チャットやWeb会議などユニファイドコミュニケーションツールとして印象が強い「Microsoft Teams」だが、Power Platformとの連携強化により、活用の幅をさらに広げられる。連載3回目では、Teamsを業務ツールに変えるカスタマイズ術について解説する。
近ごろ国内でもローコード/ノーコードツールが注目され始めている。Microsoftも「Microsoft Power Platform」を提供し、「Microsoft 365」ユーザーはPower Platformの一部の機能を利用できるが、Microsoftは2020年11月16日に、Microsoft 365ライセンスを保有する「Microsoft Teams」ユーザーに対して「Microsoft Dataverse for Teams」の提供開始を発表した。Microsoft Dataverseは、以前は「Common Data Service」の名称でPower Platformにおける重要なデータストアの役割を担っていたものだが、サービス名がMicrosoft Dataverseに改称され、それに合わせてMicrosoft Teamsユーザー向けにMicrosoft Dataverse for Teamsが提供されることとなった。
これにより、Microsoft 365ユーザーは追加コスト不要で、Teamsで動作する「Microsoft Power Apps」の柔軟かつ高度な業務アプリを作成でき、さらに「Microsoft Power Virtual Agents」を利用したチャットbotなども容易に作成できる。Microsoft Teamsの活用の幅をさらに広げられるようになったというわけだ。Teamsを単なるコミュニケーションツールではなく、業務ツールとしても活用する上で今後の重要なツールになりそうだ。連載3回目となる本稿では、Microsoft Dataverse for Teamsを用いて、Power PlatformとMicrosoft Teamsとの“合わせワザ”によるアプリの作成方法とその手順について説明する。
Microsoft Dataverseの前身であるCommon Data Serviceは、セキュリティ面も十分に考慮された利便性のあるデータストアであったが、利用するにはMicrosoft 365のライセンスに加えて、Power Appsなど、Power Platformのサービスごとのライセンスを追加購入する必要があった。
2020年は世界的にテレワークが普及した年となったが、チャットやオンライン会議だけでなく、「より多くの業務をTeamsで行えるように」というMicrosoftの考えから、Teamsユーザー向けのサブセットとなるMicrosoft Dataverse for Teamsの提供を開始した。Teamsを利用できるMicrosoft 365のライセンスがあれば追加コストは不要なため、ユーザーとしては単純にTeamsで実現できることが増えたことになる。こうした大きな機能追加はクラウドサービスらしい。
Microsoft 365ライセンスの範囲でPower Appsを用いた業務アプリを作成する場合、データは、SharePoint Onlineのリストに格納することが多かった。SharePointリストは簡単なGUI操作でデータテーブルを作成でき、簡易的な入力フォームも自動生成されるなど便利なものだが、業務アプリのデータストアとしては機能が不足している面もある。例えば2つのテーブル間のデータを関連付けて管理するデータリレーションシップの機能などだ。Microsoft Dataverseはこうした機能を備え、より柔軟にデータを活用したアプリを作成できる。
Dataverse for Teamsの基本的なデータ操作はフル機能のDataverseと同様で、SharePointリストをデータストアとした場合よりも高度なアプリ作成への活用が期待できる。
Dataverse for Teamsを利用する場合、ゼロから直接Dataverseのデータベースやテーブルを作成することができないため、Power AppsのアプリやPower Virtual Agentsのチャットbotから作成を始める必要がある。まずはPower Appsのアプリ作成を例に、流れを説明していく。
画面に従ってPower Appsのアプリ作成を進めると最初にチームの選択を求められるが、これはDataverse for TeamsのデータベースがTeamsのチーム単位で作成されるためである。さらに進むと、テンプレートからアプリが自動作成され、このアプリで利用するテーブルを作成する。
テーブルの作成は必要な項目を追加するだけだ。必要があれば、この画面からデータを直接入力することもできる。あとは、アプリからデータを登録できるようフォームの表示部分を修正すれば、データを参照、入力、編集できる簡単なアプリが完成する。もちろん、本来のPower Appsで作成するアプリのように機能を拡張したり、他のクラウドサービスと連携する機能を追加したりといったことも可能だ。
こうして作成したアプリは、Teamsのタブアプリとして利用できる。ユーザーはチームで他のメンバーとコミュニケーションを取りながら、業務に必要なデータを確認し入力できるというわけだ。もちろん、スマートフォンやタブレットのTeamsアプリからアクセスすることで、モバイルからでも利用できる。
Dataverse for Teamsを利用する上でのポイントは、Power Appsを用いたアプリ作成から利用までをTeamsで完結できるという点だ。そして、Teamsで利用する場合にのみ、追加コストなしでDataverse for Teamsを利用できる。Teamsの外でもPower AppsのアプリをDataverseと組み合わせて利用したい場合は、従来通りPower Appsのライセンスを別途購入する必要があるので注意したい。
Dataverse for Teamsの提供によって新たに使えるようになったサービスがPower Virtual Agentsだ。これにより、Teamsで利用可能なチャットbotを作成できる。まずはPower Appsと同様にTeamsにPower Virtual Agentsのアプリを追加しよう。
Power Virtual AgentsでのチャットbotもGUI操作で簡単に作成できる。「botがどのキーワードに反応するか」「会話の流れはどういったものか」を定義していく。会話の途中でPower Automateで作成した処理を呼び出し、Exchange Onlineからメールを送ったり、SharePoint Onlineにデータを保存したりと、他のサービスとの連携も可能にする。
これまでチャットbotの活用には興味があっても、導入した経験がなく、導入効果も不明なため、導入や開発に費用をかけるのが難しいといった声を聞くこともある。Power Virtual Agentsによって、業務現場で気軽にチャットbotを作成でき、導入効果を確かめられる。
本来、Power Virtual Agentsで作成したチャットbotなどのアプリは、「LINE」や「Facebook Messenger」、Webサイトなどで利用できるが、Microsoft 365ユーザー向けに無償提供されるものは、Microsoft Teamsでの利用に限られるため注意したい。
過去の記事「なぜ「Power Platform」は使われない? Office 365による業務改善の可否を分ける分岐点」でも触れたが、Power Platformの活用には業務の現場にいるユーザーの活躍が重要となる。Power PlatformとMicrosoft DataverseがTeamsで利用可能になったことで、IT部門に依頼しなくても、自らが所属する部署や部門、チームなど、業務現場で作成し、その効果を試すことが容易になった。しかしながら、業務アプリやチャットbotの作成が容易になったとは言っても、作成方法を習得するには多少なりとも学習が必要になるため、社内のIT部門やPower Platformに詳しい外部のパートナーとも協力しながら進めるといいだろう。
また、今後は作成したアプリをチーム外のメンバーとも共有できる機能が追加される予定だ。そうなれば、Microsoft TeamsとPower Apps、Microsoft Dataverse for Teamsの組み合わせで、より広く活用できるアプリの作成が可能になるだろう。そのためにも、まずは試行錯誤を重ねて作成のノウハウを身に付けておきたいところだ。
Microsoft TeamsとPower Platformの連携はまだ始まったばかりだが、社内の業務を現場の従業員が自ら作成したアプリによって効率化し、Teamsから一元的に利用できることは、Teamsの活用度を高めるだけではなく、業務改善にとっても大きな可能性を感じるものだ。どういった使い方ができるかを検討していくためにも、一度まず実際に触れて試してみてほしい。
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