想定を超える人気のため出荷時期を変更したことで話題の2in1 PC。目新しい入力技術に注目が集まるが、実はその裏側で利用者の生産性向上を追求し、認知科学の成果を貪欲に取り込む技術者、研究者の本気が垣間見られるすごい成果が搭載されていた。
レノボ「Yoga Book」シリーズの最新モデル「Yoga Book C930」は、いわゆる2in1 PCで液晶サイズは10.8型。2018年10月4日に発表、10月12日には販売を予定したものの、あまりの人気に発売が12月までずれ込んだという良い意味で「いわく付き」の製品だ。
発売延期になるほどの大きな人気を呼んだ要因は、二つ折りの筐体のキーボード側にある。通常なら物理キーボードがある位置にE Inkを採用した「スクリーンキーボード」を採用しているのだ。E Inkスクリーン面には疑似キーボードが表示され、ユーザーはそれを疑似的にたたいて文字を入力する。その際、表示されたキートップはアニメーションによる動作の表現があり、バイブレーションによる触覚フィードバックもある。あたかも物理的なキーボードをたたているかのような感覚を味わえる。E Inkスクリーンではスタイラスペンを使って手書きメモが可能だったり、電子ブックリーダーの画面として使えたりもするのだ。
Yoga Book C930のその他の詳細なスペックなどはここでは割愛するが、このスクリーンキーボードに込めたレノボ大和研究所の心意気を紹介したい。
本稿はレノボ・ジャパン主催のプレスイベント「Yoga Book C930 Tech Talk」(2018年12月18日)を基に再構成したものです。
レノボは世界6カ所に研究開発拠点「Lenovo Research」を持つ。そのうちの1つが「横浜事業所大和研究所」内に設けられている。
ご存じの方も少なくないだろうが「大和研究所」は、かつてIBMの研究所があった「大和」の名を冠することからも分かるように、IBM時代の研究資産を引き継いだ組織だ。3〜5年先を見据えた最新テクノロジー、特に次世代スマートデバイス研究に注力しており、技術提案も行う。
Lenovo Research Principal Researcherの河野 誠一氏によると「ThinkPadに搭載された『オウルファン(ふくろうファン)』や『ThinkVantage Rescue & Recovery』、HDDを保護する『APS(Active Protection System)』などもLenovo Researchの成果だ」という。Yoga Book C930のスクリーンキーボード、正式名称「Haloキーボード」もLenovo Researchが中心となって開発したものだ。
Haloキーボード開発の中心人物はLenovo Research Advisory Researcherの戸田良太氏だ。
前述の通り、Yoga Book C930にはE Inkとタッチパネルによる仮想キーボードを実現した「Haloキーボード」が採用されている。
戸田氏によると「2016年6月ぐらいからE Inkデバイスと液晶ディスプレイを採用した製品の試作が行われていた」という。その後同システムを採用した初代「YOGA BOOK」が2016年10月に発売され、さらなる改良が加えられたYoga Book C930に2世代目となるHaloキーボードが搭載された。
初代YOGA BOOKに搭載された初代のHaloキーボードでE Inkによるキーボードの表示とタッチ操作の処理をWindowsで動作するソフトウェアで実行していた。そのためCPUの負荷が高まるとどうしてもキーボード入力の処理が遅延してもたつく欠点があった。そこで第2世代のHaloキーボードでは、キーボード表示、アニメーション表示、タッチ入力対応などの処理を、Haloキーボード側に実装されたハードウェアで実行する設計に変更した。この改良によって安定して高速なキー入力が可能になった。仕様は変更したが、OS(Windows)側から見ればUSB接続の一般的な物理キーボードとして認識されるため、周辺システムに大きな影響はない。
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