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自動化がハイバリュー業務への集中を生む デジタライゼーションの中でRPAを考えるNBSの挑戦

» 2019年10月03日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

創業明治18年、国内・海外を合わせて350以上の都市の港へ700隻以上の運航船舶が乗り入れており、世界でも最大手を誇っている日本郵船グループ。

この巨大なグループ企業において、IT戦略企画・推進を担うのが、株式会社NYK Business Systems(以下NBS)である。同社は、日本郵船の情報システム部門が独立して誕生、新たなテクノロジーやプラットフォームが登場する中、海運・物流とITをブリッジする存在として日本郵船グループを支えている。

日本郵船では、輸送する貨物ごとに部署が分かれており、具体的に言えばバルク・エネルギー、自動車船、物流などの事業部門を展開している。NBSは、その事業部門に対応する形でITの利活用をサポートするよう、組織を構成してきた。たとえば、日本郵船のバルク・エネルギー輸送部門の基幹システムの保守、ITソリューションの提供を行うのがNBSのバルク・エネルギー輸送システム部といった対応だ。

NBSはこれまでも業務改善に寄与する様々なITソリューションを企画、提案してきたが、2018年初頭からはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を提案、検討してきたという。

日本郵船グループが「デジタライゼーション」という大きなテーマを掲げ、変革的なIT利用を促進する中、NBSはどのようにRPAを捉え、トライアルを進めてきたのか。バルク・エネルギー輸送システム部でRPAの企画、トライアル実施に携わった小林氏、高橋氏に聞いた。

■記事内目次

  • サイロ化しつつあったシステムが自動化によって効率化し、生産性が向上
  • RPAを適材適所で駆使することで、総合的なITソリューション力が高まる
  • 既存のビジネスプロセスに風穴を開ける──そこにRPAへの期待がある

左から株式会社 NYK Business Systems バルク・エネルギー輸送システム部 バルク・エネルギー輸送システム企画課 プロジェクトマネージャー 小林豊氏、バルク・エネルギー輸送システム部 バルク・エネルギー輸送システム保守課 バルク・エネルギー輸送システム企画課 高橋大樹氏

サイロ化しつつあったシステムが自動化によって効率化し、生産性が向上

──日本郵船グループのITパートナーとしてたゆみない企画提案、保守運用を手がけてきたNBSとして、RPAの導入はどのように検討されてきたのでしょうか。

高橋: 業務の自動化、業務改善の手段の一つとして、RPAについては以前から着目していました。生産性の向上は、私たちとしても常に取り組まなければいけない課題です。定形作業の時間の削減はルーティンワークによる疲弊をなくし、より付加価値の高い業務に集中できる環境をもたらすからです。さまざまな業界で評価が高まっている自動化ツールとして期待がありましたね。

小林: バルク・エネルギー部門ではシステムがサイロ化して手作業が多くなってきており、改善、効率化が大きな課題になってきていました。現場では手作業で資料やデータを加工していたため、ミスが起こりやすかったのです。

たとえば、基幹システムにストックされたデータを活用するためには、その都度システムの画面を開き、データを手作業で転記しているという現状がありました。せっかくデジタル化されたデータも、二次利用のために結局人の手を介するという状態になっていたんですね。

また、チェック工程における稼働人数、稼働時間のロスも懸念されていました。かつて、大口のお客様に向けた資料に重篤なミスがあったことから、資料提出前には複数メンバーによるクロスチェックがルーティンに。こうして、多大なチェック時間を要していたのです。

高橋: このような状況から、Excelやマクロなどを用いた効率化を独自に行っている部門、メンバーもいました。私たちもExcelマクロやSQLを用いたツールの提供を進めていましたが、リソースの問題から基幹システムに関連する作業に限られていました。そのような背景の中で注目していたのがRPAだったのです。

──そこで、RPAツールの選定、トライアル実施のフローはどのように進んできましたか。

高橋: 私たちバルク・エネルギー輸送システム部は日本郵船のバルク・エネルギー部門におけるRPAのトライアルを担当していますが、日本郵船としてはバルク・エネルギー部門以外でも財務部門、人事労務部門などでトライアルが進んでいます。

ここで導入、検討を主導していたのがビジネスITソリューション部です。同部がコンサルティング会社であるアビームコンサルティングと経営合理化等の観点でRPAツールの比較とPoCを実施し、結果としてバルク・エネルギー部門ではBizRobo!が選ばれています。

選ばれた観点は二つ。一つ目は管理統制がしやすく拡張性もあるサーバー型RPAという点。二つ目は基幹システムとの親和性。RPAの導入はトライアルですから、バルク・エネルギー部門において、どれだけの業務が自動化できるかは未知数でした。予定より台数が増えても柔軟に対応ができそうなBizRobo!が評価されたのです。

株式会社 NYK Business Systems バルク・エネルギー輸送システム部 高橋大樹氏

RPAを適材適所で駆使することで、総合的なITソリューション力が高まる

──トライアルにおいては、どのような業務でRPA化を進めていますか。

高橋: バルク・エネルギー部門では、営業、オペレーターの業務にフォーカスしてRPAの活用を進めています。営業担当は貨物輸送の見積もりから運賃を計算し、貨物量やスケジュールに見合った船を選定するのが主業務で、オペレーターは船舶のタイムリーな位置や運航情報の管理を担います。

営業・オペレーターは本来船やお客様と向き合うのが仕事。ですが、データの二重入力などで時間を取られていました。そこを自動化することで本来の業務の質を上げていける。その点でRPAが最も刺さる業務が営業、オペレーターだったのです。

小林: ロボットは日本郵船全体では20体ほど導入しており、その内バルク・エネルギー輸送部門では下記の定型業務を自動化しています。

  • 予実分析のデータ集め
  • 会計システムからのデータ抽出
  • 基幹システムで伝票起票
  • 伝票起票の期日が迫っていることを通知するアラートの実行
  • 動静報告(船舶のタイムリーな位置や運航情報)のデータ集め

特に、予実分析は習熟者でも15分、新人スタッフだと30分以上かかることもある作業です。元となる情報が分散しており、分析資料は基幹システムからデータを抽出し、さらにExcelにまとまった個別の資料からも都度データを拾ったりして資料を取りまとめ、その上さらにコメントを加えてからようやく完成するものだからです。

これが、RPAの活用によってわずか数分で終えられるようになりました。営業、オペレーターのスタッフからは「資料作成が非常に楽になり、分析やチェックといった品質向上に注力できる」という声が上がっています。

──導入を進めたITソリューション担当として得た知見、気づきはあったでしょうか。

高橋: 私たち自身、導入から運用に携わったことで、RPAというものの真価が見えてきました。ある局面での自動化による効率化は目覚ましいものがあり、部門やグループ内で可能な限り横展開をしていきたい。

しかし、場合によってはRPAよりマクロのほうが適している、というケースも散見されました。シーンに応じたITソリューションの使い分け、マッチングに検討の余地があったのです。

バルク・エネルギー部門のスタッフから寄せられる課題に対して、ExcelマクロだけではなくRPA、そしてRPAとExcelマクロのマッチングなど、様々な選択肢を提案、提示できるようになったのは大きいですね。適材適所で現場に投入することで、総合的なITソリューション力が高められるという期待があります。

株式会社 NYK Business Systems バルク・エネルギー輸送システム部 小林豊氏

既存のビジネスプロセスに風穴を開ける──そこにRPAの期待がある

──トライアルの見通し、その先のフェーズとして、今後はRPAをどのように活用されていくでしょうか。

小林: 業務改善の手段として、RPAのトライアルは継続していきたい。この考えは変わりません。現在稼働しているロボットの安定した体制づくりを進めつつ、管理部門など、まだ自動化に着手できていない部門の意見を集め、トライアルから運用のフェーズに移っていければと考えています。

そして、営業、オペレーターなどエンドユーザー側の意識が変わったことは、見逃せない大きな変化だと感じています。RPAが自動化をもたらしたことで「もっと効率化できるんじゃないか?」という気づきが醸成され始めているように感じます。合理的な改革への下地は整ってきた、とも言えるでしょう。

高橋: RPAはツールの一つであって、それがあればすべて完璧に進むというものではありません。私たちは部門のシステム全体を俯瞰できる立場にいます。だからこそ、システムを大きく見た上でRPAをどう導入し、活用していくかを考え、提案していければと思います。

折しも、日本郵船グループ全体がデジタライゼーションに目が向いています。デジタライゼーショングループという組織ができ、全体でデジタルトランスフォーメーションを推進中です。データ基盤を構築して「世界一頭を使うオペレーター」を目指す取り組み、また「Microsoft 365 Enterprise E5」の導入により、「全社員をデータアナリストにしたい」という宣言もあります。

オープンになっているビジネスデータ、属人的な暗黙知もすべてを有機的に活用していく流れの中、「既存のプロセスを改善していかなければ」という機運が高まっています。そこで既存のプロセスに風穴を開けるのは何か──? その一つがRPAだと私たちは考えています。

──組織、人、業務オペレーションすべてをダイナミックに改革されていかれようとしているチャレンジあふれる取り組み大変参考になりました。全社員のデータアナリストを目指す取り組みも興味深く、今後の飛躍を期待が膨らみます。ありがとうございました。

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