基本パッケージにさまざまなモジュールを組み合わせることで、自社にフィットした基幹業務システムを構築できる「Microsoft Dynamics 365」。ERP分野は老舗ベンダーから多数の製品が提供されているが、他製品との一番の相違点はどこか。
1970年代にSAPが世界で最初のERPをリリースしてから50年以上がたち、現在はさまざまなベンダーが参入し製品を提供している。歴史を重ねて成熟した市場の中で、Microsoftが提供するクラウド型ERPが「Microsoft Dynamics 365」(以下、Dynamics 365)だ。基本機能にモジュールを組み合わせることで、自社にフィットした基幹システムを構築できる。
提供されるモジュールやライセンス形態が多岐にわたり、Microsoftはさまざまな選択肢を用意するが、それがDynamics 365の理解を困難にしている。本稿では、Dynamics 365の特徴と他ERPとの違い、導入メリット、そして業務領域ごとに提供されるモジュールやライセンスを整理する。
Dynamics 365は、「Microsoft Azure」で稼働するクラウド型の基幹業務アプリケーションだ。MicrosoftのCRM(顧客関係管理)パッケージ「Microsoft Dynamics CRM」とERPパッケージの「Microsoft Dynamics AX」を母体とし、モジュールを組み合わせることでカバーする業務領域を拡張できる。以下が、Dynamics 365の主な特徴と導入メリットだ。
Dynamics 365はMicrosoft 365など他Microsoft製品と共通のデータモデルを利用しており、同社製品との連携が容易だ。標準で「Microsoft Azure AD」と連携し、ユーザー登録や管理に追加作業は不要だ。販売管理や財務・会計、データ分析などでExcelを活用する企業は多いが、Excelなど「Microsoft Office」製品との連携性が高い。Dynamics 365のExcelテンプレート(パイプライン管理)を使用して、Dynamics 365のデータをExcel形式で抽出、表示した例が以下の図だ。
ERPの導入やリプレース時に議論になりがちなのが「カスタマイズ」だ。できるだけカスタマイズを加えずに業務をERPの標準機能に合わせるという考え方もあるが、Dynamics 365は「Microsoft Power Apps」を用いることで、外部ベンダーに頼ることなく自社でカスタマイズや追加開発が可能だ。市民開発によって、自社にマッチした仕組みを作れるのが大きな特徴だ。
なお、中堅・中小企業向けの「Dynamics 365 Business Central」では、「Microsoft Teams」(以下、Teams)の利用権があれば、Dynamics 365のデータが閲覧可能になった。これまではDynamics 365のERPやCRMのライセンスを持ったユーザーでなければDynamics 365のデータを直接参照することはできなかったが、組織でDynamics 365とTeamsを利用していれば、Dynamics 365のアカウントを持たないユーザーでもTeamsユーザーであればデータを参照できるようになった。Dynamics 365のデータへのリンクをTeamsのチャットで共有すれば、最新のデータをTeamsで確認しながら議論を進められる。
前述したようにDynamics 365はPower Platformによって自社で追加開発やカスタマイズが可能で、SIerに頼らなくても組織に最適化した仕組みを構築できるのがメリットだが、その柔軟さがネックとなるケースもある。ERPのリプレース時にカスタマイズ部分の移行コストや移行方法が問題になることが多く、カスタマイズ後のメンテナンスをどうすればいいのかが悩みどころだ。
Dynamics 365を利用するに当たって、開発、運用に対する考え方の転換が必要だ。Microsoftは開発と運用を一体で考えるDevOpsサービスを提供しており、それによってCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)が可能になる。カスタマイズ部分において運用上の問題があれば改善し、運用を続けるといったサイクルを履歴管理しながら継続的に回すことが重要だ。
Dynamics 365は頻繁に機能追加や改善が加えられるが、事業環境や業務環境、IT環境において短期スパンで生じる変化に即応するには、ユーザー側でもそれに即応できる開発体制へとシフトすることが望ましい。
Dymanics 365を導入する組織はシステムの硬直化を避けたいと考える企業が多いという。変化を受け入れて生産性の向上や継続的な改善や柔軟性を求める企業にとっては、Dynamics 365は好適な選択肢と言えるだろう。
Dynamics 365には企業規模や業務領域に適したライセンスが用意されており、その種別は30以上に及ぶ。ここからは、複雑に思われるDynamics 365のライセンスを整理して解説する。
Business Centralは主に中堅・中小企業向けのERP機能のオールインワンパッケージだ。財務・会計や営業、顧客管理、プロジェクト管理、サプライチェーン管理、倉庫管理、部品管理、供給管理などの領域をカバーする。
各種取引データを集約、統合管理し、キャッシュフローの予測や帳票の自動処理など財務・会計領域の業務プロセスを合理化し、財務の意思決定を迅速化する。
サプライチェーンのリアルタイム可視化、需要予測、在庫最適化、生産設備の故障予測によるダウンタイム削減、生産計画などサプライチェーンにまつわる管理業務を効率化・高精度化する機能を持つ。
Microsoft Projectの機能を搭載し、取引管理やリソースの収益性管理、時間と経費管理、プロジェクトの財務合理化、ダッシュボードによる各種KPI可視化などの機能を持つ。
顧客管理(CRM)と営業支援(SFA)に関わる業務の合理化機能を持つ。Teamsで顧客と営業担当者をつなぎ、営業活動情報を一元管理、優先度の高いアクションを提案し、営業サイクルを可視化するなど、顧客情報に基づいた営業活動を支援する。
問い合わせ対応などのカスタマーサービスを合理化する機能を持つ。顧客が自身で問題解決できるセルフサービスポータル構築などもカバーする。
顧客にパーソナライズされたマーケティングオートメーション(MA)を実現するための顧客分析機能やスコアリング、適切な顧客対応などの機能を持つ。
顧客先でメンテナンスや施工などの作業を行う際の作業指示、リモートサポート、人材の適正な割当、IoTセンサーを利用した故障予測に基づく事前メンテナンスなどを可能にする。
現場の従業員の作業を遠隔地から映像や会話などで支援する。
ECサイトと実店舗をつないだオムニチャネルでの販売管理や、在庫・入庫管理などの小売店向けの機能。
Teamsなどと連携した人事管理や、採用、人事プログラム作成などを合理化する。
オムニチャネルでの顧客アンケート調査やフィードバック分析などを支援する。
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