仕事を頑張りすぎて病んでしまう、最近はそんな話もよく聞く。そうならないために、自身の働きぶりの健全性を客観的視点で分析するのがマイクロソフトの「MyAnalytics」。組織分析ツールとは何が違うのか。MyAnalyticsを使える「Office 365」のプランとは。
「1週間でどれだけ会議に時間を費やしたか」「どれだけ自分の仕事に集中できたか」そんな個人の働き方をモニターし、“働き方の健全性”を数値で示し可視化するのが、マイクロソフトが提供する個人向け生産性分析ツール「Microsoft MyAnalytics」(以下、MyAnalytics)だ。
もともとは有償で提供されていたアプリケーションだが、現在は、「Microsoft Office 365」「Microsoft 365」の一部のプランには標準で含まれている。働き方を可視化するツールというと少しとっつきにくい印象を受けるが、“仕事のヘルスケアアプリ”と考えれば分かりやすいだろう。数値化された客観的ファクトを基に、仕事ぶりの健康を管理するのがこのツールの主機能なのだ。「既に利用できる環境にあるが、何をするものか分からず利用していない」という読者もいるだろう。そこで、本特集では画面を見ながらMyAnalyticsの機能概要や業務での活用法、MyAnalyticsを使えるOffice 365のプランなどについて解説するとともに、組織分析ツール「Workplace Analytics」をオフィス設計に生かしたというコニカミノルタでの活用方法を紹介する。
業務で高いパフォーマンスを発揮するには、「仕事に集中する時間」と「仕事から離れる時間」の適度なバランスが必要だ。会議にばかり時間を取られ肝心の自業務に集中できなかったり、仕事とプライベートの切り替えができずにずっと仕事のことばかりを考えたりしていると、生産性にも影響する。そのバランスを保つために、MyAnalyticsは「フォーカス」「ウェルビーイング」「ネットワーク」「コラボレーション」の4つの指標を基に、自身の仕事ぶりを可視化する(図1)。
フォーカスは、仕事に集中する時間がどれだけとれているかを示す指標だ(図2)。この1カ月の間に、会議などで中断されない2時間以上の連続した時間が勤務時間中にどれだけあったかをパーセンテージで示す。このパーセンテージが低ければ、不必要な会議はないか、横から入り込んでくる予定外のタスクを削減できないかを検討すべきだろう。
ウェルビーイングは、心身の健康やモチベーションを保てるだけの休養がとれているかを示す(図3)。勤務時間外の会議やメール、チャット、通話の量をパーセンテージで表し、仕事をしない「静かな日」がどれだけとれているかを表示する。
ネットワークには、会議やメール、電話、チャットで関わった人やグループが表示される。コラボレーターの人数やそれぞれと関わった時間が分かる(図4)。
コラボレーションは、会議やメール、チャット、通話にどのくらいの時間を費やしたかを表示する。勤務時間内/勤務時間外での会議の参加状況やメール対応に使った時間、「Microsoft Teams」および「Skype for business」による音声通話、ビデオ通話およびチャットの利用時間を自動計算して表示する。
MyAnalyticsにはOutlook向けのアドイン「Insights Outlook」もある。業務が忙しく、なかなか気が付けないことをMyAnalyticsのアドインが教えてくれる仕組みだ。以降では、その仕組みを見ていく。
例えば、重要なコラボレーターからのメールが未読になっていれば、「関係者からの未読メールが○通あります」と教えてくれ、スケジュールが過密で集中時間がとれていない時はOutlookの予定表からスケジュールの空き日時を自動的に探して「来週のこの時間にフォーカス時間を取りましょう」とサジェストしてくれる(図5)。
このように、メールの流通量やスケジュール、チャット、電話の応対時間といったデータから個人の働きぶりをモニタリングし、可視化するのがMyAnalyticsの主機能だ。ただ、トラッキングに必要なデータは「Outlook」や「Microsoft Exchange Server」「OneDrive」「Microsoft SharePoint」といったOffice 365のアプリケーションから収集される。Office 365に付属するツール以外からはデータを収集できないため、利用を検討する前にまず使用するツール周りを確認したい。
MyAnalyticsによって数値化された事実をただ確認するだけでは意味がない。自身の働き方を省みて、どう改善すべきかを考えることがツールを利用する目的であり、最も重要なポイントだ。
例えば、1週間を振り返り自業務に集中していた時間が少なければ、生産性に寄与しない会議への出席を控え、急を要さない用事は時間をずらしたりスケジュールを見直したりする必要がある。メールの対応に時間を取られているようであれば、そのメール対応はそれだけの時間をかける意味があるのかどうかをあらためて考えなければならない。
また、業務時間外のメール対応時間が多いようであれば、日中に対応できるよう時間の使い方をあらためる必要がある。コミュニケーションを取る相手がいつも同じメンバーであったり、自部署のメンバーとだけ関わったりしているようであれば、コラボレーション方法を考える必要がある。コラボレーションによってビジネスインパクトは創出される。閉じた状態では、何も生み出さない。
仕事のことばかりではなく、ウェルビーイングの数値を見て十分な休養が取れているかどうかを知ることも重要だ。最近はビジネスツールのクラウド化が進み、場所や時間を問わず仕事ができる環境にある。便利な一方で、いつでもどこでも仕事ができてしまうため、仕事からなかなか離れられない状態になることもある。仕事を頑張り過ぎて、過度なストレスや緊張状態が続けば「燃え尽き症候群」になる可能性もある。だからこそ、適切に休養の時間が取れているかどうかを知ることは重要だ。「集中時間」と「休養」の適度なバランスが高いフォーマンスを生み出す。
スマートウォッチなどのウェアラブル機器に備わる活動量計が個人の健康状態をトラッキングするのと同じように、MyAnalyticsは個人の働きぶりをトラッキングする。仕事に集中する時間と仕事から離れる時間のバランスを保つことで、健康的また効率的に仕事と生活を両立させられる。
日本マイクロソフトによると、海外のある大手銀行でMyAnalyticsの導入効果を算定した結果、会議時間を10%短縮でき、従業員の仕事への集中時間は12%増加、業務時間外の会議を20%削減、年間の業務時間(従業員100人の業務時間)を1万時間削減できたという。
MyAnalyticsは「Microsoft 365 E5」「Office 365 Enterprise E5」「Office 365 Nonprofit E5」「Office 365 G5」のライセンスに含まれる。Outlook向けアドインInsights Outlookは、「Office 365 E1」以上、「Microsoft 365 E1」以上、「Office 365 Business Premium」「Office 365 Business Essentials」、教職員および学生向けの「Microsoft 365 A3」「Office365 A3」「Office 365 E3」のライセンスに標準で付属する。
個人の働き方をモニタリングするMyAnalyticsに対して、組織の活動状況や課題をあぶりだすのが「Workplace Analytics」だ(図6)。
Office 365の利用データから活動状況をモニターし、統計情報として可視化するという点ではMyAnalyticsと同じだ。ただし、Workplace Analyticsは経営層やマネジメント層が利用し、組織全体の活動状況をモニタリングすることで、現状把握と課題発見に役立てるのが主眼である。何をどう分析するかは、カスタムクエリを作成することにより自由度高く設定できる。
Workplace Analyticsは、従業員全体が会議に費やした時間や部門内および部署間でのコラボレーション状況、成績上位者の行動分析、上司のコーチング状況など現状を細かく分析できる。会議の実施状況は費やした時間をコストに自動換算して表示されるため、会議に対してコスト意識を持つことができる。
MyAnalyticsと連携させることで、組織の課題と個々の従業員の課題の両軸で現状を分析でき、業務改善に役立てられる。例えば、会議中にメールやチャットなど“内職”をしている従業員を特定したり、本来一部の役職者だけが出席すれば済むはずの会議に関係のないメンバーが出席していたりするなど、MyAnalyticsでは見えない情報が見えてくる。また就業時間外でのメールやチャットの回数や応対時間について、全社平均と個人のデータを比較することで、従業員の残業時間の抑制も図れる。
働き方改革に積極的なコニカミノルタでは、Workplace Analyticsを活用して自組織の働き方の実態を把握し、改善に努めている。2012年には、コラボレーションを活性化する目的でオフィスのフリーアドレス化プロジェクトを立ち上げた。そこで議論を重ねたところ、若手社員から「Web会議の音がうるさく、仕事に集中できない。集中するためのスペースが欲しい」という声が上がった。そこで、Workplace Analyticsで業務実態を把握。その結果、全てをオープンスペースにするのではなく、執務スペースを「集中ゾーン」「準集中ゾーン」「コラボゾーン」へ分割する施策を立案した(図7)。
集中ゾーンは各席間をパーティションで区切り、集中できる環境を作った。コラボゾーンは気軽に協業できるようオープンスペースにし、準集中ゾーンは両者の中間的なエリアで、集中ゾーンとコラボゾーンの緩衝地帯の役割を果たす。
こうして、Workplace Analyticsで得た情報をオフィス設計に生かしたことで「集中ゾーンで作業した結果、従来のオフィスでは1時間当たりに2.8本のメールを送信していたのが、0.4本にまで減った」という。ゾーニングによる集中度の改善が見られたという。
また、Workplace Analyticsを使って会議実態も分析した。1日当たりの会議時間と会議中に他の業務をしている層の割合を調査したところ、部長職のみの部署では会議の裏で別の作業を併行して行っている割合が多く、会議時間も長くなる傾向があった。こうして、会議の改善ポイントも見つかった。
コニカミノルタでは、10年以上蓄積された従業員の適性検査データとWorkplace Analyticsから得られた行動特性との関連性を分析することで、適材適所の人材配置にも役立てていきたいという。
Workplace Analyticsは別途契約が必要だが、MyAnalyticsは、該当するOffice 365やMicrosoft 365のプランを契約していれば利用可能だ。しかし、Office 365ユーザーの中には、利用できる状況にもあるが「何をするものか分からない」ため、活用していないユーザーもいることだろう。その時は、本特集の情報を役立ててほしい。
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