戸田氏は「Lenovo Researchによる性能評価では490WPM(編注:1分あたりの文字入力数)を実現している」と胸を張る。タイピングの世界記録は256WPM程度の速度だというから、誰が仮想キーボードをたたいたとしても、文字入力に遅延は発生しないことになる。さらに性能が向上したことで、「フィンガーレスト」(キートップを押さずに指を添えている状態、キートップに触れるが入力はしていない)の挙動にも問題なく対応できるようになった。
筆者もこのイベントで実際にHaloキーボードを操作してみたが、リアルな打鍵感が味わえることに驚いた。その感覚を支える技術が「クロスモーダルフィードバックだ」と戸田氏は解説する。
クロスモーダルフィードバックとは、複数の仮想的な知覚フィードバックを与えることで、よりリアルに近い感覚を生む手法として知られる。VR技術と併用されることも多い。
戸田氏はVR関連技術の研究で知られる東京大学の鳴海拓志氏による「Meta Cookie」の研究を例に挙げ、「VRでチョコクッキーを表示し、チョコレートの香りを嗅ぎながら普通のクッキーを食べると人間はチョコクッキーを食べている錯覚する。複数の知覚によって人間の"知覚の補完機能"が働く」と解説、Haloキーボードのリアルな打鍵感は複数の仮想的な知覚が生み出していると明かした。
ユーザーがHaloキーボードに表示された仮想キーを押下すると、キートップが押下されたようなアニメーションを表示して視覚を刺激する。この時、同時に聴覚にはキータイプ音が耳に聞こえる。触覚にはバイブレーションを使った振動が伝えられる。これらの複数の知覚によって、ユーザーはリアルなタイピング体験を得られる(得てしまう)。
「アニメーション、タイプ音や振動についてのタイミングや強弱についても細かい調整を行い、ユーザーにとってベストな生産性になるようにチューニングした」(戸田氏)
確かに視覚など複数の感覚器官に訴えかけることが心地よさにつながっているのかもしれない。しかし、タッチタイプを行う場合、キートップ押下のアニメーションは不要なように思える。
この点については戸田氏らも実際に調査したというが、非常に興味深いことに、たとえタッチタイプの達人だとしてもアニメーションが表示された方が生産性が向上することが分かったという。これが最終製品で「アニメーション+打鍵音+振動」という3つのフィードバックを採用した理由だ。
Haloキーボードは初代の頃からタイピングのクセを学習する「E-VL(Ergonomic-Virtual Layout)」機能を搭載する。キートップから若干外れた位置をタイプした場合でもそれを拾って調整し、意図しないミスタイプを極力減らす機能だ。
仮想キーボードの表示は変わらないものの、ユーザーのクセに合わせて特定のキーが反応する範囲を大きくするようなチューニングを自動で行っていると考えればいいだろう。第2世代Haloキーボードではその機能がより向上し、初代に比べてタイピングの正確性が22%も向上したという(クセを学習するがキーロガー的な機能は持たない)。
Haloキーボードは、キーボードだけでなく一般的な「タッチパッド」と同様に動作する領域もある。このタッチパッド部分はWindowsの「高精度タッチパッド」準拠になっており、複数の指先による操作やジェスチャー操作に対応する。
実はこの機能も仮想キーボードでは世界初の実装だという。
この他にも静電容量センサーを搭載、仮想的に感圧操作ができるため、一本指でもドラッグアンドドロップ操作が可能だ。ちなみに仮想キーボード上でキーとタッチパッドを明確に区分するために、タッチパッド領域の端に指が当たると振動でその境界をユーザーに知らせる「バーチャルボーダー」機能も搭載する。
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