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「パワハラで訴訟」の事例で学ぶ、部下指導4つのポイントこうして職場が病んでいく

上司Xは、指導がもとで部下Aに「パワハラだ」と訴えられました。しかし、裁判では「無罪」という判決が出ています。「指導」と「パワハラ」を分ける指標とは何なのか、実例をもとに解説します。

» 2019年03月14日 10時00分 公開
[パナソニック ソリューションテクノロジー]

著者紹介:村田佳子

村田佳子

2006年から、コーチング研修やインストラクター育成を担当。「部下を元気にする」ための研修を新任管理者向けに多数実施。豊富な教育設計の経験を生かし、さまざまなeラーニング教材を開発、受講者から「学んでよかった」と思われる設計ノウハウを指導している。見るのもやるのもゴルフが趣味。競技大会で予選突破することが現在の目標。


 近年、ハラスメントに関する記事をよく見かけます。スポーツ界におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)の実態を報じたニュースは世間に衝撃を与えました。企業でもパワハラが起こらないために研修会を行うなど、防止活動が活発化しています。

 現場で指揮を取るリーダーは、時として部下を厳しくしからざるを得ないこともあるでしょう。しかし、部下から「これってパワハラですよ。訴えますよ」と逆襲があったのでは怖くて指導することさえできません。一体、どうすれば良いのでしょうか?

図1 「指導」と「パワハラ」の境界線は?

 まずは、「指導」と「パワハラ」の境界線を明確に知ることが重要です。次の例を見てみましょう。上司の厳しい叱責(しっせき)がパワハラであるとして部下が訴訟を起こしたものの、裁判で上司の言動が「正当な部下指導の範囲であった」と判断され、無罪になった実際の事例をアレンジしてご紹介します。「指導」と「パワハラ」を分けた要因は何だったのでしょうか。

「パワハラで訴訟」から無罪に至った上司Xの例

 建設業を営むY社のとある営業所での出来事です。

 この営業所は2000万円近い負債がありました。営業所長であるA氏は自身の業績を良く見せようと、担当者に架空出来高の計上などの不正経理を命じていたといいます。

 それを知った上司Xは、Aに対し1年間で不正経理を是正するよう指示しました。しかし、Aは漫然と不正を継続したのです。見かねた上司Xは「こんなことをしても意味がない、会社を辞めればいいと思っているかもしれないが、辞めても楽にはならないぞ!」と叱責。また、「全員が力を合わせて返済していこう!」と他社員に対しても叱咤(しった)激励をしました。しかし、A氏は繰り返される上司からの指導をストレスに感じ、結果的にメンタルヘルス不調と認定されたのです。

 この判例の第一審(地方裁判所)では、上司の叱責が部下のメンタルヘルス不調を生じさせたとして「上司Xの行動はパワハラである」と判断されました。しかし、第二審の高等裁判所では、上司の言動は正当な職務範囲内での指導であり、過剰なノルマ達成の強要や執拗(しつよう)な叱責には当たらないとして「パワハラではない」という判断になったのです。

「指導」と「パワハラ」を分ける、4つの視点

 なぜ上司Xの厳しい叱責は、パワハラではなく正しい指導の範囲だと見なされたのでしょうか。判断のポイントは以下の4つです。

1.職務にかかわる内容である

不正行為に対する叱責は、上司としてなすべき正当な行為で職務上必要な範囲であった。

2.指示が具体的である

「辞めても楽にはならんぞ」といった点は感情的であったが、その前に架空出来高の解消の仕方を具体的に指示していたことにより、発言に具体性があったと判断された。

3.合理的である

過剰なノルマ達成の強要があったかという点は、一審と二審で判断が分かれた。しかし、A氏への叱責は不正行為を是正するためになされた指示であったため、上司の言動は合理的だと見なされた。

4.平等である

上司Xは借金について「全員で力を合わせてがんばって返済していこう」と叱咤激励していることから、A氏だけに負担を押し付けてはおらず、部下全員に対して平等な態度であったと評価された。

図2 「指導」と「パワハラ」の境界線〜4つの視点

 結果的に、この事例ではパワハラに該当しないという判決が下りました。しかし、判決が紙一重であったことは間違いありません。仮に、上司XがA氏の人間性を汚してしまうような発言をしていたり(1.職務に関連しない)、具体的な対策を示さず、感情的になって罵倒したり(2.感情的)、他の社員がいるにもかかわらず大声で長々と怒鳴ったり、暴力を振るうなどの行き過ぎた行動をとったり(3.不合理)、A氏だけにその責任を押し付けていたりすれば(4.不平等)、判決が変わっていたかもしれません。

 大切なのは、「しかる」という行為が、「職務に必要な範囲」のことであり、「具体的な指示」を伴い、「合理的に」行われ、ある人だけに向けられたものではなく「平等」性があることです。つまり、ポイントは以下の4つです。


  1. 職務上必要 or 職務に関連しない
  2. 具体的 or 感情的
  3. 合理的 or 不合理
  4. 平等 or 不平等

 責任者は、事業目標達成のために多くのストレスを抱えています。そのストレスを部下にぶつけ、感情的に接してしまえば、その言動はパワハラになるでしょう。上司も人間ですから、時として感情的になるのは仕方ありません。そんな時は、その気持ちを客観的に見つめ、冷静な判断が取れるよう、一呼吸置くようにしましょう。きっと合理的な対応ができるはずです。

※鳩谷・別城・山浦法律事務所の山浦 美卯弁護士に監修していただいているパナソニック ソリューションテクノロジー株式会社提供のハラスメント防止eラーニング講座より抜粋

企業紹介:パナソニック ソリューションテクノロジー

パナソニック ソリューションテクノロジーは本格的なICT時代の幕開け前から30年にわたり、IT基盤の設計・構築、ソフトウェア、SIサービスでお客さまの業務課題解決に努めてきました。さらにICTシステムの設計・構築を起点に、Al・データ分析、IoT、働き方改革、そしてBPOまで分野を広げています。製造業や建設・物流・金融・エネルギー・自治体など、さまざまな業界・業務の知見を基としたソリューションで、お客さまの仕事の仕方・プロセスを加速度的に変え、成長につなげていきます。

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