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空前の人手不足。物流の現場にRPAができること―日商エレクトロニクス主催セミナーレポート

» 2018年10月20日 10時00分 公開
[相馬大輔ITmedia]

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ドライバーなどの現業に加え、事務の人手不足も顕在化している物流業界では現在、定型的なデスクワークをソフトウエアで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入検討が活発化している。導入が先行した米国では、大規模な実績をもとに相性のよい業務を「集荷受け付け」「請求と債権回収」「受取証のデータ化とシステムへの反映」と具体的に挙げるベンダーもあり、今後国内でもこれらの領域で「デジタルレイバー」の活躍が進むとみられる。

では、今まさに自社のロボット化を模索している日本企業はいったいどのような課題と直面し、それらはいかに解決しうるのだろうか。グループ内で試行を重ねながらRPA導入支援事業を展開するIT専門商社・日商エレクトロニクス株式会社(東京都千代田区)がさる9月20日に同社で開いた「物流業務、請求書処理業務の自動化を実演!『RPA×AI-OCR超実践セミナー』」の模様から、最前線の生の声と、最新の知見を紹介する。

「バラバラの書式を統一しないと、自動処理できない?」

この日のセミナーには、物流企業や商社などから100名近くが詰めかけた。登壇した1人、総合商社の双日株式会社においてRPA推進プロジェクトを率いる石井俊樹氏は、子会社である日商エレクトロニクスと共同でロボット化に取り組む現況を報告した。

自社における成功事例として石井氏は、ロボットの活用で1件あたりの処理時間が従来の30分の1以下に短縮できたケースを紹介した。これは輸出入の決済手段であるL/C(信用状)に関連した業務で、具体的には、銀行が発行したL/Cの内容を自社の会計システムに転記する一連の作業をRPAで自動化したという。

発表後の質疑の場では、くしくも同じL/C関連で自動化を検討中という同業からの参加者が挙手。L/Cの基礎になる取引で、発注書の書式が統一されていない現状を踏まえ「作業を自動化するにあたり、フォーマットの統一にどこまで踏み込むべきか」と疑問を打ち明けた。

これに対し石井氏は「当社で最初の導入部署には書式のばらつきがなかった」と回答。もっとも、発注書のフォーマットが異なる他部署にも同じ仕組みを横展開できるよう当初から準備を進めており、複数書式が混在する環境にも対応可能として、その仕組みを解説した。

石井氏が明かした仕組みとは、ロボットの「部品化」だ。これは、対象業務の全てをカバーするロボットをカスタムメイドするのではなく、あらかじめ単機能のロボットを多数そろえ、極力それらの組み合わせで実装するコンセプトで、双日が導入したRPAツール「BluePrism」が推奨する手法でもある。

部品化したロボットの活用が進むにつれ「使い回し」で実装できる範囲が広がるため、開発負担が徐々に低減していくほか、共通部分を一斉にアップデートすることで保守性も向上する。開発・保守両面で省力化するぶん、書式を統一しきれない業務についてもロボット化を検討できる余裕が生まれるというわけだ。

ただし、必ずしも可能な全ての場合に共通化を行うのではなく、実態に合わせて柔軟に判断しているという。石井氏は「『部品化で統一できなくもないが、それぞれ少しずつ不便になる作業』ではカスタムメイドを残し、一部の共通化に留めることもある」と補足していた。

「ロボットは、本当に24時間・365日働かせられるの?」

現在RPAが人気を得ている一因には、業務効率化を図るツールの中でも比較的リーズナブルなことが挙げられる。ただ、ツールのライセンス費用に加えて実行環境の構築や従業員への教育なども含めた初期費用全体も考えると、ROI(費用対効果)は気になるところだ。

この点についてセミナーでは、日商エレクトロニクスの青木俊氏(ビジネス・プラットフォーム部門デジタライゼーション本部デジタルレイバー推進室部長)が解説。初期投資の回収を念頭に置いた場合、ロボットでフルタイム従業員5人分に相当する「年間10,000時間相当」の効率化をいかに早く達成するかが指標になると述べた。

青木氏はまた、多くのRPAツールにおいてライセンス費用が「同時稼働可能数ベースの年額」で算定されており、また人間にとって難しい「夜間」「休日」の「連続勤務」はロボットの独擅場であることを指摘。ROIを向上させる上でも、終日にわたってロボットを極力遊ばせず、空き時間を仕事で埋めていくことが重要だと説いた。

最終的にロボットの24時間・365日稼働を理想とする説明を受け、会場からは「夜間のロボット稼働をどう管理すればよいか」との質問が寄せられた。これに対して青木氏は自社での取り組みをもとに「営業時間に追加された情報をロボットが夜間ダウンロードし、Excelの集計表にまとめる例などが出始めたが、現状で任せている仕事は『朝来て止まっていたら、代わりに人間がやっても間に合う程度』のもの」と回答。ロボットを終日稼働させる上で技術上の障害は少ない一方、処理させる作業に関係した人間の業務を再構築(BPR)していく必要が出てくると解説した。

「OCRの読み取り結果を、人がチェックしないで大丈夫?」

物流業界では今なお、紙帳票やファクス、またそれらをスキャンしたPDFからの手入力によるデータ登録作業が多く残されている。記載を正しく読み取り、内容を整理する技術的なハードルが高く、従来効率化が難しかった領域だが、ここへ来て人工知能で精度を向上させた「AI-OCR」が出現。いよいよ実用可能な自動化手法として脚光を浴びている。

今回のセミナーでも、RPAツールのBluePrismと、非定型帳票の認識に強みを持つAI-OCRソフト「ABBYY FlexiCapture」を組み合わせたソリューションが登場。日商エレクトロニクスの経理実務をモデルにした支払処理業務の自動化として、単一の設定から複数様式の請求書を判別し、読み取り結果を承認待ちデータとして基幹システムに登録する様子が披露された。

ただ、ここで考えなければならないのが「完璧に近づきつつあるAI-OCRの認識結果を、現場でどう取り扱うか」という問題だ。まだ手放しで信頼を置くには早いものの、読み取り結果を全件目視で確認するとなると、効率化の効果が大きく損なわれてしまうからだ。

OCRソフトが「自己申告」する読み取り結果の信頼度にかかわらず「“正解”との照合は常に必要では」と質した参加者に対して青木氏は、この日披露した仕組みにおいては請求書の読み取り結果を、それと一致するはずの支払予定データベースと照合していると説明。用途と工夫次第で、目検以外の照合方法でも信頼性が保たれることを強調した。

また会場からは「稼働中の誤認識からの学習で、精度はどれだけ向上するか」との質問も寄せられ、青木氏は「誤読からの学習機能を備えている、あるAI-OCRサービスをテストした際は、半年あまりの運用の前後で書式が共通する別のサンプルを読ませたところ、最大15%精度が向上していた」と回答した。

「ロボットを業務部門でつくるのは現実的?」

セミナーではこのほか、サービス品質の向上と業務効率化をRPAで両立させた例として、日商エレクトロニクスの物流拠点で導入されているピッキングリスト印刷自動化ソリューションのデモンストレーションも行われた。

このソリューションは、15分ごとに基幹システムへアクセスし、出荷依頼がある場合は7種類の出荷関連帳票を印刷。さらにExcelの台帳を更新し、出荷業務担当者に印刷結果を知らせるメールを送るまで一連の作業をBluePrismで自動化している。年間7,000回にのぼる手作業がなくなり、作業の所要時間は3分の1に短縮。年間約400時間の余力が創出された。

ロボットの実装は、BluePrismの講習を1度受講しただけの従業員が初めて担当。企画から完成までに要した期間はわずか18.5日だったという。

日商エレクトロニクスでは現在、システム部門が一元的にロボットの作成を担当している。RPAのコンセプトに「現場主導」が掲げられることもあり、会場からは「現場で実装を行う予定は」との質問が寄せられた。

これに対し青木氏は「現場の担当者による実装を試したこともあるが、うまくいかなかったというのが結論。というのも、こうした分野が得意な従業員は全体の約2割で、その人の担当業務だけロボット化される不ぞろいな状況になったためだ」と回答。双日の石井氏も「当社でも現場向けにRPAツールの講習会をしたが、操作できたのは1割ほど。ロボットをつくりたいという機運も薄かったため、作成専門のチームを設けることにした」と振り返った。

言うまでもなく両社はいずれも、現場の業務でRPAを活用し、定着させるという本来の目的は十分達成している。現場主導によるロボット化とはいえ、現場での実装による内製が必須というわけではないようだ。

この日のセミナーでは、RPAという「仮想」のロボットについて活用法が探られたが、現物を動かす物流の現場では省人化・省力化を目的に、IoTやメカトロニクスを応用した「リアル」なロボットの導入も進んでいる。

セミナー冒頭で基調講演に立った鍋野敬一郎氏(株式会社フロンティアワン社長)はこうした流れを整理した上で、荷積み業務の習熟を早める目的でAR(拡張現実)の活用が進むなど、人間も「仮想」の世界に融合し始めていると指摘。さらに、リアルなロボットとRPAによる連携も進むと予測した。

「働き方改革、人手不足対応という喫緊の課題を、1つで全部解決してくれるソリューションはない。急成長するテクノロジーをまず触ってみて、どんどん組み合わせを変えながら使いこなしてほしい」と鍋野氏。部品化が有効な「RPAの活用」にとどまらず、周辺領域を取り込んだ「RPAとの活用」においても、“組み合わせの妙”こそが課題解決への近道といえそうだ。

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