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Microsoft 365から考える「デジタルツール食わず嫌い」の治療法

Microsoft 365には「Microsoft Teams」やOfficeツールといった日常的に使われるツールもあれば、日の目を見ないツールもある。中には利用したことはないが、“意外と使える”と思うものもあるかもしれない。

» 2021年09月22日 15時30分 公開
[太田浩史内田洋行]

 「Microsoft 365」に含まれるツールやサービスはユーザー部門、IT部門向けなど多岐にわたり、ツールの多さが利用者を惑わせる。利用者である従業員が「そもそも、ほとんどの機能を知らない」という状態ならば、Microsoft 365の活用が進まないのは当然だ。

 近ごろ業務のデジタル化に伴ってツール教育に力を入れる企業が増え、当社へ「Microsoft 365のツール教育に向けたアドバイスや支援をしてほしい」といった声が寄せられる。特に業務のデジタル化を進めている企業であれば、従業員のデジタルツールのリテラシー向上策は必須と言えるだろう。

 本稿では、組織のデジタル化を考える上で導入の次に重要な「デジタルツール教育」に焦点を当て、教育計画の立案方法や有効な学習コンテンツなどを考えていきたい。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 ネットワークビジネス推進事業部)

2010年に内田洋行でOffice 365(Office 365の前進であるBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Office 365の導入から活用を支援し、Office 365の魅力に憑りつかれる。自称Office 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


従業員のレベルや役割に応じて教育計画を策定する

 従業員のツール教育を考えるに当たって「誰に対して、どんな教育コンテンツを、どのタイミングで、どう実施するか」が重要だ。どの部署、部門でも大抵1人くらいはITツールに明るい従業員がいるものだが、そうした従業員に対して基本的な操作方法を教えてもあまり意味はない。基本的な操作はすでに知っているのだから、学びたい内容は他の従業員とは異なるはずだ。まずはITツールに明るい「パワーユーザー」と、その他のユーザーを分けて考えるところから始めよう。教育計画について「誰に、どのような内容を、どう教えるか」を簡単にまとめたものが図1だ。

図1 ITツールに関するユーザー教育の計画例(出典:筆者作成の資料)

 パワーユーザー向けの内容について、近ごろ利用する機会が増えた「Microsoft Teams」の社内教育を例に挙げると、タブの活用方法やファイルの管理方法、連携して利用する「Microsoft Planner」「Microsoft Forms」の利用方法といった、応用的かつ実践的な内容を含めるといい。さらに踏み込んだ活用を進めるには、パワーユーザー同士で社内の利用例を共有し合ったり、機能の使い方を教え合ったりする機会を作ることも効果的だ。

 その他の従業員については、まずは基本的な操作方法を含む教育から始めるといい。注意すべきは、教えるツールや機能を増やしすぎないことだ。基本的な操作方法を学びたいユーザーにとっては、あれもこれもと詰め込み勉強のように教えられても消化不良で終わってしまうことがあるからだ。

 講習会の実施方法は、コロナ禍をきっかけに会議室などに集合する方法からオンラインで学習コンテンツを視聴する方法へのシフトが進んでいる。講習コンテンツについては、操作方法などを動画で説明し、社内に共有する企業もある。教材に動画を用いることで、操作手順が分かりやすくなり、分かりにくいところは何度も見返すこともできる。好きなときに空いた時間を利用して学ぶこともできるなど利点も多い。

パワーユーザーを味方に付けたさらなる取り組み例

 従業員の中には、そもそもツールの便利な機能の存在を知らないといったユーザーもいる。そうしたユーザーに対しては、機能の認知度を高めるための社内向けの広報活動も有効だ。ポータルサイトでツールの便利機能を定期的に紹介したり、メールマガジンを定期的に配信したりといった工夫をする企業もある。さらにツール教育に力を入れている企業では、社内に向けた相談会や、業務時間の合間を縫ってミニセミナーなどを実施している。

 Microsoft 365の活用推進に前向きな企業では、パワーユーザーを講師とした講習会を実施する例もある。従業員にとっても、同じ現場目線での活用方法やアイデアは参考になることが多く、単に機能を説明されるだけよりも納得感が得られ、理解も進む。身近な仲間から勧められたことは心理的に受け入れやすい。こうした施策が可能な企業は、IT部門とパワーユーザーが一緒に講習会の内容を検討し、協力し合いながら進めるといいだろう。

 ある程度ツールの利用が進み始めたら、従業員同士が情報を共有し合えるコミュニティーを運用してみるといい。基本的にはIT部門が主体となって従業員の質問に答え、時にはパワーユーザーの協力を得てもいいだろう。

 大事なことは、ユーザーに対して継続的に情報を発信し、コミュニケーションを取る手段を用意しておくことだ。ご存じの通りMicrosoft 365はクラウドサービスであり、日々機能の追加や改善が加わるものだ。ユーザー教育もそれに合わせて継続的に進めるのが理想的だ。「導入時にIT部門や管理部門が操作方法の説明会を実施したが、それ以降はユーザーに任せきり」という企業もある。しかしそれでは、従業員が追加機能をキャッチアップできないばかりか、ユーザーの使い方もアップデートされないといった事態に陥ってしまう。

図2 導入前から導入後までのフェーズ別施策例(出典:筆者作成の資料)

 本稿ではMicrosoft 365を導入したものの活用が進まない背景には、従業員が「機能の使い方が分からない」「そもそも機能の存在を知らない」といった理由があり、問題解決のためのアプローチとして、従業員教育や社内向け広報活動を紹介した。

 こうした手法を採らなくても社内での活用は徐々に進むだろう。しかし、その時間を短縮するためには、従業員教育や社内向け広報活動が重要になる。さらに、継続的に機能の追加や改善が行われているMicrosoft 365を効果的に活用するためにも、情報発信やコミュニケーションは継続して行われことが望ましい。

 Microsoft 365では、機能の開発やカスタマイズの自由度に制限があるものも多く、サービスとして提供される機能をどれだけうまく利用できるかが鍵となる。そのためには、従業員教育や社内広報などの活動が求められる。従業員教育に力を入れる企業が増えているのもその表れだろう。

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