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顔認識は思い切って禁止! EUの決断は果たしてどうなるか:547th Lap

モバイルデバイスのロック解除や空港での入出国手続きなど、あらゆる場面で活用される顔認識技術。最近では、オフィスの入退室に用いる会社もある。この顔認識技術の活用が公共サービスに広がり”勝手に”顔を認識していたら、プライバシー問題が持ち上がるのも無理はない。

» 2020年01月24日 10時00分 公開
[二瓶 朗キーマンズネット]

 先日も『New YorkTimes』で「FBIがSNSに投稿された30億枚の画像から顔認識データベースを作成するツールを使っている」という記事があったように(リンク)、顔認識システムとプライバシーに関する話題が急速に盛り上がってきた。

 そうしたこともあってか、顔認識技術を「禁止」する動きが出ているという。なぜ? いつから? どこで? と疑問は尽きない。さてその真相は──?

 駅やスタジアム、商業施設といった公共の場で顔認証技術の使用を禁止しようとしているのはEU(欧州連合)なのだという。2020年1月17日『The Guardian』(リンク)、ロイター通信(リンク)がそれぞれWeb版で報じた。

 それによると、欧州委員会(EUの政策執行機関)が、年次報告書の中で「公共の場での顔認識技術の利用を一時的に禁止する」という文書を提出したのだという。文書はあくまで「初期草案」ということではあるが、人工知能に関する規制を広く見直した上で、2020年2月には「最終草案」として提出されることになっている。

 この「顔認識技術の禁止」草案は、あの「GDPR」(一般データ保護規則)に即して決められたこと。ご存じのように、GDPRでは個人情報の安全な取り扱いについて大変厳しく定められていて、違反時の制裁金が非常に高額であることも知られている。EU圏内だけでなく、EU諸国と取引があったりEU圏内に支店があったりする企業にも適用されるため、2018年5月に施行される直前は対策に追われた日本企業も少なくなかった。

 ともかく今回の「顔認識技術の禁止」草案はそのGDPRに沿ったものだ。公共の場でむやみに顔認識技術を利用すると、個人のプライバシーとデータの権利を侵害する可能性があり、従来の規制を強化する必要があるとされている。草案の内容は「3〜5年の一定期間、顔認識技術を禁止し、その間に顔認識技術による影響を調査して、可能なリスク管理対策を開発する」というもので、恒久的に顔認識技術を禁止するというわけではなさそうだ。

 しかし『The Guardian』が紹介するところによれば、ドイツ政府は既に134の駅および14の空港において顔認識技術の導入が計画されていることや、フランスでは仏政府のWebサイトにアクセスする場合に顔認識による認証システムの導入が決定しており、新技術に対して過度に慎重になる欧州委員会の姿勢に疑問を呈しているようだ。

 その一方で、EUからの離脱を計画しているイギリスでは、既に「警察が利用する顔認識システムはGDPRに違反しない」という裁判所の判例があるため、今後は欧州圏における顔認識システムの開発や発展をイギリスが主導するチャンスもあるのでは、という期待もあるようだ。

 欧州委員会はこの「顔認識禁止」の範囲を公共の場から医療、輸送、警察、司法といった分野に拡大も検討しているという。欧州委員会のスポークスマンは「EU市民が最大の利益を享受しながら人工知能の課題に対処するには必要なこと」と、あくまでも前向きで、顔認識技術を禁止する方針を曲げるつもりはないようだ。確かに、顔認識システムが広く定着する前の方が規制は効果的に実施できるだろう。

 GoogleのSEOであるサンダー・ピチャイ氏がこのEUの方針に賛成の声を上げる一方で、Microsoftの最高法務責任者であるブラッド・スミス氏は異議を唱えている。今後は顔認識技術自体に加え、個人のデータをどう運用していくかといった議論が進んでいくことになりそうだ。


上司X

上司X: EUが顔認識システムの禁止を計画しているという話だよ。


ブラックピット

ブラックピット: あくまで3〜5年の期間限定、公共の施設で、ってことですよね。


上司X

上司X: 今のところはな。ただ今後はかなり広範囲に適応されるようになるようだ。


ブラックピット

ブラックピット: 別に顔認識くらいいいじゃないですかー。っていうか、顔認識はだめで監視カメラで個人を撮影しまくるのはいいんですかね?


上司X

上司X: ああ、良くない、という考えだからこういうことになってるんじゃないか。GDPRでは監視カメラで撮影された個人のデータについてとっても厳格な決まりがあるから。キミの無知な心配は無用だ(笑)。もともと大陸側のEU諸国は監視カメラすなわちプライバシー侵害だ! ぐらいの考え方なんだってさ。逆にイギリスは監視カメラについてはおおらかな国民性なんだと。


ブラックピット

ブラックピット: なるほど! イギリスのEU離脱はそういう考え方の違いにも原因の一端があったのに違いませんね!


上司X

上司X: それはどうか知らんが(笑)。ともかく、この欧州委員会の決定は、顔認識技術の今後に大きな影響を与える可能性は高いだろうね。犯罪抑制の効果や商的な利用価値と個人のプライバシー、どちらを重要視するか……難しい問題だな。


川柳

ブラックピット(本名非公開)

ブラックピット

年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)

昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。

上司X(本名なぜか非公開)

上司X

年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)

中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。


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