ペーパーレス化の促進に寄与するとされる「電子帳簿保存法」だが、企業の対応は進んでいるのだろうか。対応状況や期待感、法律の認知度などを聞いた。電帳法に対する企業のリアルな“所感”とは。
キーマンズネットは2021年7月2〜7月21日にわたり、「経費精算システムの利用状況」に関する調査を実施した。
請求書などのデータ保存を促進する「電子帳簿保存法」(以下、電帳法)は、ペーパーレスを後押しする法律だと言われる一方、情報を電子データとして保存するため要件が厳しいために適応が進まないという声も聞かれる。企業の対応状況や期待感、法律の認知度などを聞いた。電帳法に対する企業のリアルな“所感”とは。なお「令和3年度税制改正の大綱」に従って2022年1月に改正電帳法が施行される。本稿では改正内容についての理解度も調査した。
本アンケートでは、全回答者数226人のうち情報システム部門が35.0%、製造・生産部門が17.7%、営業/営業企画・販売/販売促進部門が13.3%、経営者・経営企画部門が7.5%などと続く内訳であった。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
まず、2020年10月に改正されたばかりの現行の電帳法について理解度を聞いた結果「よく理解している」(3.1%)と「少し理解している」(42.9%)と合わせて46.0%が多少なりとも内容を把握している一方、「名前は聞いたことがあるが、内容は理解していない」(36.3%)「名前を聞いたことがない」(17.7%)とした回答者は合わせて54.0%について電帳法の理解が進んでいないと分かった(図1)。
電帳法は1998年の施行から改正を繰り返してきたため、改正の都度内容を追いかけたり、対応フローや影響範囲を把握したりすることは容易ではない。
直近でも「令和3年度税制改正の大綱」で示された改正が2022年1月に施行される予定だ。令和3年度電帳法改正に関する理解度は29.2%とより低い結果であった(図2)。全体の約4割が「改正されることを知らない」と回答しており認知度の低さが伺えた。
2022年1月施行予定の改正内容では、帳簿類を保存する際の「保存、検索要件の緩和」や「電帳法を適用する際に求められていた税務署への申請、承認制度の廃止」といった大幅な規制緩和が定められている代わりに“罰則”も強化された。保存した電子データの改ざんにより不正計算がなされた場合などは、重加算税が10%加重される。取引先から授受した電子取引データを紙書類として保存することが禁止され、法令要件に沿ったデータ管理が必須となった。令和3年度の改正内容については「【ココだけ押さえて】令和3年度電子帳簿保存法の改正ポイント」の記事内で紹介しているので、ぜひチェックしてほしい。
現行の電帳法への企業の対応状況はどうだろうか。全体で28.8%の回答者が「対応しており、対応システムを導入している」、46.9%が「対応予定(システム導入の有無問わず)」と答えた。従業員数が1001人以上の大企業は、38.9%がシステムによる対応を実施しており、規模が大きい企業ほど対応システムの導入率や検討の割合が高くなる傾向にあった(図3)。
法律に準拠するためには、機能要件を満たしたシステムの導入や運用フローの構築などに予算や人手が必要だ。さらに従業員が多いほど電帳法への適応によるペーパーレス化の恩恵を受けやすくなる。こうした事情から規模が大きい企業を中心に対応が進んでいるものと考えられる。
実際に「対応しておらず、今後も対応する予定はない」(24.3%)とした回答者を対象にその理由を聞いたところ、フリーコメントで「予算も人も割けない」や「企業規模がそれほどでない」という回答が寄せられた。「決裁のフローが全て紙ベースで、ペーパーレス化に向けての検討自体がこれから。新型コロナの影響で収入が落ち込んでおり、新規の予算獲得も困難な状況」など、紙運用からの脱却が困難な状況もうかがえた。
その他対応が進まない理由として「運用フローが複雑になりそう」など対応部門の負荷を危惧した回答や、「今のままで良いという空気がある」「経営陣が電帳法を理解できていない」や「改正内容の理解が進まない」など、電帳法に対する理解や温度感が低いとした回答も寄せられた。
一方、現行の電子帳簿保存法に「対応している」(28.8%)「対応予定」(46.9%)とした方(合わせて75.7%)に理由を聞いたところ、ペーパーレス化の促進や経理業務の効率化を期待する声が挙がった。ペーパーレス化を促進したい理由として「保管スペースの限界を超えたため」や「印紙代、印刷代の節約」という回答も見られた。
コロナ禍を契機に、紙のワークフローが中心でテレワークに対応しにくい経理業務にメスを入れようという機運が高まっていることがうかがえる意見も寄せられた。電帳法に対応している、またはする予定の理由として「在宅勤務が増加していることでの効率性」や「自宅勤務が増えても経理処理がつつがなく進むように」とした回答がその例だ。
その他「会社の信用度アップ」や「グローバル企業としての必然性から」というように、立場上、電帳法への対応が必須であるとする意見も見られた。
最後に、2022年1月施行予定の電帳法の令和3年度改正について「よく理解している」(2.2%)「少し理解している」(27.0%)とした回答者(29.2%)に対し、「本改正によってペーパーレス化は促進されるか」という質問をした。「促進されると思わない」は12.1%に止まり、「そう思う」(33.3%)「ややそう思う」(54.5%)とした回答者は9割に上った。
前述したように令和3年度の改正では法的要件の規制が緩和されている。「保存、検索要件の緩和」の一例として、国税関係書類のうち電帳法の中でスキャナー保存データとして分類されるものは、一定の条件を満たした場合に、データを保存する際のタイムスタンプ付与が不要になる。
また電帳法を適用する際に求められていた税務署への申請承認プロセスも廃止され、対応のハードルが下がった。電子帳簿保存法改正を機会と捉え、経理フローを再度見直すことも手かもしれない。
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