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「Microsoft 365が使われない」根本原因を組織の働き方から考える

Microsoft 365の活用が進まない組織に向けて5つの解決策を紹介する本連載2回目では、組織の働き方に目を向け、Microsoft 365の活用が停滞する根本的な原因を考える。

» 2021年08月20日 07時00分 公開
[太田浩史内田洋行]

 「Microsoft 365」の機能を柔軟に組み合わせることで、普段の業務に合わせた使い方ができる。「各ツールを業務で生かし切れていない」と感じる原因として、自分たちの働き方や業務の進め方がMicrosoft 365といったITツールの活用を前提とした働き方にシフトできていないことがある。ほんのささいなことであっても、Microsoft 365の活用を前提とした行動に変えていくことで、導入メリットを感じられ、さらなる活用を進めていくことができる。

 連載2回目となる本稿では、「働き方」に焦点を当て、Microsoft 365活用が停滞する理由、そしてそこから脱するための方法を考えていきたい。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 ネットワークビジネス推進事業部)

2010年に内田洋行でOffice 365(Office 365の前進であるBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Office 365の導入から活用を支援し、Office 365の魅力に憑りつかれる。自称Office 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


必要なのは「ツールに合わせて行動を変えること」

 Microsoft 365の中心的なツールに「Microsoft Teams」(以下、Teams)がある。メールや電話が社内コミュニケーションの中心に置かれている組織では、メールや電話をいきなりTeamsのようなツールに置き換えることは難しいだろう。Teamsが使える状態にあったとしても、連絡やWeb会議で月に数回利用する程度であれば、なかなかツールの活用は進まない。

 また個人がOfficeツールを利用して作成した資料を「OneDrive for Business」に保存し、クラウドで管理するのがMicrosoft 365らしい使い方だが、PCのローカル保存やファイルサーバの文化が根付いているようであれば、これもまた同様の課題を抱えることになる。

 こうした組織においてMicrosoft 365の活用を進める方法として、情シスが従業員にツールの活用メリットを説明するなどのアプローチも考えられるが、それでも難しい場合がある。強引な方法で従業員の行動を変えることで活用が進むケースがあるが、これはトップダウンの働きかけが有効に働くことが多い。つまりは、組織のマネジャーや役員、さらには社長などから従業員に対してツールの利用を指示してもらうことだ。

 こうした効果を期待して、導入の初期段階では一般社員ではなく社長や役員からツールの操作法や活用法の研修をはじめる企業もある。筆者がある企業のMicrosoft 365の利用データを分析したところ、組織の役職者がツールを活用していない場合、ツールの活用が組織に浸透していないというインサイトが得られた。

「まずは使ってみる」から活用イメージを描く

 難しく考えれば考えるほど、Microsoft 365の活用は進みにくくなる。まずは、普段の業務を分解し、ツールと業務をひも付けるところから始めるとよい。

 私たちの業務の多くは大きく「個人」「チーム」「組織」の3つに分類できる。Microsoft 365で提供される機能を、これに当てはめていくことで、もっとシンプルに捉えられる(図1)。

 そして、それぞれの場面で「まずは使ってみる」(行動を変える)ことだ。特に、個人やチームで利用できる機能は気軽に試しやすいはずだ。

図1 業務を「個人」「チーム」「組織」に分類し、ツールを当てはめて考える(出典:内田洋行 太田浩史氏作成の資料)

 次に、Microsoft 365の機能を業務に当てはめ、業務シナリオ作ることで活用イメージを描く(図2)。例えば、Officeツールで作成したドキュメントを「Microsoft OneDrive」やTeamsで共有し、メンバーと共同編集して完成させる。そのドキュメントを「Microsoft SharePoint」に移して組織全体で共有したり、「Microsoft Yammer」で共有したりすることで、情報が社内に広がり議論が生まれることもある。

図2 業務とツールをひも付けて考え、業務シナリオを作る(出典:内田洋行 太田浩史氏作成の資料)

 最初からこうした全体の活用像を描くのは難しいが、まずはそれぞれの場面で使ってみることで、Microsoft 365を活用した業務のパーツを作ることができる。パーツができてしまえば、それらを組み合わせることで自社に合った活用の全体像が見えてくる。

働き方が変われば活用が広がる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が私たちの行動や働き方を大きく変えた。それをきっかけにテレワークを取り入れ、働く環境の整備のためにMicrosoft 365の機能を活用しようとする例も多く聞かれる。

 特に顕著に見られるのがセキュリティ対策への取り組みだ。多要素認証による不正ログイン防止の他、アクセス制限やDLP(Data Loss Prevention:情報漏えい対策)、有害リンクのフィルタリング、「Microsoft Intune」によるデバイスの管理などを検討し、導入する事例が増えている。Microsoft 365 E3やE5といった上位ライセンスに買い替える企業もある。

 「Windows Autopilot」を利用し、従業員に支給するPCのキッティングもクラウドを利用してリモートで行おうとする企業もある。従来はPCのキッティングはIT部門などで行われることが多く、その作業や受け渡しのためだけに出社するといったことがあった。Windows Autopilotの機能を利用することで、初期化されたPCを従業員の自宅に配送し、従業員がログインしたときにクラウドに登録した初期設定が適用される。これで作業や受け渡しのために出社する必要はなく、従業員が新しいPCを受け取るまでの時間も短縮できる。

図3 Windows Autopilotで働き方の変容に対応したPC運用を(出典:内田洋行 太田浩史氏作成の資料)

Microsoft VivaとMicrosoft 365の連携でテレワークを支援

 Microsoftは、2021年2月4日(米国時間)に発表した「Microsoft Viva」を通じて、Teamsをベースに業務で必要なさらに多くの機能をクラウドで提供しようと考えている。例えばMicrosoft Vivaには、従業員の自己学習を支援する「Viva Learning」や、働き方や適度に休息を取るようにアドバイスするなど健康維持を支援する「Viva Insights」がある。

図4 Microsoft Vivaについて(出典:内田洋行 太田浩史氏作成の資料)

 Microsoft Vivaが登場した背景には、テレワークの普及により働き方が変わったことがある。これまでのオフィス業務と同じレベルのことをテレワークで実現するには、業務の生産性向上だけではなく、従業員同士のつながりや従業員自身の成長支援なども考えていかなければならない。Microsoft Vivaに含まれる機能は、働き方が変容したからこそ求められる機能だ。

行動を変える、働き方を変える

 連載2回目となる本稿では、Microsoft 365を導入したものの活用が進まない理由として「ITツールの活用を前提とした働き方にシフトできていない」ことを挙げた。そしてそれを解決するための導入アプローチとして、まずは行動を変えてみること、そのきっかけとしてトップダウンでの働きかけが有効である。

 そしてさらにMicrosoft 365全体の活用を考えるためにも、まずは使ってみることで、Microsoft 365を活用した業務のパーツを増やしていくことも重要だ。

 行動が変わり、働き方が変わることで、セキュリティ対策やPCのキッティング自動化など、より高度な機能の活用が進む例も出てきた。Microsoft 365やMicrosoft Vivaによって、テレワークなどの働き方をさらに支援しようとする動きも見られる。

 Microsoft 365はそうした新しい働き方を支えるツールの一つだ。Microsoft 365を活用するには、私たちの働き方の見直しも求められるだろう。そして、私たちがその働き方を望むとき、Microsoft 365はより業務で活用できるはずだ。

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