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謎の戦略にIT記者は困惑……バックアップに効く”雪玉作戦”って?

ある企業はクラウドバックアップ運用の方法として、“雪玉”を活用した。おりしも、PCのフリーズで原稿データを飛ばして傷心中の筆者に刺さった、バックアップの意外な方法とは。

» 2022年12月23日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 寒い日のお鍋は最高のごちそうである。我が家は水炊きがよく登場する。味付けは各自が好きな調味料を使ってアレンジを楽しんでいる。皆さんの家庭でも、いろいろな鍋が食卓を賑わせていることだろう。

 そんな食卓をさらに華やかなものにするべく、とあるイベントに参加してみた。銅をたたいて伸ばし、自家製の鍋を制作するイベントだ。

 2時間あまり夢中で銅板をたたき続けたことで腕がパンパンになったものの、味のある仕上がりに満足している。これが我が家の定番鍋になるかどうかは今後の運用次第ではあるのだが。

 鍋づくりにおいても実感したが、何事も夢中になってモノづくりができるというのは幸せなことだ。ごくまれではあるが、仕事においても時間を忘れてしまうほど集中して筆が進むことがある。しかし先日、そんな夢中になれる時間をあっさりと破壊する事態が発生した。PCが完全にフリーズして、原稿ファイルを編集できなくなったのだ。

 祈るような気持ちでPCを再起動したものの、作成途中のファイルはどこからも発見されない――。

 いつもなら小まめに上書き保存をしているし、万一に備えてGoogleドライブにも執筆途中の原稿をバックアップしている。ところが、夢中になっているときに限ってそのルーティンを失念していた。ああ、きちんと保存してバックアップを取っておくべきだった――もはや後の祭りだ。

バックアップの悩みを解決する“雪玉”って何?

 そんな悲しい状況に陥ったときにこそ、改めてバックアップの重要性に気付かされる。最近、とある取材でクラウドにバックアップ環境を構築している企業の話を聞いた。

 バックアップといえば、一昔前はRAID構成のディスクに複数の書き込みをした上で、NASなどのストレージと、テープなどの可搬性があるメディアにデータを保管する手法が一般的だった。今でもその運用を継続している企業もあるだろうが、最近ではクラウドでデータ保護の環境を構築しているケースも増えている。

 取材した企業では、サーバに蓄積された情報をバックアップ専用のアプライアンスに保管して、重複排除をする。それを「AWS Direct Connect」を経由して「Amazon Simple Storage Service」 (Amazon S3)に転送していた。AWSを採用した理由として、価格の他にも、「Amazon S3 Glacier」と呼ばれるアーカイブ専用のサービスがあることや、データの重要度に応じて豊富な選択肢が豊富にある点を挙げていた。アクセスする機会の少ないデータを、安価なアーカイブ専用のサービスに保管するメリットが大きいと判断したようだ。

 筆者は、AWSを選択したある理由が印象的だった。“雪玉”を利用できるからという理由だった。

 “雪玉“というのは、物理的なデバイスでデータをAWSに移行できる「AWS Snowball」だ。

 筆者はこの取材で初めてAWS Snowballの存在を知った。ネットワーク経由で転送できない大容量のファイルがある場合に、AWSから送られてきた専用デバイスを使ってデータを転送するという。ユーザーは、デバイスの中に仮想サーバとなる「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)を立ち上げ、クラウドに格納したいデータを蓄積する。

 このデバイスをAWSに郵送すると、データ移行が完了するという。Snowballはいわゆる“雪玉”だが、AWSが付けた名前の意図は皆目見当がつかない。前述した「Amazon S3 Glacier」 は“氷河”を意味するGlacierを冠する通り、アクセスする機会が少ない“コールドデータ”をアーカイブするという目的に由来しているらしい。とすれば、Snowballも「コールドデータを扱うデータの塊」という意味を含んでいるのかもしれない。

 なお、「Microsoft Azure」にもHDDを使って「Azure Files」にデータを転送する「Azure Import/Export」というサービスが用意されている。しかし、専用のハードウェアが提供されるAWS Snowballとは違い、HDD自体はユーザーが用意する必要がある。

ランサムウェア対策にも効くバックアップ

 人手や災害による思わぬデータ紛失に備えたバックアップの重要性が語られてきたが、最近ではランサムウェア対策の文脈でバックアップの有用性について言及する記事も多い。

 ランサムウェア対策を意識する場合は、本番環境と同じネットワーク上にバックアップ環境を構築すると、バックアップデータを人質として暗号化されてしまう恐れがある。そこで、オフラインでテープにデータをバックアップする一昔前の技術の有用性が見直されているようだ。

 ちなみに筆者は、ローカルのバックアップデータを、ネットワークを経由してAWSに転送する以上は、この方法もランサムウェア対策として有効性が薄いのではないかと考えていた。だが聞くところによると、データを保管するAmazon S3 バケットでバージョニング設定を有効にすると、ランサムウェアに感染する前のデータを復元できるという。バージョンをまたいでデータを復旧できるならば、クラウドバックアップも有用な策となってくるだろう。

銅も石橋もたたきがいがあるな

 PCのローカル環境で執筆していた原稿が消え失せてしまったことを受けて、Googleドライブでドキュメントファイルを新規に作成、編集するようになった。Google ドキュメントは随時バックアップが取得されるので、データ消失によるリスクを回避できるのではと考えている。少し安堵している。

 いずれにせよ、自分のデータを自ら保護することが重要だ。最近はSanDiskの2TB容量のSSDを新たに購入して、小まめにバックアップを取得するようにしている。なかなか痛い出費ではあるが、データを失うあの絶望を少しでも回避できるのであればやむを得まい。用心に用心を重ねたいところだ。

 鍋づくりで銅をたたきまくっただけでは飽き足らず、今は石橋をたたいて渡っている状況が続いている。いつまでたたくのやら。


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