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» 2019年10月13日 08時00分 公開

RPAで店内の売り場チェックも効率化――西友が情シス主導で2万時間削減した舞台の裏側

情報システム部がけん引するRPAプロジェクトで2万時間に上る業務時間を削減した西友。情報システム部が主導するメリットや開発フローのポイントなどを「BizRobo! LAND 2019 TOKYO」で語った。

[土肥正弘ドキュメント工房]
2019年9月18日にRPAテクノロジーズが開催した「BizRobo Land 2019 TOKYO」に登壇した西友 情報システム部 デジタル推進グループ Manager 榎本康人氏

 グローバル企業ウォルマートの完全子会社として2008年に再スタートした西友は、国内スーパー334店舗を展開する企業。ITを活用した業務改革の一環として、2018年12月オンプレミスサーバにRPA(Robotic Process Automation)ツールの「BizRobo!」を導入し、約2万時間に上る業務時間を削減した。

 成果を生み出したのが、情報システム部内に設けたRPA開発チームだ。一般的に、RPAの導入企業においては、事業部門と情報システム部門で役割を分けたり、別途RPA専任組織を発足させたりしてプロジェクトを推進するケースも多い。なぜ同社は情報システム部のリードで導入を進める道を選んだのか。そのメリットは?

 さらにプロジェクトでは、物流システムや、「Microsoft Office 365」といった日常で使うツールをうまくことで、大きな効果を生み出した。その全貌を西友の榎本康人氏が語った。

情報システム部が主導するRPA

 プロジェクト開始時はRPA導入の目的を3つに定め、これを完遂するために情報システム部が主導することを決めたと榎本氏は振り返る。

 「バックオフィス業務のミスをなくし事務コストを削減させつつ生産性を上げること、情報システム部の業務を標準化し、社内IT活用の統制を図ること、ビジネス部門を本来のビジネスに集中させることをRPA導入の目的としました。これを考慮すると、事業部門に負担をかけず、情報システム部がRPAを管理、統制することがベストだと考えました」(榎本氏)

 早速、情報システム部内にRPA専門チームを発足させ、要件定義、設計、開発、テスト、リリース、運用の全てを担う体制を整えた。同社の情報システム部はインフラ技術者や業務アプリケーション技術者など豊富な人材を擁する。彼らの技術や情報を部内でスムーズ連携させることで、ビジネスを止めずにロボットを開発し改修できる。さらに、情報システム部がRPAプロジェクトを一元的に担えば、業務アプリケーションの機能を確認したりロボットを管理したり、類似業務を自動化するロボットを流用したりすることも容易だと考えた。

 一方、事業部門はロボットを開発せず、利用者のトレー二ングや学習の必要もない。負担が少ないことから、事業部門も協力的にRPAの活用に取り組めたという。

RPA化の優先順位の付け方

 次に、RPA化に適した業務を定義し、開発の優先度を付けた。「まずは業務フローが整理されていて要件がシンプルであること、『Microsoft Office』やWebアプリケーションを利用しておりBizRobo!を実装しやすいこと、工数削減や課題解決効果が大きいこと、という条件に当てはまる業務を最優先しました」と榎本氏は述べる。

 その他、業務が複雑で要件を整理しなければならず、実装実績のないアプリケーションを使用しているものの、効果が大きい業務は「次に優先」、実装は容易だが効果が小さい業務を「要判断」として分類した。

 一方、フローが複雑で人の判断が必要な業務、BizRobo!で操作できないアプリケーションを利用する業務については「対象外」とし、RPA以外のソリューションを提案することにした。

ロボット作成の6ステップ

 実際にロボットを作成する際は、以下のような手順を踏むことも決定した。

 (1)ユーザーからRPA化要件が挙がった業務の内容をヒアリング

 (2)業務診断シートを作成し、RPA開発難易度、想定効果などを記載する。このステップで「ロボット化するか否か、全体を自動化するか、特定の一部を自動化するか」などスコープと要件を定義する

 (3)設計段階では、要件をロボットカードと呼ぶ定型テンプレートにまとめる。業務プロセスを一つ一つのRPAの機能に落とし込む(実際はこれが設計書として機能した)。併せて運用設計もする

 (4)デモ用ロボットを作成(エラー処理などがない状態でOK)し、ユーザーに確認してもらう

 (5)開発・テストを繰り返してリリースする

 (6)ロボット運用と効果検証を行う

 榎本氏は、開発のポイントとして「早い段階でデモ用ロボットをユーザーに確認してもらうと、自動化後の業務イメージを共有できる。要件の漏れなどがあれば早期に発見でき、手戻りを防げる」と付言した。

1日平均5000ファイル、3000通のメールを自動配信で1万1000時間を削減

 RPA化によって効果の出た業務の一つとして「物流センターでの受領証明書の処理」がある。

 従来は、毎朝、物流センターで前日に受領した商品の受領証明書を2部印刷し、取引先ごとに仕分けて1部をトラックドライバーに渡し、メールボックスへ配送させるという作業を繰り返していた。RPA化後は、電子ファイルの受領証明書を特定のフォルダに置くと、ロボットが取引先ごとのフォルダに自動的に格納してPDF化し、取引先ごとにメール添付で配信するプロセスになった。

 これにより、1日平均5000ファイル、3000通のメールを自動的に配信できるようになり、物流センターでの対応そのものが不要になった。物流センター15人のスタッフによる平均2時間×365日の業務を削減でき、合計すると年間約1万1000時間を削減できる計算だ。

 定性的効果として、最適な人員配置やローテーションの実現、ヒューマンエラーによる配信ミスの防止、電子媒体(PDF)をメール送信することによる紛失リスクの排除、紙・インクの削減、保管文書の検索性向上といったメリットも得られた。「当社は、グローバルで共通の物流システムを使っているため、細かいローカライズが難しいのですが、この問題をRPAで解決できました」と榎本氏は話す。

RPAとOffice 365の連携で売り場状況の確認も効率化

 西友店内の売り場状況の確認もRPAによって効率化した。RPA導入前は、IPカメラで撮影した売り場の映像を、担当者にメールで検品状況や棚の状況を定期的に配信する仕組みだった。この仕組みでは時系列に画像を検索できず「画像を日別に確認したい」という要望が出ていたという。

 そこで、メール配信までのプロセスは変更せずに、RPAが配信された画像を「Microsoft Office 365」の「OneDrive」に自動格納し、あらかじめ日付ごとに作成したHTMLテンプレートに画像パスを記載することで、担当者がブラウザで画像を一覧できるようにした。Office 365とRPAとの組み合わせによる自動化が実現した例だ。

年間2万時間を削減、一方で運用コストやセキュリティの課題も発生

 他にも「申請された交通費、定期券の区間チェック」「定期的に発生するWebからのダウンロード作業」「他のデータソースからの転記入力」「リマインドや通知メールの送信」「定期レポート作成」といった、プロセスがシンプルで反復の多い業務を対象に自動化を行った。この結果、年間2万時間の業務時間削減が実現した。またソフトベネフィットとして、従業員のストレス軽減やミス防止、作業時間の平準化、土日・深夜対応の削減、ペーパーレス化、属人化防止、業務標準化、付加価値の創造、コスト削減、セキュリティや監査の向上といった効果を得られたという。

 一方、「RPAの運用コストやセキュリティ」「RPAの機能的な制限」「レポート作成の負荷」「より広範囲なプロセス改善の必要性」といった課題も見えてきた。

 まず、動作するロボットが増えると、PCの管理や購入コストが増えるという課題が浮上した。デバイスの紛失や盗難などのセキュリティ対策も必要になる。同社は、クライアントを仮想化することで、コスト削減とセキュリティ強化を図る予定だ。

 RPAの機能的な制限については、「Excelの機能の上限を超えるデータ量の処理や、複雑な集計、可視化の要件が増えると、RPA化できないケースがある」として、Excelで扱えない大量データの集計を実行できるデータベースを導入し、データ収集と配信にRPAの利用を考えているという。

 その他、各部門で作成しているレポートのフォーマットや表現が異なり、レポート作成に多くの時間がかかるという課題も挙がった。データ収集やフォーマット整形をロボットで省力化し、可視化はTableauなどのBIツールを活用する。

 最後に、より広範囲なプロセス改善の必要性にも言及する榎本氏。RPA化した業務が、全体プロセスで見ると一部の改善にすぎない場合に、ユーザーからエンドトゥエンドで自動化したいと要望が出る。RPAだけでなくBPM(Business Process Management)ツール、OCR(光学文字認識)などと連携し、業務プロセス全体を自動化することを目指す意向だ。2019年9月現在、同社のRPAはこれらの課題解決に向けて具体的に動き出している。

※2019年10月15日19時30分時点、一部表現を修正いたしました。

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