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ZOZOがいきなり2000人追加採用でも雇用契約管理が破綻しないワケ法務部門の脱Excel(1/3 ページ)

クラウド契約サービスによる契約業務効率化が注目を集めるが、実際に採用したユーザーはどう使っているか。異なる事業を展開する3社が、契約を変えたことでそれぞれの業務を大きく変革する。

» 2019年06月04日 08時00分 公開
[原田美穂キーマンズネット]

 少し前のことだが、アパレルEC大手ZOZO(旧スタートトゥデイ)が2000人もの追加雇用を発表して話題になった。2000人の雇用といっても、入社時期やシフトがばらばらの従業員を一度に受け入れるとなると管理部門の負担は少なくない。そもそも雇用契約や労務管理をとりまとめる人員の増強が必要になるのではないか――。こうした手配の一部をデジタル化して再設計、効率化を図ったからこそZOZOは多くの人員を雇用できるようになったのかもしれない。

 5月21日に開催された「クラウドサイン」のユーザーミートアップ「Columbus」では全く異なる事業を展開する3社による電子契約サービスの利用状況を聞くことができた。登場したのはスクウェア・エニックス、ディップ、そしてZOZOだ。

【column】クラウドサインとは

 「クラウドサイン」は、弁護士ドットコムが手掛ける電子契約サービス。電子署名法などの法整備が進んだことで、デジタルデータによる契約も一定の条件を満たせば紙の契約書と同等の法的効力が認められるようになった。その「契約の一定条件」を満たす仕組みをクラウド型サービスとして提供する事業者の1つがクラウドサインだ。

 押印やサインの代わりに電子署名を使い、Webだけで契約手続きが完了するため、印刷や郵送、押印といった手間とコストが掛からないのが利点。現在、既に4万以上の企業が利用する状況だ。

「こんなに運用が楽なシステムは他にない……」スクウェア・エニックス

スクウェア・エニックスの山粼康平氏 スクウェア・エニックスの山﨑康平氏

 スクウェア・エニックスの山﨑康平氏(情報システム部 業務アプリケーション・グループリーダー)は「使い方を制約せず、『よかったらどうぞ』と現場に使わせている状況。情シスとしては運用が楽ですね。情報システム部門は何か業務改善を提案してもユーザーからクレームを受けるのが常なのに、何の問題もなく使ってもらえている。全社システムでこんなに運用が楽なシステムは他にない」と評価する。

 ゲームなどで使うイラスト制作者(絵師と呼ばれる)をスカウトする際はインターネット経由で声を掛けることが少なくないそうだが、案件ごとに都度の契約が多く、「アートに造詣がある社員は契約のような事務仕事が苦手なことが多くて……(笑)」と、クラウドサイン導入前の苦労を語る。メールなどのオンラインメッセージのやりとりでスピーディーに仕事の依頼話が進んでしまい、契約などの手続きが後回しになりやすくコンプライアンスや管理面での課題が大きかったそうだ。

 この点で、クラウドサインの場合はメールを送るのと同じように契約管理ができるため、担当者側に事務処理の負荷が少なく、定着しやすかったという。強制的に使わせているわけではないが、純粋に手続きが楽なので一度使った社員は継続して使う傾向にあるという。「取引先からは『収入印紙代金が減って良かった』『書類保管の負担が減ってうれしい』という声も受けており、双方にメリットが多い」(山粼氏)

社内押印規定の見直しが「関門」だった

 山粼氏の場合、クラウドサイン導入時の最大の難関は押印規定の変更だったという。「社内の押印規定が紙と印鑑を前提にしたものしかなかったため、規定の変更から検討をする必要があった。だが規定の見直しはステークホルダーが多く、合意形成が難しい。導入の際に担当法務が率先して推進してくれたために導入を進められたと思っている」(山﨑氏)

 スクウェア・エニックスでは、クラウドサイン導入後、2週間掛かっていた契約が2日で済むようになり、海外との契約も書類の郵送による「待ち」がなくなった。これにより、契約手続きが停滞することがほとんどなくなったという。特に契約書を郵送した後に「すっかりステータスを忘れる」という状況がなくなったことが業務を推進する上で効果が大きかったと振り返る。

 「紙はなくすし忘れてしまう。ツールで状況が把握でき、そのままリマインドできる環境はありがたい」(山﨑氏)

 現在は契約の稟議もワークフローツールに乗せて使えるように変更しており、申請時に「紙」「電子」を選ぶように改修を加え、「電子」を選べばワークフローツールから直接クラウドサインに遷移するようにし、より簡単に利用できるように改修を進めている状況だという。

 「現在のクラウドサインの利用シーンは小口契約がメインだが、大型案件の『億』単位の契約でクラウドサインを使ってみたい。そこで取引先がクラウドサインを使っているかどうかを取引先に問い合わせるのははばかられることもある。オンラインで利用の有無を把握できる機能が登場することに期待する」(山﨑氏)

ビジネスプランの登場で押印権限の管理が効率良くなった――ディップ

ディップの斉藤啓敏氏 ディップの斉藤啓敏氏

 求人情報サイトなどを運営するディップは2019年2月にクラウドサインを導入したばかりだ。現在は代理店販売などの契約業務で利用する。

 ディップの斉藤啓敏氏(総務統括部 法務室 マネージャー)は代理店との契約見直し業務に関わる印紙代や郵送費用、事務処理の効率化を推進しており、クラウドサインの導入によって「今期の代理店契約見直しで前期比150万円削減を実現した。時間としてはおよそ1000時間程度削減できている」という。

 同社の場合、クラウドサインに新たに「ビジネスプラン」ができたことも採用のポイントだったという。ビジネスプランには承認権限機能があるため、これを活用してワークフローも最適化している状況だという。

 「ビジネスプランが出たことで、押印権限を持つ人と事務処理をする人の分離と管理が可能になった。旧来のクラウドサインにおける「送信」は紙の契約の「印刷」「製本」「押印」「送付状」「投函」の代用だった。ビジネスプランではこれと別に『承認』のプロセスを代用できるようになった点も魅力的だ」(斉藤氏)

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