人事管理、従業員育成システムの「不満」や「期待する機能」「導入しない理由」などから、企業における同システムの課題を調査した。システム導入企業で起きている“残念な”利用実態やシステム未導入企業が抱える悩みとは。
キーマンズネットは2022年4月22日〜5月13日にわたり「人事管理、従業員育成ツール」に関するアンケートを実施した。全回答者数275人のうち情報システム部門が34.2%、営業/営業企画・販売/販売促進部門が14.9%、製造・生産部門が13.5%、総務・人事部門が6.5%と続く内訳であった。
今回は人事管理、従業員育成システムの「不満」や「期待する機能」「導入しない理由」などから、企業における同システムの課題を調査した。システム導入企業で起きている“残念な”利用実態やシステム未導入企業が抱える悩みとは。
前編ではシステム導入率が約1年前の調査から11.2ポイントと急増していることや満足度が高い理由、製品ジャンル別の利用形態の比較表(図1)を基にシステム面で評価されていることや意外と多い「落とし穴」の考察をした。人事情報を外に出したくないという思いから「自社開発」が好まれる傾向にあるが、場合によっては同僚に給料や住所といった個人情報が見られてしまう……というケースもある。
後編では少し視点を変え、システムへの「不満」や「今後期待すること」といった調査結果から、システム導入企業で起きている“残念な”利用実態やシステム未導入企業が抱える悩みを紹介、考察する。
前編でも紹介した通り、全体に対して、過去2年を目安に自社を振り返り「人事管理や従業員育成で課題と感じる点」を挙げてもらったところ「従業員の育成が難しくなった」(39.3%)や「スキルや業績が正当に評価されていない」(33.5%)、「従業員のモチベーションが低下した」(28.4%)が上位に続く結果となった(図2)。
2021年2月の同様の調査でも従業員の育成とモチベーションに対する課題が上位に挙がり、長引くコロナ禍において在宅勤務やテレワークといった非対面コミュニケーションによるマネジメントに課題を抱える企業が多い状況がうかがえる。
こうした人事課題を解決するのが人事管理、従業員育成システムだが、前編で紹介した満足度調査で「不満」と回答した46.2%の導入者はどのような点で困っているのだろうか(図3)。「不満」の理由をフリーコメントで聞いたところ、大きく2つの意見にまとめられた。
1つ目は「複数のツールがあり、重複入力などしている」「毎年、ツールが変わる」といったシステム運用面での使いづらさや、関連して「使いにくく操作しにくい。直観的でなく入力に時間がかかる」「やり直しなどフレキシブル性に欠ける」など、UIや機能面での使い勝手の悪さを挙げる声だ。
SaaS(Software as a Service)型のタレントマネジメントサービスや研修サービスなど、比較的評価データも移行しやすくなったがため、サービスの重複利用になってしまうケースもある。
また、自己評価やフィードバックのコメント入力など、利用者間のコミュニケーションがスムーズでないと正当な評価判断ができないため“使い勝手”が重要なツールでもある。システム選びや変更は慎重にすべきだろう。また、システムによっては自社に合わせたカスタマイズやオプション機能の追加が可能なケースもあるため、確認しておくことも必要だ。
2つ目は「具体的な評価基準が曖昧で相対評価になっている」や「評価する管理職の評価基準がバラバラ」「上司の好みで評価されている」といった評価基準に対する不満だ。
多くの人事管理システムでは、MBOやOKR、360度評価など一定の評価フレームをテンプレートとして用意しており、管理項目にひもづき従業員ごとに極力正当な評価ができるよう設計されている。
ただし「せっかくシステムを導入したのにスプレッドシートや『Excel』上で評価シートを作り、その最終数値を入力するだけになっている」「設定がブラックボックス化しており、属人化しやすい。システムで目標管理や査定を実施できるようにしたにもかかわらず、結局Excelで実施し結果だけシステムへ取り込むケースが多い」とシステムの形骸化を嘆く声に見られるように、本来想定されていた運用がなされていないケースもある。MBOやOKRなどの評価方式そのものへの理解が浸透していなければ、納得感の得られない評価やフィードバックになってしまうこともあるようだ。
実際、システムに期待する機能では「個人のスキル管理、能力把握に役立つツールや機能」(58.3%)や「操作性、安全性」(50.0%)が上位に挙がっており、評価やフィードバックによる従業員の育成が課題となっていることが見て取れる(図4)。
最後に人事管理、従業員育成システムを導入していない人に対し理由を聞いたところ「導入するほどの組織規模ではないから」(43.2%)や「費用対効果が不明だから」(33.6%)、「明確な効果を示しにくいから」(31.2%)が上位に続いた(図5)。費用対効果が測りづらいといった声は約1年前の前回調査から根強く上位に位置しており、直接的な売上効果につながりにくいバックオフィス周辺ツールならではの理由と言えそうだ。
それではシステムを導入していない企業の場合、人事管理や従業員育成をどのように実施しているのだろうか。最も多いのは「上長や人事との面談による人事評価」(62.8%)で、次いで「現場でのOJTなどによる従業員育成」(42.1%)や「従業員情報はExcelやスプレッドシートで管理」(34.5%)が挙がった(図6)。
言わずもがな人事評価では評価者と被評価者のコミュニケーションが必須だ。評価を通じて会社からの役割期待や貢献度合い、自身の強みや課題を知ることができるとともに会社に対する信頼やエンゲージメントの向上につなる重要な機会でもある。一方、コロナ影響もあり対面での面談やOJTの機会が減少しているケースも想定され、そうした際にはコミュニケーションを補佐する目的でツールやシステムの活用を検討しても良さそうだ。
従業員の成長や職場定着は経営戦略において欠かせない人事課題だ。2022年3月の全国有効求人倍率は1.22倍と増加傾向にあり、コロナ以前の状態に戻りつつある。企業の人手不足を背景に転職活動の活発化が進んでいるのだ。世界的な経済不安が続く中、優秀人材の流出は経営リスクにもなり得る。
従業員に成長を促し正当に評価することでエンゲージメントを高める組織体制にすることは、人材の流出阻止はもちろん、優秀な人材の獲得においても大きな差別化ポイントとなるだろう。その意味でも「明確な目標設定や指針などはない」(32.4%)企業を中心に人事体制に不安のある組織は、改めて見直しを検討すべきではないだろうか。
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