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RPAの効果を高める「BPM」。本当の意義と導入の難易度とは――EYアドバイザリーに聞く

» 2019年12月26日 10時00分 公開
[加藤学宏RPA BANK]

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RPA BANK

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が進むにつれて、効果を全社レベルに引き上げるためにはBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ツールで業務を可視化し、より効果が見込める業務にRPAを適応すべきだという意見が聞こえるようになってきた。だが、どのようにして導入すればいいのだろうか。そして、見合った価値を得られるのか。

RPAやBPMの導入を通してグローバルで企業のデジタル化をサポートするEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社(以下、EY)のパートナーで、デジタル化支援プロジェクトの経験豊富な下野崇氏と、グローバルにBPMの概念を広めた製品を持つペガジャパン株式会社(以下、Pega)の執行役員副社長 木村真吾氏に話を聞いた。

■記事内目次

  • デジタル化に向けてRPAから次の段階へ進んでいる
  • RPAは「自動運転車」。走りやすい「道路」の整備が不可欠
  • 金融機関を中心に「間違えないで判断」するニーズに応えるBPM
  • 「BPMツールは難しい」と誤解している理由

デジタル化に向けてRPAから次の段階へ進んでいる

−まず、EYについて教えてください。

下野崇氏(EY ジャパンアドバイザリー 金融セクター統括 パートナー): 会計監査を起源とするコンサルティングファームで、「ビッグ4」と呼ばれる、同様に監査から発展していったグローバルの大手4社に位置づけられています。私たち「アドバイザリーサービス」のほか、「会計監査」、「税務」、M&Aアドバイザリーや事業の最適化などを手がける「トランザクション」と、4つのラインが「EY」を冠してサービスを提供しています。

−RPAに関しては、どのような経験があるのでしょうか。

下野: 監査、金融、組織、デジタルといった知見にもとづくコンサルティングだけでなく、実装やメンテナンスまでの総合サービスを提供しています。国内では株式会社三井住友フィナンシャルグループの導入支援を筆頭に多数の実績がありますし、注力している分野の一つです。またEY自身もRPAのユーザーで、監査法人が会計監査業務の一部を自動化するのに利用しています。

−監査という面では、最近ではデスクトップ型のRPAを導入したものの、ガバナンスが効きにくく、指摘を受けないか不安を覚えるという話も耳にしますね。

下野: その面でもEYとしての強みがありますから、安心して任せていただいています。

−日本ではRPAの導入効果を疑問視する向きがありますが、どのような状況だと認識されていますか。

下野: RPAは、自動化で生み出した時間をどう使うか、経営者の意識から変えていくことが大事です。日本の場合は「働き方改革」に早く着手しようと考えた側面もあって、自分の仕事をパソコンレベルで効率化することに注目しすぎてしまい、全社レベルでの効率化には至っていません。第1弾と言えるパソコン内の自動化は一服し、企業全体を自動化する流れが始まっています。

私は今年からEYに参画しており、それまでは他のコンサルティングファームでデジタルやRPAの統括責任者をしていたのですが、その経験からも同じ認識です。

これだけRPAが導入されているのに、社内のデータ整備がまったく進んでいないという調査結果があります。数年後に本格的なAIの時代になってくると、グローバルの競合と渡り合っていけるのか非常に心配しています。RPAはあくまで一つの手段。最初のステップとしてはよかったと思いますが、企業全体の効率化、デジタル化については緒に就いたばかりで、その先に行かなければなりません。

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社 ジャパンアドバイザリー 金融セクター統括 パートナー 下野崇氏

RPAは「自動運転車」。走りやすい「道路」の整備が不可欠

−企業全体の自動化、デジタル化に向かうには、何が必要なのでしょうか。

下野: RPAだけでは限界があります。業務プロセスを可視化して、見直しや自動化を図るBPMが有効なソリューションとなります。

−BPMの概念は、いまひとつイメージがつかみにくいかもしれません。

下野: RPAは「自動運転車」、BPMは「道路」でイメージしてみてください。大草原は自動運転で走るのに適していません。舗装している道路を敷いて、交通ルールや標識などを整備することで、自動で快調に走れるようになります。

RPAはこの数年来、大きなブームになっていますが、「騒いでいるほど効果が出ない」という企業は既にBPM製品に興味を持っていて、EYに中立の立場から製品選定を手助けしてほしいという依頼もあります。

BPMはデジタルでのオペレーション基盤として欠かせないものになっていますから、EYでは新人研修にも必須スキルとして取り入れています。

−ビジネスをサポートする立場のコンサルタントにとって、必須科目になっているわけですね。優れた製品についてはアライアンスを結んで理解を深め、中立の立場で顧客の状況に応じた選択肢を提供できることが、総合コンサルティングファームの価値だと思っています。BPMについて、言及するべき製品はありますか。

下野: EYでは、Pegaを推奨するケースが多いですね。他のソリューションに比べて業務を可視化しやすく、構築の時間も明らかに短期間です。

デジタルは、短期で立ち上げなければ意味がないと言っていいでしょう。儲かりそうな分野を短期で始めるほど成果が出るのがデジタルです。そのほうがROIも出やすいので、取り組みを進めやすくなります。

Pegaは、BPMの概念を世に広めた企業であり製品です。ですから新人研修の内容も、Pegaを念頭に置いた内容になっています。

金融機関を中心に「間違えないで判断」するニーズに応えるBPM

−両社の協業は、いつから始まったのでしょうか。

木村真吾氏(ペガジャパン 執行役員副社長 戦略アライアンス統括): グローバルでの協業は2014年に始まっています。EYがコンサルティングと実装を担っていますが、Pegaのエンジニアが入るプロジェクトも多いです。

下野: デジタルの実装を提案するとき、Pegaは欠かせない選択肢です。EYにおけるPegaに関するビジネスは、2018年度は前年比50%増で成長し、2019年も同様の成長を見込んでいます。また、EYが取り扱うITソリューションのなかでトップ5にPegaが入っています。

−それだけ、BPMに対する期待やニーズが高まっているわけですね。例えば、どんな業態の企業で活用されているのですか。

木村: 北米有数の金融機関へは、両社でPegaを導入しました。

下野: 金融機関を中心に大きなプロジェクトがあるほか、グローバルベースの証券取引所や、国内の製造業にも導入が進んでいます。

PEGAが得意で効果を発揮するのは、多数の判断を自動化する「ケースマネジメント」です。金融機関でよく利用されているのも、業務が「条件分岐のかたまり」であるためです。

木村: 今グローバルで重要なテーマとなっているのは、アンチマネーロンダリングとKYC(Know Your Customer:本人確認)で、金融機関は多大なコストをかけて対策しています。

下野: 金融機関のKYC業務では、例えば、膨大なブラックリストと突き合わせる判断を繰り返すのですが、姓名が逆の場合や、ミドルネームが抜けている場合など見落とす可能性もあります。もし誤ってテロリストに資金が流れてしまうと、企業だけではなく国家間の問題にまで発展しかねません。

医療機関や公的機関に関するオペレーションにも当てはまりますが、複雑な判断ができることよりも間違えずに高速で判断できるかが重要なので、Pegaが貢献する領域ですね。

ペガジャパン株式会社 執行役員副社長 木村真吾氏

「BPMツールは難しい」と誤解している理由

−「BPMツールは難しそう」という声も聞こえます。

下野: 製品が難しいのではなく、多くの企業が慣れていないから難しく感じているのだと思います。

Pegaは基本的に、アジャイルで入れて活用するものです。アジャイルとはソフトウェア開発から生まれた手法で、作業工程ごとに分割して順に進めていくウォーターフォール型と異なり、プロトタイプを作り、素早い意志決定とバージョンアップを繰り返していく方法です。アジャイルでは「スクラム」という少人数で自発的に行動するチームを組み、「スクラムマスター」と呼ばれるファシリテーターがまとめ上げていきます。

スクラムといえば、ワールドカップでラグビーをご覧になった方も多いと思います。試合中はヘッドコーチの指示に従うのではなく、リーダーを中心に自分たちで考えて、スクラムを組んで前進していくのと同じです。

−こうした仕事の進め方に慣れてないから、難しいと感じてしまうわけですね。

下野: そうです。企業側にこうした変化を受け入れる素地がないと、Pegaの価値は消えてしまいます。

日本はデジタルの要素では負けていないと思うのですが、スクラムマスターなどの人材が足りていません。そのためEYでは、製品だけに関わるのではなくて、人材育成や素地づくりから支援を行っています。

−最後に、RPAやデジタルに関心を寄せている方々へメッセージをお願いします。

下野: デジタルと真剣に向き合い、経営者も緊張感を持って取り組まないといけません。熱意や真剣さがないと、ツールだけでは推進できないということを強調しておきたいですね。

日本のデジタル化は、グローバル視点では2周ぐらい遅れていると思います。ただ、状況は変わりつつあります。Pegaの導入によって、組織全体が自然とアジャイルな意思決定をできるようになる効果もあり、グローバルで勝負できる体質へと変えることができます。実際にデジタル化を見据えて考えられる経営層は「そろそろPegaの発想が必要だ」と言い始めていますし、他のITソリューションと違って経営層の意思で導入を決定しています。プロジェクトオーナーもシステム部門の役職者ではなく、営業部門所管の役員など、これまでとは異なる顔ぶれとなっています。

木村: グローバルでは金融犯罪への対処が厳格化してPegaのニーズも高まっているのですが、日本では認識や対策が十分でない金融機関も少なくありません。苦境が伝えられる事業環境では自動化が求められるでしょうし、EYの強みとともに大きく貢献できる分野ですから、積極的に訴求したいと思います。

ケースマネジメントやRPAなどによって効率的にドライブするには、下野さんが例えられた「道路」が欠かせません。その整備を通して、日本企業の力になりたいですね。

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