各所から発表されるテレワーク実施率、あまりにも数字がばらばらだが、実際はどうなっているのだろうか。
2020年4月初旬は「外出自粛が求められる中、テレワーク実施率が低過ぎる」との報道が相次ぎました。厚生労働省とLINEと実施した全国調査(第1回)では、テレワーク実施率がわずか5.6%という結果になりました。しかし、同じ時期に別の調査では国内企業のテレワーク実施率はおおよそ25〜40%、極端なものでは100%近いとの報告もあります。この差はどうして生まれたのでしょうか。
この発表は「第1回 新型コロナ対策のための全国調査」の結果を受けてのものです。この時の厚生労働省とLINEの調査は、15歳以上のLINEアカウントを持つ個人を対象としていました。そのため、回答者の中にはそもそも就労していない方々も含まれていたものと推測されます。回答者全体には就労している方とそうでない方が含まれており、その中でも就労しておりかつ通勤が必要な方のうち、テレワークで業務ができている方が5.6%ということになります。
通勤をひかえるよう世に訴える期間にここまで衝撃的な数字が出たことで、皆さんは危機感を持ったでしょうか。あるいは他社もテレワークに踏み切っていないのだと安心したでしょうか。危機感を持って対策を急ぐ企業が増えたのであれば、この情報を出した意義は大変大きなものだったといえるでしょう。
追記:2020年4月30日、厚生労働省は「第1-3回『新型コロナ対策のための全国調査』からわかったこと」として、3回の全国調査から得られた情報を公開しています。第3回調査では職種などを調査していたことから、就労者に絞ったテレワーク実施状況を把握できたものと考えられます。それによると、「オフィスワーク中心(事務・企画・開発など)の方におけるテレワークの実施率は、第3回調査時点(4月12〜13日)で、宣言前と比較して全国的に増加しているものの、全国平均で27%」でした。このうち、東京都は52%という結果になっています。(01 May 2020 14:54:57 JST-9更新)
一方で、企業を対象としたテレワーク実施動向の調査の多くは、「テレワークを導入しているかどうか」を問うものがほとんどでした。この場合、企業内のごく限られた人員のみにテレワークを許可する組織であっても「テレワーク導入企業」のカテゴリーに含まれてしまいます。
もしかすると、回答者の解釈次第では、就労規約にテレワークに対応した内容を盛り込んだだけで、実施実績がなくても「導入した」と回答する可能性もあります。テレワーク実施率の25〜40%には、こうした意見が多少含まれることを考慮して読む必要があります。また、この数字は回答者の母集団によっても大きな差が出ました。日本経済団体連合会(経団連)の会員企業を対象とした調査では、テレワーク実施率97.8%と非常に高い実施率になっています。ただしこちらも全社的な導入となるとその数値は大きく下がります。
最近各所が発表する各種のテレワーク実施動向調査は、上記の通り、調査対象の母集団の性質によって数字はまちまちです。しかし調査詳細を深堀りしてみてみると、例えば東京商工会議所が発表したレポートでは「情報通信業」の53.8%がテレワークを実施している、という結果が出ています。調査時点でテレワーク実施に向けて準備中とする回答も多かったことや経団連加盟企業のテレワーク実施率や現在の通勤時間帯の駅の混雑状況を考慮すると、都心に向けて通勤電車で移動するタイプのオフィスワーカーの多くはテレワークに移行でしつつあると推察できます。
ただし、デスクワーク中心の方々でも「業務上やむなく」で出勤しているケースがありました。日本CFO協会の調査からは、決算を控えて書類の準備や銀行などとの面談、押印のために出社する財務部門の課題が浮き彫りになっています。感情論での出社強要は従業員の安全を考えるとあってはならないことなのは当然ですが、それだけでなく、IT化を推進してさえいれば在宅でも実施できた業務も少なくありません。こうした問題を受け、金融庁は2020年4月17日、3月期決算の企業に対して、有価証券報告書や四半期報告書などの提出期限を9月末まで延長すると発表しています。
これらの「ハンコ」をめぐる問題に対してIT系企業トップもアクションを起こしています。GMOインターネットの会長兼社長・グループ代表である熊谷正寿氏やサイバーエージェント社長の藤田 晋氏が、押印廃止に向けて動き出して話題になりました。なおGMOインターネットは自社の電子署名サービス「GMO電子印鑑Agree」を1年間無償で提供すると発表しています(申込期間:2020年4月17日〜5月31日18時、サービス提供は2021年4月30日まで)。他にも電子署名、電子印鑑サービスは複数提供されています。業務内容によっては契約管理サービスの中に含まれるものもありますので、タスクに応じてサービスを比較検討してみるとよいでしょう。
業務上テレワークが不可能な職種の方々は多数おられます。日用品の販売や物流倉庫管理、工場、公共インフラの運用や管理に従事される方々も通勤しなければならないでしょう。そうした方々がリスクを抑えて移動するためにも、テレワークでできる業務は極力テレワークに切り替えていただきたいと思います。
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