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地域金融の原点「地域から必要とされる存在」。朝日信用金庫のデジタライゼーションへの挑戦

» 2018年10月08日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

2018年9月25日〜28日に開催された「フィンサム2018&レグサム」(金融庁・日本経済新聞社主催)において、出席した金融庁担当の越智隆雄内閣府副大臣は「フィンテックがもたらすイノベーションの動きを推進、加速させていく」と発言。国を挙げて金融改革を促す姿勢を明らかにした。グローバルでキャッシュレス化が加速するなど、金融を取り巻く環境はいま、根底から変わろうとしている。確固とした基盤を持つ既存の金融機関においても、金融とITを融合させるフィンテックへの対応をはじめ、前例にとらわれない大胆な経営変革が求められている。

融資をはじめ、取引先開拓や事業承継の支援など、顧客が金融機関に求めるニーズへ的確に応えるには「人と人」の信頼関係構築が何より重要となる。少子高齢化に伴い、採用難も深刻化する現在、現有勢力をフロント業務で最大限に生かすためのバックオフィス効率化は喫緊の課題であり、特に即効性のあるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化への期待は高い。

東京都区部と、隣接する千葉・埼玉両県を基盤とする地域金融機関の朝日信用金庫(東京都台東区)は2018年4月、本部組織を横断した「RPA推進プロジェクト」を創設。職員およそ1,400人のうち300人弱が従事するバックオフィス業務について、同年内に全部署でのRPA導入を予定している。ここで採用されているのが、ベリントシステムズジャパン株式会社(東京都千代田区)の「Verint RPA」だ。時代の変化に合わせ自らの改革を積極的に推進する同庫に、RPAをはじめとするデジタライゼーションの取り組みの背景、そしてその先に見える狙いについて聞いた。

(右から)朝日信用金庫 専務理事 三澤敏幸氏、ITイノベーション企画室 室長 横江俊彦氏

RPA選定の決め手、スキルを問わない「現場主導」と「保守負担の低減」

同庫は、2017年4月にスタートした3カ年計画で「地域から真に必要とされる金融機関」をスローガンに掲げ、営業拠点の強化などに取り組んでいる。並行して進める「生産性の向上と業務の効率化に向けた業務フロー改革の推進」では、国内金融機関で初となる「国税関係書類の電子文書への全面移行」といった成果も達成した。

こうした業務フロー改革の一環として、RPAの導入を3カ年計画の開始直後から検討してきたという。その背景について、専務理事の三澤敏幸氏は次のように振り返る。

「当金庫では、大規模なシステムに直接関係する業務がほぼ自動化されているのに対し、複数のシステム間にわたってデータの連携・集計を行うといった細かい業務では、なお多くの手作業が残っていました。IT投資も困難なこれらの領域は、業務の実態に即して現場主導で効率化していく必要があります。ただ一方、そこで用いるツールの将来的な保守に要する負担も考えなくてはなりませんでした」

いくつかの製品の中からVerint RPAを選択したのは、こうした「現場主導」「保守負担の低減」という2つの要件を満たしていることにあった。ツール選定の過程で最終候補に残った2種類を、実際に本部の事務部門で働く職員が3ヶ月間にわたって試用したところ、同製品に対し「使いやすい」との評価が集中。さらに、現場による運用のサポート役となるシステム部門の若手職員からも「エンジニア視点の使い勝手では他社製品が勝るかもしれないが、ユーザー視点では、重要な機能に絞り込んでスキルを問わない操作性を実現したVerint RPAのほうが適切」と評価されたことが決め手になったという。

2018年1月からテスト運用を開始した同庫のRPAは、ツールの実行環境をサーバー上に構築。これに接続して利用できるPCを、事務管理部門である「朝日信用金庫 日暮里センター」(東京都荒川区)に設け、導入効果の実証を行った。現在は、本部機能を置く千代田区の拠点を中心にRPA推進プロジェクトを展開、経営管理部門に属する「総合企画部ITイノベーション企画室」が統括している。経営管理部門のほか、営業推進部門、審査部門、国際業務部門などへの導入も順次行う予定だ。

定量的な導入効果も、続々と現れている。たとえば、営業店の業務処理水準を計量化する「事務向上管理指標」の作成業務では、業績評価の資料として営業店ごとの総合得点を算出する業務にRPAを採用。各店舗の実績を17の分野別に集計・検証するため、それまで職員2人が1日がかりで行っていた作業のうち、75%にあたる15時間分の作業をロボットで代替し、大幅な時間削減を達成した。

日次業務では、その日の営業実績のうち経営管理報告に必要な指標を翌朝抽出して社内メールで関係者に配信する約1時間の業務をRPA化した。これにより、従来この業務を自身の本来業務に先だって処理していた職員は、朝の時間に余裕を持てるようになったという。

RPA化の対象業務選定や実装は、ITイノベーション企画室のスタッフ4人で行い、システムとの連携を伴う実装などではエス・アンド・アイ株式会社からの技術支援も得ている。「現場から『仕事を取られるのでは』という心理的な抵抗感が生まれないよう、対象業務が決まるたびに担当者の机に出向き、ツールを実際に動かしながら『今ある仕事をラクにしよう』と説明して協力を得ています。そうした取り組みの中で、業務の成果物だけでなくインプットとしてどのようなデータを参照しているかが可視化され、周辺業務まで含めたフローの見直しが可能になってきました」と、同室室長の横江俊彦氏は説明する。

RPAを導入した現場では、ITリテラシーの全くない新人を担当に充てても十分操作ができ、業務効率化の成果が確実に出ている。ユーザー視点での操作性を重視したVerint RPAの選択は見事に的中したようだ。

RPA導入推進プロジェクトを進める過程では、対象業務の検討と併せて、特に「部署をまたぐ業務フローの見直し」にも力が入れられている。これは、担当者レベルで見ている日常的な業務範囲からは見えてこなかったムダが浮き彫りになるためだという。

「例えば、他部署へ定期的に送っている資料の中に、その部署から取り寄せたデータを載せていたことが分かって、その作業自体をなくしたケースもあります。RPAの導入は、組織に横串を入れ、全体最適が図られた業務フローにブラッシュアップするための絶好の機会となります」(三澤氏)

生産性向上の鍵は、テクノロジーの併用

自身もシステム開発経験を持つ三澤氏は、RPAの特徴の1つとして「他のテクノロジーとの併用」を挙げる。定型的な作業を実行するRPAの機能だけで業務プロセスを全面的に自動化しようとするのは無理が大きく、応用できる範囲も狭くなる。そこで異なる特徴を持ついくつかのツールとRPAを組み合わせることによって、自動化可能な領域を広げられるという。

こうした併用のメリットは、すでに紙文書のデータ化において発揮されている。「電子文書化の取り組みで、われわれはOCR(光学文字認識)に関する多くの知見を得ています。この知見を、RPAとの連携にも生かしています。手作業が残る業務においては、外部とのやりとりなどで紙文書をなくせないことが自動化の障害となるケースが多いですが、紙をスキャンし、OCRでデジタルデータにすれば、以後の処理はRPAによる自動化が可能。そこで現在、請求書をもとにした支払データの自動作成などにも取り組んでいるところです」(三澤氏)

さらに同庫は、RPAとコグニティブの連携にも期待をかけている。2017年から導入し、内部的な事務問い合わせへの対応に用いている意思決定支援システム「IBM Watson」を今後、業務フローにも積極的に採り入れる構想で、具体的には「RPAがデータを自動処理する前の目視確認」などをコグニティブで代替していくプランを描く。

「特定の業務を学習させたWatsonは、渡されたデータがある基準に合致するか判断できるようになるので、OCRでデータ化した紙文書の内容が正しく変換されているかどうかの照合も任せられると考えています。理想は『その日に貯まった処理を機械にかけて退社し、翌朝来ると終わっている』『人間は、自動処理でエラーが出ていないか確認するだけ』という状態。作業工程の途中で『確認してクリック』が必要な現状から、早く次の段階に進化させたいと考えています」と三澤氏は語る。

Watsonの運用にも関わっている横江氏によると、特定の業務に合わせてWatsonを学習させるには、いわば“まっさら”な状態からのスタートとなり「ある場面でどうするか」という大量の答を与えていくことになる。コグニティブを実用水準に育て上げるまで、膨大なデータを収集し、さらに整理するプロセスが欠かせないだけに、コグニティブとの「併用」に先立つ「教育」の場面においても、RPAの能力を生かせる場面がありそうだ。

「私の頭の中には、RPAとWatsonによる完全自動化のイメージが明確にあります。そこにたどり着くまでに手戻りを起こさないよう、まずは一歩一歩着実にRPA化を進めていくつもりです」と三澤氏。毎週開いているRPA推進プロジェクトのミーティングで高いモチベーションを保ち、導入対象も日次から週次、さらに月次業務へと拡大。2018年内には本部内全部署でRPA導入を完了させることを目標に、取り組みは今後、さらに加速していく。

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