2020年を境にテレワークシフトが一気に進んだ。1年超が経過した現在、組織の働き方はさらに変容を見せ、これからは「ハイブリッドワーク」がキーワードとなりそうだ。
テレワークも一長一短で、メリットばかりではない。仕事に集中できる場所がないといった就労環境の問題や、最近では従業員のメンタルヘルスも課題となってきている。テレワークへの意識は世代によっても異なり、ある調査によれば20代などの若い世代ほど出社もしたがる傾向にあるという。オフィスで働くことで同僚と関係性が築ける他、気軽に先輩社員に相談でき、アドバイスを受けたり、指示を仰いだりもできる。オフィスでは、先輩仕事のやり方を見て学ぶ機会もある。職種や仕事内容、世代などによって、求める働き方もそれぞれで異なる。
2020年後半辺りから、オフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方「ハイブリッドワーク」という言葉をよく耳にするようになった。従業員がそれぞれの仕事に合わせて、働く場所を柔軟に選択できるという働き方だ。ハイブリッドワークの実現にはさらにIT活用が重要になる。
連載5回目となる本稿では、「Microsoft 365」に加え、最近新しく発表された「Windows 365」や「Windows 11」がハイブリッドワークの実現にどう役立つのかについて、最近のMicrosoftの動向も見ながら考えていきたい。
働く場所の選択肢が増えてきている。コロナ禍以前はオフィスや自宅、カフェなどが主だったが、最近はワーキングスペースを備えたマンションなどができ、シェアオフィスやサテライトオフィスの利用が増えている。働く場所を柔軟に選択できるようになれば、オフィスではなくあらゆる場所からいつでもアクセス可能なIT環境を中心に置いて考えるべきだ。IT環境が仕事の中心にあるからこそ、働く場所を柔軟に選択できるようになるとも言える。
Microsoft 365においてコミュニケーションやコラボレーションを担う「Microsoft Teams」は参加者全員がリモートで参加するオンライン会議だけではなく、ハイブリッドワークでオフィスワーカーとリモートワーカーをつなぐ機能の拡充も検討されている。Microsoftが公開している動画「Microsoft Teams: The future of meetings(会議の未来)」では、会議室にいるメンバーとリモート参加者をいかにシームレスにつなげるか、そのためには機能や会議室はどうあるべきかを考えている。
この考えを具現化する機器が「Microsoft Teams Rooms」だ。Teams Rooms対応機器は、Microsoft製以外にもサードパーティー製品も多く、今後マルチディスプレイへの対応や機能追加の予定もある。会議室にいるメンバーとリモート参加者に分かれて行う会議の難しいところは、会議室にいるメンバー同士だけで話が盛り上がり、リモート参加者が“置き去り”になってしまうことだ。そうした状況を防ぐためにも、Microsoftはリモート参加者が映された大きな画面を半円状に囲むようなテーブルの配置や、カメラを目線の高さに設置するなどの提案をしている。会議室のメンバー同士だけで話が終始しないための工夫だ。
2021年8月に提供が始まった「Windows 365」や、これからリリースが予定されている「Windows 11」もハイブリッドワークを意識したものだと考えられる。
Windows 365とは、つまり「ブラウザでも利用できるWindows」だ。利用端末を選ばず、PCやタブレット端末などさまざまなデバイスから接続できる。いつでもどこからでも、デスクトップ環境にアクセスできる、MicrosoftのDesktop as a Service(DaaS)だ。
Microsoft 365 E3やE5と組み合わせた利用が想定される「Windows 365 Enterprise」では、クラウド環境からオンプレミス環境に接続するネットワークを事前に構成しておくことで、クラウドのWindowsを社内の「Microsoft Active Directory」(AD)に接続させるなど、社内システムリソースへのアクセスが可能となる。社内で動作するPCが常にクラウドにあるような格好だ。
MicrosoftはWindows 365以前から「Microsoft Azure」のサービスとしてクラウドでWindowsを利用できる「Azure Virtual Desktop」を提供していた。Windows 365との大きな違いはマシン構成のカスタマイズ性にあり、柔軟に構成変更が可能だ。Windows 365は構成に制限はあるものの導入や構築の手間が少ない。そのため、少人数のIT部門でも導入を検討できるものになっている。
2021年10月から提供が予定されている「Windows 11」もハイブリッドワークを意識したOSだと考える。Windows 11発表時に大きな話題となったのが、セキュリティチップである「TPM 2.0(Trusted Platform Module 2.0)」がインストールの必須要件に加わったことだ。これは、PCを持ち出す場面が増えるハイブリッドワークに必要なセキュリティ強化のための施策の一つと考えられる。その他にも、「BitLocker」や仮想化ベースのセキュリティ機能が、Windows 11のマシンであれば初めから利用できる。顔認証や生体認証を利用したパスワードを使わない認証技術も重要視され、導入プロセスも簡単だ。まずはMicrosoftアカウントを対象とした一般利用者向けの機能から提供がされているが、今後は企業向けにも機能が提供されていくだろう。
また、本記事執筆時点ではWindows 11にはMicrosoft Teamsの機能が統合される予定で、インサイダープレビューでは個人向けの機能の一部が実装されている。OSと統合したMicrosoft Teamsは開発者の中では「Microsoft Teams 2.0」とも呼ばれており、現在のバージョンと比較してメモリ使用量がおよそ半分に抑えられるなど動作の軽量化も期待される。これがいずれ企業向けのMicrosoft Teamsにも採用されることで、コミュニケーションやコラボレーションの中心となるMicrosoft Teamsが今よりも快適に利用できるようになるはずだ。
2020年はCOVID-19によるパンデミックの影響で在宅勤務などのテレワークを迫られ、そのメリット、デメリットを体感した。現在は、次なる働き方を検討するフェーズに移行しつつある。従業員の生産性向上だけではなく、「企業の継続性や競争力を高めるためにも働き方の柔軟性を確保することが重要だ」と考える企業もある。その施策の一つとして、オフィスワークとリモートワークを従業員が柔軟に選択できるハイブリッドワークがある。Microsoftの動向を見てもハイブリッドワークが一つの大きなテーマとなっていることが分かり、Microsoft 365もそのテーマを軸として機能の追加や改善が進められている。ハイブリッドワークの実現にもMicrosoft 365のさらなる活用が重要になってくるはずだ。
これからも注目されるであろうハイブリッドワークには、ITを働く場の中心に置くことが重要だ。そして、今回の連載でも述べてきたように、Microsoft 365の活用にはシステムの導入だけではなく、周辺業務のデジタル化や、人的または社内文化的な支援や施策も重要となる。今回の連載が、そうした施策を検討する時に、何らかのヒントになれば幸いだ。
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