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RPAを現場主導で導入した企業が陥りやすい落とし穴とは

RPAを現場主導で導入した企業ではRPAの効果を継続的に出すために重要な「あること」が欠けている傾向にあります。それは何か、誰が率先してやるべきことなのか――解説します。

» 2019年09月27日 10時00分 公開
[秋葉尊オデッセイ]

 前回前々回と2回にわたり、RPAの導入効果を最大化させるポイントを紹介した。今回は、RPAを導入後も継続的に効果を出し続けるために、考えておくべきことを紹介したい。

 RPA導入プロジェクトにおいて、各職場に配置したロボットが機能し、想定以上に業務を効率化できたとする。RPA導入プロジェクトを推進してきた担当者としては、これまでの苦労が報われたと安堵するタイミングだろう。しかしRPAプロジェクトの成功へは、まだ道半ばだ。RPAの導入効果を継続的に享受していくためには2つの重要なポイントがある。

ロボットプロファイル情報の管理を徹底する

 一つは、人事情報のようにロボットに関する情報が網羅された、人材プロファイルならぬロボットプロファイル情報の管理だ。導入したロボットがどこの部門でどのような業務を担当しているのかを一元的に把握できているRPAユーザーは意外に少ない。これは、RPAを現場主導で導入した企業で特に多く見られる傾向だ。ロボットのプロファイル情報を管理できていないことがRPAの導入効果を継続的に出せない原因の1つとも考えられる。

 ロボットプロファイル情報の用途はさまざまだが、主にロボットを安定的に運用するために活用する。ロボットは、現時点で人間のように学習してその経験を業務に生かすことができず、状況に応じて人間がフォローする必要があり、その際にロボットの情報が必要になるのだ。

 具体的なケースを挙げてみよう。一般的なWebサービスは、ある日突然画面イメージが変わることがある。このようなサービスを業務で利用している場合、人間であれば画面の項目の意味を理解しているので、Web画面のレイアウトが変わったとしても操作に支障はない。

 しかし、ロボットの場合は、参照、入力するエリアを座標として記憶して操作しているため、画面のレイアウトが変わっていると操作対象を認識できず、操作を止めてしまうのだ。このような場合に備え、RPAを導入する際には、何らかの障害でロボットの操作が停止してしまった時点で、人間の管理者に通知が行くよう設定しておくことが多い。こうしておけば、通知を受けた管理者がロボットのプロファイル情報をもとに障害を復旧し、必要に応じてロボットの修正できる。

 また、自社向けに開発したロボットとはいえ、完全に放置しておく訳にはいかない。ロボットを的確かつ迅速に復旧するためにも、各ロボットの担当業務や処理ロジックなどを漏れなく記したロボットのプロファイル情報が重要になる。近い将来AIを搭載したRPAが実用化されそうなので、人間がフォローしなければいけない状況は数年のうちに解消されるだろうが、当面は続く。RPAの進化とは関係なく、運用の基本としてロボットの情報管理はおさえておきたい。

ロボットも人と同じように扱うべき

 もう一つのポイントは、これも従業員への対応と同様、配置したロボットを手厚くフォローすることだ。人事業務のフレームワークの1つに「従業員ライフサイクルマネジメント」という言葉がある。これは、従業員の「採用」「配置」「評価」「開発(育成)」「退職」といった重要なライフサイクルをフォローすることで、従業員のモチベーションアップ向上や、関連作業の効率化を狙ったものだ。私は、ロボットも全く同じ考え方でサポートする必要があると考えている。ロボットに置き換えると、ライフサイクルごとに次のような管理が必要だ。

<採用>POC(概念検証)のなかで、企業としてどのような能力を持ったロボットに何の業務を担当させることが効果的かを検証し、計画的にロボットを開発(採用)する

<配置>新たなロボットはどの部門に配置するのが有効かを検討する。合わせて同様のロボットが他部門でも活用できないかを検討したうえで配置する。また、社内で成果を上げた実績のあるロボットは他部門に展開(異動)する。

<評価>配置したロボットが、生産性向上やROIなど自社で設定したKPIに見合った効果を上げているかを検証、評価する。

<開発(育成)>想定した効果が上がっていないロボットについては原因を究明し修正(教育)する。

<退職>評価の結果、廃止すべきロボットを検討し廃止する。

 私はこのようなロボットに対する管理、サポートを「Robotic Lifecycle Management」(図1)と名付けて紹介しているが、各社で内容を掘り下げて検討し、実行いただければ幸いである。

「デジタルレイバー管理課」を人事部に作るべき理由

 ここまでRPAの導入効果を継続的に得るためのポイントとして、「ロボット情報の適切な管理」と「ロボットへの継続的なフォロー」の2点を紹介した。しかし、これは本来ならば存在しなかった業務だ。どこの部門が担当するべきだろうか? RPAはITツールであることを考えて、情報システム部門に任せるべきか。

 私は人事部で担当することを推奨している。なぜなら、「Robotic Lifecycle Management」は、日ごろ人事部が従業員に対して提供しているサービスと酷似しているからだ。当初は導入プロジェクトメンバーが主体となってフォローする体制でも結構だが、RPAの社内普及に伴いロボット数が増えてきた時点で専門の部隊を人事部門のなかに設置することをお勧めする。

 仮にその組織を「デジタルレイバー管理課」としよう。デジタルレイバー管理課のメンバーの任務は、人事情報とともにロボットのプロファイル情報を管理すること。さらに「Robotic Lifecycle Management」に基づきロボットを運用して、RPAの効果を最大化して企業に貢献することだ。

 本稿ではRPAの導入効果を継続的に得るための2つのポイントがあること、その運用に専門の組織が必要になることを紹介した。これからRPAの導入を検討されている企業は、運用を含めて計画を立てることをお勧めする。手間は掛かるが、それがRPAの導入効果を最大化する早道だと思っている。

ロボットライフサイクルマネジメント(出典:オデッセイ)

著者プロフィール:秋葉 尊(あきばたける)

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株式会社オデッセイ 代表取締役社長


大学卒業後、NECに入社。20年にわたり中堅企業や大企業に対するソリューション営業やマーケティングを担当。2003年5月にオデッセイ入社、代表取締役副社長に就任。2011年4月、代表取締役社長に就任。

ATD(Association for Talent Development)タレントマネジメント委員会メンバー、HRテクノロジーコンソーシアム会員、日本RPA協会会員を務める。

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