケティングシステムなどの「身体性」との組み合わせを考えると、ビジネスへのAI応用の道を具体的に考えやすくなる。サービスとして既に手近に利用できるものになったAI機能は、さまざまなビジネス課題を解決できるポテンシャルがある。過剰な夢や世間で言いはやされているバズワードに迷わされず、現実の課題に即して活用を考えたいものだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。