決算書なしで銀行から融資を受けられる時代が来た。各所で進むFinTechを支えるAIはどういったものだろうか。
FinTechと聞いてどんなイメージを持つだろうか。一時の有象無象の暗号通貨ブームなどで、金融とIT技術の組み合わせにはよろしくない印象が刷り込まれた方が少なくないのではないだろうか。
だがその裏側で国内の金融イノベーションを推進する法改正が進んだ。2018年の銀行法改正をきっかけに金融機関のオープンAPI整備が進みつつあり、電子決済代行業制度が確立した。一般消費者向けでは今やキャッシュレス決済で〇〇ペイが乱立し、ポイント還元などの施策もあり、利用者のすそ野は広がりつつある。この動きは法人、特に中小企業向けの経営支援にも広がる。
三菱UFJ銀行は2019年6月20日から「Biz LENDING」という、中小企業向けオンラン融資サービスを展開している。正確には法人向け会員制Webサイト「MUFG Biz」の会員企業を対象としたサービスだ。経営分析支援サービスやAIを活用したニュース配信サービスと合わせて提供されるのが、Biz LENDINGだ。クラウド会計ソフトを展開するfreeeやMonyForwardも自社顧客の会計情報と連携して資金繰りをサポートし、資金調達の手段を提案するサービスを展開しており、地方銀行やネット銀行と提携したサービスを提供している。
銀行が企業に融資を行う際、通常は決算書や事業計画書などの審査が必要だが、このサービスは決算書が不要で審査後の入金まで最短で2日程度だという。対面の審査などは不要だ。だがこだけを聞くと、いわゆる消費者金融と何が違うのかが少し分かりにくい。
このサービスが何を基準に審査しているかというと「口座のトランザクション情報」だ。法人として三菱UFJ銀行で一定以上の入出金履歴があり、かつ別の借入残高などがないことがサービス利用の条件になる。口座トランザクション情報を学習データとしてAIモデルを構築しており、デフォルトの確率算出に利用するという。分析モデルは一般的なものが中心だ。「えんぴつなめなめ」で操作しようと思えばできてしまう決算書よりも一定期間以上の口座の動きを評価した方が企業の実態を理解しやすいという。
従来、AIのモデルは決定木のような分かりやすい物だけでなく「説明できないが結果は正確」というブラックボックスの処理が介在することがある。だが、分析対象が融資先の与信審査となると「とにかくAIが判定したので」という仕組みでは、人間を納得させるのは難しい。説明可能なAIを実現するため、説明モデルを出力して特徴量寄与度を示す手法もあるそうだが、個別の案件ではなく全体傾向しか分からないという。そこで2017年に発表された「シャープレイ値」(Shapley value)という、予測モデルの影響を受けずに個々の案件についての各モデルの影響度合いを説明する手法を採用し、この課題を解決しているそうだ。
AI関連の研究成果を積極的に取り組むこのBiz LENDINGの開発は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)直下のフィンテック専門子会社であるジャパン・デジタル・デザインが担う。
ここで培った融資判定の仕組み自体はグループ内にとどまらず、地方銀行などでも利用できるように設計されているという。業務改革や再編が進む地方銀行の競争力強化にも寄与するかもしれない。
本講はジャパン・デジタル・デザインが開催した勉強会に個人として興味本位で参加した内容から筆者が理解できた範囲で紹介したものに過ぎず、同社が提供する価値はこの限りではない。「金融の新しいあたりまえを想像し、人々の成長に貢献する」をミッションステートメントとする同社の研究成果の一端を知り、2020年以降の金融体験がどう変わるかが楽しみになった。
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