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» 2019年10月31日 08時00分 公開

WalkMeとは? 「デジタル・アダプション・プラットフォーム」(DAP)はなぜ注目されるか

絶対にSaaSに業務データを入力しない勢との新しい戦い方が提案された。マニュアルもレクチャもSaaSと一体化してしまえ、という発想のもと、デジタル化定着を標榜するツールがある。

[原田美穂キーマンズネット]

デジタル・アダプション・プラットフォーム(DAP)はデジタル変革の「B面」を担うツール

WalkMe ギラッド・フリードマン氏

 「新しいツールを導入するとき、担当者は実に長い時間をかけて丁寧なマニュアルを用意するでしょう? でも皆さんの中でマニュアルを頭から最後まできっちり読んだ経験がある方は多くないはずです」とはWalkMeの日本法人立ち上げ支援担当VPである、ギラッド・フリードマン氏だ。

 WalkMeは2011年にイスラエルで創業したスタートアップ企業だ。欧州や北米にも拠点を構えており、2019年6月には日本にもオフィスを構えた。もっとも日本法人設立前から日立ソリューションズが国内で販売してきたこともあり、既に日本企業での採用実績も複数ある。

 WalkMeは「デジタル・アダプション・プラットフォーム」(Digital Adaption Platform)を標ぼうする。耳慣れない単語だが、ようはWebベースのデジタルツール全般を、ベンダーを問わずに「誰がどうやっても、誰にも問い合わせずに、確実に操作して、間違いなくデータ化できるようにする」ための道具だ。加えて、複数のツールを横断した一連のワークフローを自動化して設計に組み込む機能も持つ。現在さまざまなアプリを連携してワークフローを自動化するツールが登場するが、そのいずれとも異なる「デジタル化定着ツール」として、企業のデジタル変革の「B面」を担おうとしている。

 仕組みは非常にシンプルだが、業務ツールに絶対に入力しない勢力を撲滅するときに非常に効果的な機能を持つという。

B2B向けのSaaSだけでなくERPやコンシューマー向けコマースサイトでも利用できる

「Salesforceに入力しない勢」との闘いは丁寧なマニュアルでは勝てない

 デジタルの力を借りて今までにないアイデアで新しい市場価値を創出して挑戦を続けなければ企業は生き残れない、とまことしやかに語られるが、デジタルの力を借りるには事業内容が「データ化」されていなければ始まらない。大きなイノベーションとまでいかなくても、まず業務内容のデータさえあれば、効率化したり、負荷を平準化したり、あるいは将来リスクを可視化したりと目の前の業務の生産性を高めることもできる。いま日本企業の多くは、来たるべき将来に向けてこのデータ化を推進していることだろう。

 例えば営業日報や進捗管理をSFAのような専用SaaSにまとめたり、顧客の問い合わせをCRMに集約したり、他のマーケティングツールや取引先情報と突合してサービス品質向上につなげたりといった取り組みを地道に進めているはずだ。

 だがデジタル変革の第一歩である「データ化」は、機械が収集する情報以外は現場の人間の入力の「さじ加減」に委ねられているのが現状だ。ここで大きな障壁となるのが「デジタル化できない従業員」の存在だ。PCやスマホ操作が不得手だったり、入力の手間を惜しんで正確なデータを記録しない、必要な入力項目を端折って結果しか登録しない、あるいは設計者の意図を無視して間違った項目に間違った情報を登録することもあるだろう。

 煩雑で入力項目が分かりにくかったり、登録ルールが煩雑でマニュアルを読み込まなければ分からなかったりすることもあるだろう。従業員にとってこれらの作業は、今目の前にある業務にはなんらメリットがないばかりでなく、相当なストレスにもなる。デジタル化を推進する側からすれば、せっかく投資したものが現場の反発に遭ってムダになるリスクがある。例えば営業活動の可視化を狙って「Salesforce」を採用したとしても、現場業務が忙しい営業担当が入力してくれなければ、せっかく投資をしても何も見えないしアクションも取れない。

現場リーダーが最も「入力しない勢」のケースも、SaaSに負ける現場の惨状

 「現場の活用促進のため、管理職に率先して利用してもらいたいが、現在の管理職世代が最も操作を不得手とする層ということもある。平均的な中堅〜大企業では300超の業務アプリケーションを利用しており、現場がツールの使い方に翻弄される状況」と、WalkMe日本法人の社長である道下和良氏は指摘する。

 デジタル化を推進する担当者の課題は他にもある。各種ツールの運用部門はアップデートで機能が変更になったり画面デザインが変わるたびに問い合わせやクレームで忙殺されかねない。そもそもデジタル化の成果や定着度合いを評価する方法も持ち合わせてもいない。

 これではデジタル化もデジタル変革も実践したくなくなるだろう。デジタル・アダプション・プラットフォームが「デジタル変革の『B面』を担う」と表現したのは、WalkMeがデジタル化を阻むこまごまとした現場の障壁を解消し、変化を受け入れさせ、定着させるツールとしてデザインされているためだ。

定着の障壁を取り払うアプローチ

マニュアルなしでも「見れば分かるでしょ」と言い切れる

 WalkMeは、ツールの画面そのものにナビゲーションを添え、適切な操作制限を施すことでどのようなスキルレベルの人であっても「確実に正しく操作させる環境」を導入者自身が設計できるようにしてある。

 操作ガイダンスは一連の操作を逐一画面で指示する機能だ。利用者の立場なども考慮してワークフローを分岐させることもできる。必要があればツール間で入力内容を自動転記することもできる。

WalkMeが持つ機能 利用分析やダッシュボードもある

 「WalkMeの操作ガイダンスの技術は、創業者自身の経験に基づいています。自分の親がオンラインバンキング操作を行うたびに実家に呼び出され、操作を手伝わされる状況に苦慮したことがきっかけなのです」(フリードマン氏)。誰が見ても確実に操作できるガイダンスが操作画面に付いていれば、もう呼び出されなくて済む、というわけだ。以降ではほかの機能も見ていく。

 入力中は必要に応じて入力欄にガイダンスを表示する。ツールチップに記入方法が記載された「Excel帳票」をイメージすると分かりやすいだろう。マニュアルを冊子として作るのではなく、画面遷移に合わせてコメントとして見せていく形だ。マニュアル冊子を作るのではなく、ツール上で、導入担当者が想定した入力シナリオをそのまま展開すればよい。

プリセットされたワークフローのシナリオを選択する
選択したシナリオに沿って逐一の操作ガイダンスが画面に表示される

定着のため、ワークフロー全体の流れをまとめて強制ナビゲートすることも

 同製品は、複数の製品を横断しても同じように操作できる。Web標準に準拠した画面であればSaaSに限らずオンプレミスの独自業務システムでも動作する。原理は非常にシンプルで、HTMLの要素(Element)を指定して操作する。Elementを使ってフローを設計できるので、SaaSによくある、突然の画面アップデートでも、よほど多くのソースコード変更がない限り、ほとんどの場合は変更なしで対応できるだろう。

 「請求書を発行する」のボタンを用意しておけば、SFAの入力画面から請求書発行ツールを呼び出して必要項目を転記した上で、追加入力が必要な項目をWalkMeがツールを横断してナビゲーションする。請求書を印刷して別のワークフローツールで申請したり、メールを送信したりといった、「一連の業務の流れ」を組み込める。ツールや製品に依存するのではなく業務プロセスに即したナビゲーションを設計できるため、手続きの抜け漏れを解消できる。「あるプロセスを経由しない操作を受け付けない」といったルールも作れるので、現場任せではなく、正しい操作を根付かせる道具としても機能する。

操作に「しばり」を持たせられる
ツール横断で入力データを自動展開も 画面はSalesforceからfreeeを呼び出したところ。WalkMeによるナビゲーションは継続する

 入力中は必要に応じて入力欄にガイダンスを表示する。ツールチップに記入方法が記載された「Excel帳票」をイメージすると分かりやすいだろう。マニュアルを冊子として作るのではなく、画面遷移に合わせてコメントとして見せていく形だ。マニュアル冊子を作るのではなく、ツール上で、導入担当者が想定した入力シナリオをそのまま展開すればよい。

RPAやチャットbot、ワークフロー自動化ツールとは何が違うか

 ここまで聞いてみると、チャットbotやFlowのようなワークフロー自動化ツール、あるいは複数の画面操作を自動化するRPAと同じような、入力支援ないし定型業務自動化ツールとの違いが分かりにくい。何が違うだろうか。

 RPAもWebアプリ間の入力や操作を自動化するツールだ。利用者に画面を見せ、利用方法の指示を出して入力させるよりも、RPAを使って自動入力すれば良いように思うが、WalkMeはRPAと競合するツールではないという。というのも、RPAは決まった項目に決まった操作を施すような「外注化できる定型業務を自動化する」ことを得意としており、Walkmeは従業員の判断や意思決定を伴う業務について、それを支援するツールの定着を支援し、効率化するためのものと位置付けられる。あくまでも、人間の判断や非定型の情報を含むインプットが必要だったり、時々のシナリオによって複数の選択肢があるようなものが対象だ。

 Webアプリなどの操作方法を支援するという意味では、対話形式で操作を促す「チャットbot」も考えられる。実際にWalkMeもチャットbot型の対話式入力インタフェースも用意されている。ただ、通常のチャットbotと異なるのは、あくまでも入力支援であり、入力データ方式の標準化を進めることを主眼に置いている点だ。チャットbotであっても、入力画面のフキダシであっても、間違った操作に対しては自動的に定性を促したり、入力を受け付けないようにすることで、利用者を使いながらトレーニングすることに力点を置く。

ただのbotのように見えて入力データの形式には厳しい
正しい入力が終わると新規案件登録がほぼ完了した

定着のための評価ツールとしても機能

 WalkMeはツールの定着度合いを評価するためのダッシュボード機能も持つ。ナビゲーションを設置したツールがどの程度利用されているか、あるいは利用されずに離脱しているかを分析する機能を持つ。ワークフロー全体のどこに離脱ポイントがあるのかが明らかになるため、ツールそのもののインタフェース改善やワークフロー見直しにも生かせる。

 「世界的にSaaSアプリに注目が集まったのはこの10年くらいのこと。高機能でどこからでも操作でき、生産性の高いSaaSがたくさん登場したにもかかわらず企業の生産性はそれほど高まっていません。SaaSが現場に定着していないことに起因します。WalkMeがこのデータ化や生産性向上のきっかけとなるSaaSの定着を支援することで、デジタル変革の動きを活性化するようになるでしょう」(道下氏)

 今あるツールを定着させつつ、入力データも厳格にルール付けをすることで、将来、データ活用を検討する際にもデータクレンジングなどに苦慮することなく運用できる仕掛けを自社で構築できる点は魅力的だ。人材の流動性が高くツール利用の教育コストが高くなりやすい組織や、今後高齢者の再雇用などを検討する際に、負担を最小化する方策としての利用も考えられる。

 機能としてはあらゆるWebアプリケーションの定着に適用できるものだが、日本ではまずは「Salesforce」などのSFAやCRM、「SAP SuccessFactors」などのHCM、「SAP Concur」などの定着支援に注力する計画だ。

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