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「Microsoft 365」の自社マニュアルは作るべき? ただの説明書じゃない意外な効果

組織でツールやサービスの利用を活発化させるには、意外と「マニュアル」の存在は無視できない。単なる使い方の説明書としてではなく、自社のオリジナルマニュアルを作ることで副次的な効果も得られるという。

» 2022年09月15日 07時00分 公開
[太田浩史内田洋行]

 最近の業務アプリケーションやSaaS(Software as a Service)は直感的に操作できるものが多く、使いながら操作を覚えられるものが増えてきた。しかし、「Microsoft 365」はスイートサービスであり、各作業に特化したツールやサービスの集合体だ。それぞれで操作方法が異なるため、ユーザーが全てを使いこなすことは難しいだろう。そこでツールとユーザーをつなぐ役割となるのが「マニュアル」だ。近ごろは、自社の都合に合わせてマニュアルの在り方も変わってきている。今回は、マニュアルの必要性と効果について解説する。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 ネットワークビジネス推進事業部)

2010年に内田洋行でMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。

「Microsoft 365」の活用を広げるために自社独自のユーザーマニュアルを作成しようと考えています。しかし機能やサービスが多いため、それら全ての使い方をマニュアルに落とし込むのは難しいです。他のユーザー企業では、どのようなマニュアルを作成し、どのように取り組んでいるのでしょうか。

内田洋行 太田浩史氏

 Microsoft 365の機能やサービスの活用を組織に浸透させるためには、導入時の「マニュアル作成」が意外と重要です。しかし、作成したマニュアルはやがて放置され“古い情報しかないマニュアル”になり、次第に使われなくなってしまうことは往々にしてあることです。Microsoft 365ユーザー企業での近ごろの傾向として、機能や使い方を網羅したユーザーマニュアルを自社で作成することが少なくなってきています。自作マニュアルには副次的な効果もあり、各社それぞれの考え方でマニュアルをうまく活用している企業もあります。他の取り組みも合わせることで、さらに効果的に活用できるのです。

「古いマニュアル」が従業員を混乱させる元に

 マニュアルを作成する目的の一つに「導入直後の混乱防止」があります。新しいツールやサービスを使い始めるに当たってユーザーの「何をどうしたらいいのか」の理解を助ける他、ユーザーからヘルプデスクに問い合わせがあった時にマニュアルの該当ページを案内するだけで済むなど、ヘルプデスクの負荷を下げる目的もあります。

 しかし、そのために手順を丁寧に説明した詳細なマニュアルを作成するのは、コストや掛けた手間が見合うかどうかを考える必要があります。なぜなら、一度作成したマニュアルはその後もメンテナンスを続けなければ、やがて“使われないマニュアル”になってしまうからです。

 しかし、定期的なメンテナンスの重要性を見落とす企業は意外と多いのです。クラウドサービスのスイート製品であるMicrosoft 365は、機能の追加や修正、画面レイアウトの変更など、大小のアップデートが日々行われています。これまでと操作手順が大きく変わる大型アップデートも多く、古いマニュアルはかえってユーザーを混乱させてしまうこともあります。そのため、作成したマニュアルは少なくとも年に1度や2度は内容を確認して見直す必要があります。しかし、全ての機能説明を網羅しようと“リッチなマニュアル”を作成してしまうと、メンテナンスだけでも相応の手間がかかります。マニュアルは一度作って終わりではなく、その後のメンテナンスも含めて考える必要があるため、社内の人的リソースなども考慮して「どこまで自分たちで作るべきか」を判断しましょう。

マニュアルの定期メンテナンス(出典:内田洋行の太田浩史氏作成の資料)

 詳細なマニュアルは作成しないけれども、導入時のスタートアップマニュアルは作成するといったケースもあります。スタートアップマニュアルを作る目的は、ツールやサービスの初期設定をスムーズに進めてもらうことにあります。例えば、Microsoft 365へのサインインの方法やOfficeアプリのインストール方法、「Microsoft Outlook」の設定方法、Microsoft 365で利用できる機能の説明などです。操作内容を簡潔に記載した上で、確認漏れが発生しないよう作業のチェックリストも含めるといいでしょう。Microsoft 365の利用開始時は簡易的なマニュアルで済ませ、その後によく質問される内容を追記するなどの対応を採る企業もあります。

マニュアルは「優秀な広報ツール」

 多くのユーザーが目を通すマニュアルは、システムを導入したことを周知する“優秀な広報ツール”でもあります。マニュアルは手順書ではなく説明書であるため、説明や補足を加えて分かりやすく伝えることが大切です。スタートアップマニュアルでは、システムの導入目的や狙いなど「なぜこのシステムが必要なのか」という説明も含めると効果的です。

 企業によってはシステム導入時に社内のイントラネットやメールなどで導入を告知することもありますが、それに目を通さないユーザーがいる可能性もあります。目的を理解せずに指示されたことだけをやるのは、誰でも苦痛に感じることでしょう。また、導入したシステムに対して前向きな気持ちで接してもらうことで、その後の活用促進につながる重要な一歩にもなります。

ユーザーとのコミュニケーションを計画する

 Microsoft 365を導入し活用を推進する目的として、従業員の業務効率化を挙げる企業は多いですが、ユーザーを支援する手段はマニュアルだけではありません。従業員向けの事前説明会や研修会、ヘルプデスクがサポートする方法もあり、マニュアルは数ある手段の一つにすぎないのです。

 長期的にMicrosoft 365の導入効果を上げていくためには、従業員の変化や成長も必要です。それぞれのレベルや段階においてどんな支援を継続的に提供できるかといった、コミュニケーション計画を考えることも大切なことです。

ユーザーコミュニケーションの計画例(出典:内田洋行の太田浩史氏作成の資料)

 マニュアルの作成は、こうした全体計画の一部分なのです。自社の状況によって、どういった活動に力を入れていくべきなのかを検討する必要があるでしょう。特に導入初期は、マニュアルを作成して公開するといった情報提供型の手段だけでは、なかなかMicrosoft 365の利用は浸透しづらいものです。研修会などで、ユーザーと双方向のコミュニケーションを取る機会を増やすことが効果的です。

 マニュアルを作成するのはIT部門だけとは限りません。先日、面白い事例を耳にしました。現場の従業員が「Microsoft OneNote」で作成したマニュアルを共有し、それを読んだ他の従業員が「Wikipedia」のようにマニュアルを自由に追記したり修正したりしている企業がありました。そこではIT部門の従業員もマニュアル利用者の一人としてその取り組みに参加して気付いたことがあれば追記するといった運用をしていました。従業員それぞれが利用するマニュアルを、自分たちで作成するといった取り組みです。マニュアル作成というと内容だけを考えがちですが、運用方法から考え直し、IT部門や現場の従業員がコミュニケーションしながら作成する新しいマニュアルの形を実践している事例でした。

公式情報やネットにある有益な情報も有効活用する

 自社でマニュアルを作成するのは難しい、またはそこまで力を入れられないといった場合には、Microsoftが公開している動画や資料といった公式コンテンツを利用する方法もあります。

 特にユーザーに見てもらいたいWebページは「Microsoft SharePoint」にリンク集を作成して公開するなど、公式コンテンツを有効活用する企業も増えています。

 Microsoft 365は世界中のユーザーが同じ仕組みを利用しているクラウドサービスのため、他のユーザー企業がインターネットで発信する情報にも役に立つものが多くあります。ここ数年で日本の情報量も増えており、そうした情報を社内で共有して活用するのもいいでしょう。ただし、こうした情報は古くなっていたり間違っていたりすることもあるため、IT部門には正しい情報を選別する目利きの役割が求められます。

 マニュアルは必要だが自社で作成している余裕も、Microsoftの公式コンテンツを確認する余裕もない場合は、Microsoft認定パートナーのマニュアル提供サービスを利用する方法があります。月額または年額の利用料を支払うことで作成済みマニュアルが提供される他、Microsoft 365のアップデートに合わせてその内容も更新されるサービスが多いようです。現在、数社の認定パートナーがこうしたサービスを提供しており、要件に合わせて選べるようになっています。

従業員とのコミュニケーションで得る「IT部門への信頼感」

 Microsoft 365は全世界のユーザーが同じ仕組みを利用するため、ユーザーマニュアルを全て自力で作成する必要はありません。Microsoft公式コンテンツや、Microsoft認定パートナーのマニュアル提供サービス、インターネットにある有益な情報もマニュアル代わりになるものの一つです。

 社外のリソースを活用して自分たちでマニュアルを作成する手間を減らす一方で、他の手段を用いたユーザーとの接点を増やすことで、Microsoft 365の活用をさらに推進できるでしょう。また、ただマニュアルを作成して提供するだけではなく、研修会など従業員と会話してフィードバックを得られる機会を増やすことで、従業員からのIT部門への信頼感を得られる機会も増えるでしょう。こうした互いの信頼感は、システム導入をスムーズに進めるための大きな糧になります。

 ユーザーにMicrosoft 365の機能を理解し使ってもらうための手段として、マニュアルは重要な手段の一つですが、マニュアルにだけこだわるのではなくユーザーとのコミュニケーション全体を考えて、自社の状況やリソースに合ったやり方を試行錯誤していくといいでしょう。

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