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孤立を深める社員が”祟り神”になる? テレワークで優先して見つけるべき「危険信号」とは

コロナ禍をきっかけに爆発的に普及したテレワークのメリットとデメリットが明らかになりつつある。特に注意すべきは、孤立を深める「仕事が回せない」従業員だ。

» 2021年07月15日 07時00分 公開
[福永理美キーマンズネット]

 働き方改革や訪日観光客の増加に伴う交通機関の混雑対策として推し進められてきたテレワークは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行をきっかけとして急速に普及した。2020年初頭に「ビジネスを止めないため」の緊急避難的な対策として在宅勤務を取り入れた企業の多くが、BCPや労働生産性の向上といった目的でテレワークを定着させつつある。

 在宅勤務には「通勤時間が短縮される」や「個々の生活スタイルにあった働き方か可能になる」といったメリットがある一方で「チームメンバー間でのコミュニケーションが不足する」や「管理が難しい」といったデメリットもあり、これらの課題の解決はいまだ手探りだ。

 約3400人を対象とした大規模調査から、従業員が感じる働き方の変化や課題、注意すべき傾向などが明らかになった。これまでとは異なる就業環境において、従業員はどのような変化を感じており、企業の生産性はどう変わるのか。

 2021年6月30日、クアルトリスは「働く人の意識調査〜企業が在宅勤務を緊急導入して 1 年、働き方と従業員エンゲージメントはどう変化したか?〜」と題した記者発表会を開催した。同発表会ではインテージによるアンケート調査(回答期間4月22日〜26日、有効回答者数:在宅勤務者1000人および完全出勤者2405人)の結果と共に、コロナ禍前後で従業員が感じている働き方の変化が報告された。その結果、多くの従業員が今後も在宅勤務を取り入れることを希望していること、在宅勤務により業務の偏りが顕著になっていること、パフォーマンスの低い従業員が孤立を深めていることなどが浮き彫りとなった。

コロナ収束後も出勤とリモートのハイブリッド型が定着。企業側の課題とは

 調査結果によると、在宅勤務をしている従業員の多くが、COVID-19の収束後も完全出社に戻ることを考えていない。すでに在宅勤務を行っている従業員については9割近く、在宅勤務をしていない従業員においても約3割が「コロナ禍が収束しても在宅勤務をしたい」と回答していた。

従業員はコロナ禍以降も「在宅勤務をしたい」と考えている(出典:クアルトリクスの調査結果)

 クアルトリクスの市川幹人氏(EXソリューションストラテジー ディレクター)は近年の変化について「2020年の在宅勤務は、COVID-19対策として緊急的に導入された。しかし今後は出社と交えた形で恒常的に定着する可能性が高い。そのため、在宅勤務によって企業側や従業員側に何か問題が生じていれば、一時的なものと看過せずに対策を講じる必要がある」と語る。

 テレワークには「目の届かないところで従業員がバラバラに業務を遂行する」や「ちょっとした相談や会話がしにくい環境となる」「各自の事情により業務環境が異なる」といったデメリットがある。これらの「小さな不便」が業務分担の偏りや役割の不明瞭化、コミュニケーション不足、帰属意識の低下などにつながる。さらに本調査では、テレワークで生じるこれらの問題が従業員一人一人のパフォーマンスと密接に関連することが示唆された。アンケート結果によれば、パフォーマンスの高い従業員には仕事が集中するが業務効率は上がり、パフォーマンスの低い従業員は効率が悪化するとともに社内での孤立を深めている。

 調査結果を全体で見ると、テレワークが定着して新たな業務環境に慣れた組織では、コロナ禍以前とほぼ変わらない業務スタイルが実現している。コロナ禍前後における「業務時間」と「業務量」「業務効率」の増減を聞いたところ、「増えた」と回答する人と「減った」と回答する人が拮抗(きっこう)しており、全体の生産性は同等であることが示唆された。

テレワーク定着後の生産性は、全体的には「ほぼ変わらない」傾向(出典:クアルトリクスの調査結果)

しかし回答者個人の業績が「職場の平均を超える」と回答した人と「職場の平均を下回る」と回答した人に分けて見ると、個人業績の高い従業員はどの項目も上がったと回答する人が多く、個人業績の低い従業員はどの項目も下がったと回答する傾向があった。パフォーマンスが下がったと回答している従業員には「役割が不明確になった」と回答する人も多い。「何をすればよいのかわからない」という状態で担当業務が減り、その分の業務がパフォーマンスの高い従業員に集中している可能性がある。

従業員のパフォーマンスによって在宅勤務が与える影響が異なる(出典:クアルトリクスの調査結果)

 市川氏はこの傾向において「課題視すべきはパフォーマンスの低い従業員の状況だ」と述べる。業務量が減っているはずのパフォーマンスの低い従業員の方が「精神的疲労感が増えている」と回答する傾向がある。この課題の要因として推察されるのが、在宅勤務によるコミュニケーションや帰属意識の低下だ。

 パフォーマンスの低い従業員の方が「ちょっとした思いつきを気軽に話す機会」や「ささいな困り事や迷うことを相談する機会」を「減ったと感じる」と回答した割合が高い。業務量が多く、パフォーマンスの高い従業員はテレワークでもコミュニケーションの機会に恵まれやすい一方で、業務量が少ない従業員は社内で孤立してしまい、帰属意識を失いやすい状況が推察される。

ローパフォーマンスな従業員は「うまくいっていない」ことに悩んでいる(出典:クアルトリクスの調査結果)

 さらに、パフォーマンスの低い従業員は「精神的な疲労感が増した」「会社は私生活に配慮した対応を十分にしてくれていない」という不満を抱えている姿が見て取れる。市川氏はこの状況に対して「孤立した従業員は生産性が落ち、健康を害したり、他人に攻撃的になったりする傾向がある。この問題は企業にとって看過するべきではない」と警鐘を鳴らした。

従業員エンゲージメントと影響を与える要因

 問題の対応をするにあたり一つの指標となるのが「従業員エンゲージメント」だ。会社や組織の方針や戦略に共感し自発的に業務に取り組む従業員を「エンゲージしている従業員」と捉え、貢献意欲ややりがい、勤務継続の意向などに関する5つの項目を通してその程度を測る。

 グローバルでは、全従業員の5〜6割の従業員がエンゲージしている状況が一般的とされる。今回の調査では、回答者4割程度がエンゲージしているが、パフォーマンスの高い従業員の方がエンゲージしている割合が高い。管理職の方がエンゲージしている割合が高く、男女差は見られなかった。

 従業員のエンゲージメントは、従業員が帰属意識とウェルビーイング(良好な状態)を得られているかとの相関が高い。前者を示す「勤務先の一員であることを実感できる」と「仕事をしているときにありのままの自分でいられる」の項目、および後者を示す「仕事を通して活力を得ている」と「自分を前向きに捉えている」「仕事上で信頼関係を築いている」の項目にポジティブに応える従業員は、エンゲージメントしている従業員である傾向が強い。「従業員がこれらの項目を満たせるような施策を打つことで、従業員の孤立を解消して企業の生産性を高められる」(市川氏)。しかし、従業員の精神的満足度が関連する項目である以上、具体的な方策は従業員の声を聞きながら検討していく必要がある。

従業員エンゲージメントに影響する要因(出典:クアルトリクスの調査結果)

 市川氏が最後に示したのは「コロナ禍以前と比べて、従業員の声に基づく経営が必要になったか?」という質問に対して、半数の人が「YES」と回答したものの、実際のアクションが追いついていないというデータだ。問題意識は持ちつつも、具体的にどこから手を付けるべきか分からない現状が見て取れる。

 これを踏まえて市川氏が検討すべきとしたのは「業務分担や役割分担」と「ウェルビーイング」「連携、帰属意識」「成長の機会」の4つのテーマだ。

 市川氏は「これらの課題をハイブリッド型の中で、今まで以上に重視するべきテーマとして捉えてほしい」と述べ、 評価軸が明確なジョブ型人事制度の採用やワークライフバランスの意識、ダイバーシティの重視といったトピックを挙げつつ、これらの方策を従業員のエンゲージメントに適用し、生産性の向上や帰属意識の向上、離職率の低下などにつなげる重要性を強調した。

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