ファイルサーバでのデータ共有に限界を感じていたポケモンのBox導入の裏側を同社のIT部門が明かした。Boxと連携すると便利な外部ツール、複数のクラウドストレージの使い分けといった「試行錯誤の上で見いだした」ポイントも伝授する。
数十TBにも上るポケモンキャラクターのデータをどう管理し、共有するのか――この課題をクラウドストレージによって解決しようと挑むポケモンは、「G Suite」ユーザーでもあるにもかかわらず、「Googleドライブ」ではなくあえて「Box」を導入した。
なぜオンプレミスのファイルサーバや「Google ドライブ」ではいけなかったのか。そんな疑問に同社のエンジニアが答えた。
ポケモンは、ポケモンキャラクターの知的財産権を保有、管理する「ポケモンプロデュース」会社。スマートフォンゲーム「Pokemon GO」の例をはじめとして、ポケモンキャラクターを国内外で活用してもらえるよう取り組む。
同社は大量のキャラクターデータの管理、共有に頭を悩ませていた。例えば、ピカチュウの画像、映像データは、表情や動作、シチュエーションでデータを分け、それぞれ個別にファイルに収めているが、一つ一つのデータサイズが大きく数も多い。
同社は世界に顧客とパートナー企業を抱え、頻繁にデータのやりとりをするが、「海外の顧客へ40GBもの大容量ファイルを送らなければならないときもあります」と同社IT部門の関 剛氏(開発事業本部システム部/開発プロデュース部 テクニカルディレクター インフラエンジニア)は話す。
従来、社内外でのファイルのやりとりは、オンプレミスのデータ共有専用ファイルサーバを利用していた。ZIPファイルをメールに添付することもあったという。
ファイルサーバ運用の問題点は、故障時対応の負荷とバックアップなどの運用管理だ。故障が発生するとベンダーへの連絡やデータセンターへの入館申請などの手間がかかる。また数十TBに及ぶデータのテープバックアップには所要時間がかかり、ディスクでバックアップしようとすればコストがかさむ。ストレージやサーバを拡張する際のサイジング設計にも工数がかかっていた。
またメールでのZIPファイルのやりとりは、データを一元管理できず、やりとりの証跡も管理できない。別メールでパスワードを通知する運用は従業員の手間になるだけでなく、機密保持という観点で不安がある。また、一時的なデータ置き場として外部へデータ送受信専用のサーバも用意していたが、ユーザーアカウントの管理やパスワードリカバリーなどのサポートに負荷がかかっていた。
「当社ではプロジェクトごとに複数の取引先があり、新規の取引先も増加しています。グローバルに広がる顧客やパートナー企業と、簡単でセキュアにファイルを共有する方法が求められていました」(関氏)
ポケモンは業務プラットフォームにG Suiteを利用していたため、Google ドライブは利用できる環境にあった。データセンタークラスの品質の1Gbps専用線を用いており、社外ネットワークとの接続にも不安はない。そこで、当初はオンプレミスのファイルサーバをGoogle ドライブに移行したいと考えた。しかしGoogle ドライブは、同社のニーズに合わない部分があったという。
例えばGoogle ドライブの権限管理は、ファイルのオーナーが共有を許可する仕組みだが、同社は異動が頻繁にあり、その度にオーナー権限を他の人に委譲しなければならない。これをファイルごとに行う手間と時間が問題だった。
個人用の「マイドライブ」から「共有ドライブ」にデータを移行する際に、処理の進行を示すプログレス表示がなく、エラーが起きても分からない。さらに容量制限も問題になったという。
「Google ドライブは、ファイル数にして40万ファイルまで、ファイル階層は20階層まで、データのアップロードは1アカウント当たり1日に750GBまでという制限があります。通常の運用ではそこまで問題になりませんが、IT部門のサポートが必要な際に、すぐに対応できなかったり手間がかかったりすることがありました」(関氏)
課題を解決するべく、同社はオンプレミスファイルサーバとGoogleドライブ運用の一部をBoxに移行した。Boxについて、「活用してきたWindowsベースのファイルサーバと同様のアクセス管理と制御機能がある」「特定の相手に対して公開するファイルに電子透かし(ウオーターマーク)を簡単に付加できる」「Boxのコラボレータ機能により、外部のユーザーを自由に招待できる」「法人向けはデータ容量が無制限」「詳細なログが取得できる」といった点を評価したという。
しかし、簡単に導入できたわけではない。関氏はアクセス権限管理や、ファイルサーバからのデータ移行に際して、さまざまな工夫をこらしたと打ち明けた。
アクセス権限管理に関しては、APIを利用して従来のファイルサーバと同様の権限を付与できたが、APIを駆使できる人材がおらず、管理負荷が増大する不安があった。そこで、外部ツールである三井情報の「楽オペ for Box」を導入。Active Directoryと連携させることで、容易にプロビジョニングできるようになった。組織グループ名も一括で変更でき、組織変更時の負荷が軽減した。
ファイルサーバからデータを移行する際も課題があった。例えば、画面からドラッグ&ドロップで大容量のファイルを移動させるとエラーが生じやすく、操作をやり直さなければならない。エラーを検出し、移行結果の正当性を検証するために、ジャングルの「Data Migration Box」を導入した。
Data Migration BoxはGUI操作でファイルをコピーでき、移行対象外のフォルダも例外的に指定できる。移行後のファイルの正当性をハッシュ比較により確認する機能も搭載していて、移行の正当性も簡単に確認できた。さらに「どこでエラーが起きたか」などの問題を特定したい場合は、ログを確認すればよいという。
Boxを導入するメリットについて関氏は、複数のファイルサーバからデータを移行でき、ファイルサーバを廃止できる見通しが立った上、運用管理やセキュリティの課題も解消されたと話す。
「Boxの詳細なログ取得機能などによってGDPR(一般データ保護規則)にも対処でき、海外企業とのデータのやりとりが安心になりました。その他、ファイルへのタグ付けによって、ファイルサーバ使用時よりも高速にコンテンツを検索できます。例えば、ポケモン名などをタグ付けすれば、画像もすぐに検索できます」(関氏)
ただし当面は、Google ドライブも併用する。Boxは、一度にアップロードできるファイルサイズが最大15GBと決められているため、これを超える容量のファイルはGoogle ドライブで共有する。顧客やパートナーがGoogle ドライブを利用できる場合も同様だ。社内ユーザーの業務によって、両者の使い分けを推奨するケースもあるという。
なお、関氏はBoxに改善してほしいこととして、Adobe製品で作成したファイルのプレビューが見にくい点、外部のデータ共有先を管理できない点を挙げた。共有先のアカウントについて、二要素認証の強制といったセキュリティ機能の使用をコントロールできない点も課題とのことだ。
今後の展開としては「当社で導入しているSaaSのストレージとしてBoxを利用したい。既にレビューツール『Brushup』との連携を実現している」と述べ、講演を締めくくった。
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