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京セラ新入社員が提案、たった数時間で「40万件の地獄の棚卸し」を効率化した神アプリとは

京セラの広大な物流倉庫では毎日、従業員による手作業で棚卸作業をしていた。時間効率の悪さに加え、人的ミスの懸念される手作業を一つのスマホアプリが改善したという。

» 2020年06月24日 08時00分 公開
[野依史乃キーマンズネット]

 ファインセラミック部品の専業メーカーとして1959年に創業した京セラ。現在では、情報通信とモビリティ、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアの4つに重点を置き、素材や部品から、機器、サービスまで幅広い事業をグローバルに展開している。同社の物流倉庫はこれまで、従業員が紙のリストを見ながら日々、在庫の棚卸作業をしていたという。

 当然、従業員が手作業で棚卸しをするということは、目視での確認だ。40万点以上の製品を取り扱う同社の物流倉庫では、製品やリストの受け渡しのために広大な倉庫内の移動が頻繁に発生する。時間コストがかかるだけでなく、リストへの記入とそのデータをPCで入力するのも手作業なため、在庫管理の精度に多くの課題があったという。

 多くの企業がそうであるように京セラも業務のIT化に力を入れてきた。そのため、幾度となく現場改善のアイデアが挙がったが、その規模の大きさから、初期投資が必要な場合が多く実際のチャレンジには二の足を踏んでいたという。

 そんな中、京セラはアステリアの業務用モバイルアプリ作成ツール「Platio」を導入し、同社独自の棚卸アプリを1日かからず作成、運用を開始した。入出荷のあった在庫リストが表示されるため、リストに従って棚卸結果を入力すれば棚卸報告まで完了できるようになった。

京セラが作成、導入した棚卸アプリの画面イメージと作業手順(提供、アステリア)

新人の提案が、ものの数時間で現場の作業効率を改善

 物流倉庫の現場で働く新入社員が「現場の業務で必ず使用するスマートフォンで棚卸用のアプリを作れないか」という意見を出した。そこで導入した一つのスマホアプリが、新たなチャレンジに踏み出せなかった物流の現場を変革したという。そこには、“現場のホンネ”があった。京セラの高岡慎哉氏(物流事業部 事業推進部 システム推進課)は、次のように語る。

 「物流Techと聞くと、AI(人工知能)や最先端のロボットの導入など、華やかで規模の大きな技術の利用を思い浮かべがちですが、莫大なコストと時間がかかります。物流現場の本音としては『今すぐ』改善できる仕組みを求めています」

実際の倉庫内作業の様子(提供、アステリア)

 今回導入に至ったPlatioは、サーバ構築やアプリ構築費といった初期投資が不要でコストハードルが低く、業務改善にチャレンジしやすかったようだ。「現場で簡単に始められる物流Techの第一歩として社内でも好評です。すでに資材部門でも入荷物の検品チェックで使う異常報告アプリのテスト運用が検討されています」(高岡氏)。

 現場担当者がアプリから入力したデータはクラウドに保管、管理者へリアルタイムに共有され、タイムリーに現場の状況を把握できる。さらに、入力データの変化を自動検知し、異常があれば管理者へ通知する機能も搭載している。

 京セラは、棚卸報告をデータ化したことで、在庫照合を自動化した。目視チェックによるミスがなくなり、在庫精度の向上を実現した。加えて、現場の改善提案をアプリに反映して運用できるため、業務改善に直結しやすく、社内での改善提案も活性化したという。このように、人的ミスが懸念されていた紙リストと手作業の時代から大幅な効率化と精度向上を実現したようだ。

 さらに、アステリアは2020年6月16日、PlatioのAndroid版のリリースを発表した。これまでPlatioはiOS端末を利用する企業を対象に導入されてきたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以後のニューノーマル(新常態)を目指すに当たり幅広い業界で従業員が自身の保有するスマホをBYOD(私物利用)端末として業務で利用するケースが拡大。国内の半数以上のシェアを占めるAndroid端末への対応ニーズが広がっていることを背景としている。

 京セラでもPlatioのAndroid版がリリースされたことをきっかけに全国物流拠点への展開を検討。将来的には現在の3倍のユーザー数である100人以上の利用を見込んでいるという。

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