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デジタライゼーション実現への道筋 〜シーメンスヘルスケアが採用したデスクトップ型 UiPath〜

» 2020年04月30日 10時00分 公開
[加藤学宏RPA BANK]

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RPA BANK

RPA ロボットは現場で作るべきか、それともシステムエンジニアに任せるべきか。そしてRPAツールは、小回りのきくデスクトップ型がいいのか、あるいはサーバー型が良いのか。 RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入にあたり、企業の文化や状況に応じた選択肢が多いことは歓迎すべきだが、一様のベストプラクティスがないため RPA 導入の判断に迷ってしまう。

人々のクオリティ・オブ・ライフへの貢献をミッションに掲げ、業界の先駆けとなる革新的な医療機器やサービスによって、120年以上にわたり世界中の医療を支えてきたSiemens Healthineers。業務のデジタライゼーションにも積極的で、BluePrismのライセンスとインドの開発機能を各国拠点に提供している。

また、日本法人のシーメンスヘルスケア株式会社は同時並行でUiPathを導入し、現場の担当者がみずからロボットを開発しているという。なぜ、2つの製品とアプローチを共存させるのか。そして、RPAが同社に「何」をもたらしたのか。推進役でもある「RPAコアチーム」のメンバーに話しを聞いた。

■記事内目次

  • 1. Head of Finance からのトップダウンで RPA の導入に着手
  • 2. シーメンスヘルスケアの一役を担う「協働」のロボット
  • 3. RPAの稼働ログでガバナンスを担保、モニタリングを実施
  • 4. RPAがデジタライゼーション文化を育む契機に

1.Head of Finance からのトップダウンで RPAの導入に着手

シーメンスヘルスケア株式会社 アカウンティング&コントローリング本部 長尾耀平氏

―RPAへの取り組みが始まった経緯や、当初の状況を教えてください。

長尾耀平氏(アカウンティング&コントローリング本部):  Head of Finance でもある副社長の掛け声によって、トップダウンで取り組みが始まりました。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、当社の使命とビジョンの1つであり、世界中のオフィスでRPAの使用例が成功した後、日本にとってRPAのメリットを効果的に最大限に活用する必要があると確信しました。

藤井明美氏(IT 本部): そこでアドバイザーを加えた 4 名が集められ、「RPAコアチーム」を立ち上げ、RPAプロジェクトを全面的に推進する上で重要な役割を果たしました。2018 年 2 月にキックオフ会議を開催し、副社長みずから「デジタライゼーションの重要性について」話をしたことが、RPAの必要性を理解し興味を持ってもらうよい機会になったと思います。

―社内で RPA を推進するにあたり、作業対象優先順位の基準選定と決定はどのように進めたのでしょうか。

藤井氏: 当時、私はビジネスメディアを通じて「RPA」という言葉を知っていましたが、専門的な知識がなかったため、客観的に判断することができました。 Blue Prismはドイツのグローバル本社で採用されたため、ここでも同様のアプローチを採用し、同僚から学ぶことにしました。

まずは、社内でRPA に適したルーチン業務を部門の代表者に洗い出しをお願いし、大幅な時間削減が見込める業務で費用対効果や開発のハードルが低そうな業務を選定していきましたが、最初から基準を決めるのは困難を生じました。そのため、私たちは計画を再検討し、より大規模なプロセスに備えるための専門知識を構築するため、まず小規模のプロセスからスモールスタートで開始しました。

―具体的にはどのような業務に、最初に RPA が導入されたのでしょうか。

長尾氏: 最初に着手したのはロジスティクス部門の業務でした。欠品などのオーダーを管理するために毎日行っていた、ExcelからSAPへの転記を自動化しました。

藤井氏: その後、私が所属する IT部門でも複数システムからのデータ転記をロボットに任せました。キックオフから半年後の 9 月末時点では、この 2 つの業務改善のプロセスを RPA 化された状況です。翌年はBluePrismでおよそ業務改善として 10プロセスをRPA 化、新たに加わったツールUiPathでは業務改善として5 プロセスが RPA化の対象となりました。

2. シーメンスヘルスケアの一役を担う「協働」のロボット

シーメンスヘルスケア株式会社 IT 本部  藤井明美氏

―なぜツールの選択肢にUiPath が加わったのでしょうか。

藤井氏: 当初、グローバルでのガバナンスのもとでは、BluePrismを使ってインドで開発することになっていました。弊社の場合、バックオフィス業務はグローバルで集約されている機能も多いためです。しかし、日本拠点で、現場のニーズに応えるスピードで対応を進めるには、当社の要件を満たす別の RPAツールを導入する必要があるのではないかと検討を始めました。

藤井氏: 当社の要件を満たす RPA ツールを検討するうえでは、各部門の代表から吸い上げた情報をもとに、詳細をヒアリングして回る必要がありました。業務担当者から話を聞くと、多くの方が、数字には表れない、細かい業務に悩みを抱えているということが分かりました。例えば、月に 1回という頻度の業務でも大きな手間のかかる財務レポートなどの業務です。

長尾氏: そこでコアチームで検討し、サーバーではなくデスクトップ型の環境でも利用できるUiPathを使えるように働きかけました。綿密かつ詳細な調査により、マネジメントでも承認され、自分たちで開発するためのツールとして位置づけられています。今では、日本はUiPathの開発を加速しており、特に同様の課題があるアジアの拠点からの問い合わせも増えています。

―ツールの使い分けは、どのような判断で決めているのでしょうか。

耼原由希氏(カスタマーサービス事業本部 サービスオペレーション本部): BluePrismはサーバー型で管理されたスケジュールに基づいて稼働し、毎日大量の処理を行うような業務が得意です。一方、パソコン上で動かしているデスクトップ型で利用している UiPathは手動実行で、使いたい時に使うツールです。機能面でも、UiPathは小回りがきく印象ですね。

自分が必要なタイミングでロボットに仕事を依頼するので、コアチームでは「あなたの部署のアシスタントさんです」と紹介していて、ロボットに名前を付けてもらっているんですよ。私の部署には専用のパソコンとロボットの「開発用のJohnny(ジョニー)、稼働用のKnightley(ナイトレイ)」がいて、それぞれメールアドレスも持っています。

―名前を付けると愛着が湧きますね。ジョニー&ナイトレイさんに依頼している仕事の一例を教えてください。

耼原氏: 弊社独自で開発した情報共有ツールがあり、グローバル版から届く英語のメッセージを日本語版のツールに転記する作業が、毎日80件ほどあります。これをジョニー&ナイトレイに担当してもらっています。

一般にロボットは「人の仕事を奪う」ものだとも言われていますが、当社内では名前を付けることで、一緒に働く仲間として大歓迎されていますよ(笑)

3. RPA の稼働ログでガバナンスを担保、モニタリングを実施

―サーバー型ではなくデスクトップ型の RPA ですと、野良ロボットが発生しやすく統制上の課題があるといわれていますよね。

藤井氏: ガバナンスの観点から見ると、BluePrismなどのサーバータイプのツールを導入してRPA開発を管理する方が容易なのですが、UiPathに関しては、まだ日本だけでは費用対効果が出ないことから、デスクトップ型を利用しながら、運用と簡易な仕組みによってカバーしています。

社内展開する前に、まずコアチームが設定した基準を満たすためのプロセスリストを定義しました。次に、RPAがガバナンス要件と制御要件の両方に基づく適切なソリューションであるかどうかについて、コアチームが判断します。また、定期的に稼働状況を監視できるように、プロセスごとにログをファイルサーバーに出力する仕組みを構築しています。

そうすることで野良ロボットを監視すると同時に、稼働していないロボットがあれば理由を聞いて、問題があればサポートするようなインタラクティブな取り組みにつなげることができています。

―ガバナンス以外で工夫したことはありますか。

耼原氏: 要望をそのままロボットに置き換えるのではなくて、コアチームでプロセスを精査して見直し、スリム化する段階があります。そうすることで、ロボットに対する指示がシンプルなものになり、開発しやすくなる効果もありました。

―それは理想型だと思うのですが、なかなか時間も取れず難しいという話を聞きます。

藤井氏: Siemens Healthineersが掲げる指針の一つに「We lead by being lean(無駄なことはやらない)」があって、まずはその業務が必要があるのか考えるということ、次により効果的なソリューションを作成するための新しい効果的な方法に適応するための、俊敏性と柔軟性を兼ね備えている文化です。

ですから RPA を導入することは、以前から定常的に存在していて、行うのが当たり前だと思っていた業務を見直せる絶好の機会だとも捉えています。 私たちはRPAの導入チームですが、RPA候補のプロセスにはRPA化出来るところまで業務が本当にシンプルになっているか、RPA以外にもっとベストな解決方法は無いか、という議論に一番時間をかけ、プロセスの担当者と一緒になって考えるようにしています。

長尾氏: 相談のあった部門に話を聞きに行ったところ、RPAではなくExcelマクロのほうが適していると判断して解決したこともあります。そのような機会を設けることによっても、業務改善のマインドが高まってきているように感じています。

―苦労したことについても教えてください。

耼原氏: ロボットが誤作動したときに「ロボットが間違えたのでは」と疑われたことですね。ロボットは言われた通りにしか動いていないので、それは人間のミスなのです。

人間なら直感的にできる操作であっても、ロボットは人間と同じように判断して動けません。まだまだ要望も上がっているので、ロボットの視点で開発する必要性を丁寧に説明して、正しい理解を浸透させていきたいですね。

4. RPA がデジタライゼーション文化を育む契機に

シーメンスヘルスケア株式会社 カスタマーサービス事業本部 耼原由希氏

―UiPath の場合、エンジニアではなく自分たちで開発するのが原則でしたよね。耼原さんは最初からスムーズに開発を進められましたか。

耼原氏: Excel マクロを記述する VBA の経験はあったのですが、それに比べると UiPath はコードレスで直感的に開発できるので易しかったですね。

ただ、なにぶん初めてのことでしたので、当初はUiPathの導入支援を行っている CACに開発を依頼しました。最初にさまざまなエッセンスが含まれている難易度の高い開発を依頼して、それを参考にしながら自分たちで開発を進めていきました。

藤井氏: 開発を依頼しつつ、並行してトレーニングも受けて、今では内製化の体制を整えることができています。開発は各部署に担ってもらい、コアチームではトレーニングなどのサポートを提供する方針です。

―UiPathは各社が取り扱っていますが、なぜ CACに依頼したのでしょうか。

藤井氏: 実はRPA BANK主催のRPA DIGITAL WORLD(2018年 11月 22日)へ参加させていただき、UiPath 関連の会社を巡っていたのですが、そのなかでハンズオンを実施していたCAC 社と出会ました。そのセミナー以来、CAC社からUiPathの開発について多くのことを学びました。CAC社は私たちのUiPath実装の非常に初期の段階を中心にサポートいただきましたが、私たちはUiPathの最新の情報を得るためにコミュニケーションを続けています。

―これまでの取り組みを振り返ってみて、成果とこれからの展望を聞かせてください。

長尾氏: 現時点では、年間4000時間相当の業務を BluePrismで置き換えていて、今後は 7000時間ぐらいが対象になるだろうと見込んでいます。

UiPathについては候補が20プロセスほどあり、2020年度には7000時間相当の業務をアシスタントとして処理してくれる予定です。

―かなり大きなボリュームの業務が改善されるのですね。

藤井氏: もちろん数字で見て、費用対効果が大きいほうがいいのでしょうが、期待に応じたスピード感で RPA に接して、副社長も呼びかけている「デジタライゼーション」を身近に経験できたことに価値を感じています。社内ではこの1年半で「RPA」が徐々に周知されつつあり、デジタルの効果を体感する中でデジタルカンパニーになるためのマインドセットが進んできました。

AI やBI(ビジネスインテリジェンス)といったチームも立ち上がったところです。その一助として、RPAも拡大していきたいですね。

シーメンスヘルスケア株式会社 Head of Finance セリム ベンバ氏のコメント

2年前、私たちはRPAプロジェクトをスタートしました。私たちは、短期間で最初のプロセスの本番稼働に成功し、その後の拡大へと続く基盤を確立しました。

RPAの導入を通じて、我々の成功へ向けて重要なLeanやデジタルマインドが社員の方々の中で醸成されているのを実感しております。

また、より重要なこととして、年間7,000時間以上のプロセスが自動化可能であるという事実に誇りを持っています。

このことは、我々のRPAコアチームと各部門の担当者の多大なる努力により成し遂げられたことを大いに示しております。

一方で、私はRPAがAIやChatbot、BI Toolといった他のデジタルイノベーションとのコラボレーションでさらなる可能性を創出できると、強く信じています。

グローバル医療機器会社として、デジタル化をさらに進めることは、我々の重要な戦略の一つであり、RPAのような活動は、このデジタル変革を導く方向性を示すきっかけとなっています。

―ありがとうございました。

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