従業員の仕事に対する意欲は低下し続けている。そんな中、顕著に意欲を低下している人が分かった。どういった人だろうか。
従業員の仕事に対する意欲は2021年以来、低下を続けている。そんな中、顕著に意欲を低下している人が分かった。知れば納得の“その人”とは。
世論調査やコンサルティングを行うGallupの調査によると、フルタイムとパートタイムの従業員のうち「仕事にエンゲージメント(愛着心・意欲)を感じている」と答えたのは32%であった。2021年は34%、2020年は36%で、2021年は「ここ10年で初めてエンゲージメントが低下した」とGallupは伝えている(注1)。
一方、「意欲を持とうとしない」従業員は18%で、2021年から2%減少している。Gallupのジム・ハーター氏(ワークプレイスウェルネス&ウェルビーイング部門 チーフサイエンティスト)は、意欲を持とうとしない従業員は、単に意欲がない従業員よりも「積極的に離職する」または「組織に不満を持っている」可能性が高いと言う。
さらにハーター氏は、2022年に人事を席巻した「静かな退職」(quiet quitting)というパラダイムを使ってその違いを説明した(注2)。「意欲を持とうとしない従業員は『騒々しい退職者』(loud quitters)、単に意欲がない従業員は『静かな退職者』(quiet quitters)と言えるだろう」と同氏は語る。
「静かな退職」は2023年のエンゲージメントに関する議論と絡み合っているが、Atlantic Union Bankのクレア・ミラー氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼CHRO《最高人事責任者》)は、この言葉は新しい概念ではないと言う。
「新しい言葉かもしれないが、実際の意味は特別なものではない。意欲がない従業員は常に一定の割合で存在してきた」(ミラー氏)
「エンゲージメントとは本質的に、従業員の仕事に対する自由裁量のエネルギーを表す。シャワーを浴びながら新しいプロジェクトの構想を練ったり、どうすればプロセスを改善できるかを熟慮したり、業務の範囲を超えた働きもある」(ミラー氏)
Gallupによれば、2022年のエンゲージメント低下の要因の一つは「期待値の明確化」だ。仕事に対する期待値を設定することは、「従業員にエンゲージメントを持たせるための最も基本的な部分」とハーター氏は言うが、それが現実の仕事と一致しない場合、混乱が生じる可能性がある。
「従業員の混乱は(会社への)軽視につながり、自分が契約した内容と違うと感じるようになる」(ハーター氏)
管理職は、エンゲージメントに関して一貫して話題の対象になる。「管理職は部下の仕事がどのように構成されているかを考え、期待値について継続的に対話することが重要だ。毎週少なくとも1回は従業員と有意義な会話をすることがエンゲージメントの向上につながる」とハーター氏は語る。
Gallupによれば、このような会話は15〜30分以内で十分で、目標や顧客サービス、ウェルビーイング、評価などの重要なトピックをカバーする必要があるという。特にレコグニション(功績や努力を認めること)は、管理職が従業員の達成を認識し、進捗を把握するために注視すべきトピックだとハーター氏は述べる。
Atlantic Union Bankはデータを活用してエンゲージメントを理解している。エンゲージメント調査やパルス調査のデータだけでなく、エンゲージメント問題の潜在的な「ホットスポット」を特定するための「定性的会話」も含まれるとミラー氏は話す。
「離職の原因となっている管理職やリーダーシップの問題があれば、トリアージして問題を克服するための戦略を採るべきだ」(ミラー氏)
しかし、完璧な解決策が常に可能とは限らない。意欲を持とうとしない従業員に対しては「残念ながら、ベストプラクティスでは、できることは多くない。そのような従業員については、そのうち自分の仕事に満足できるような職務に移行させたいと考えている」とミラー氏は言う。
ハーター氏は「時間をかけて従業員の話を聞いても、管理職や人事チームが全ての問題を解決できるわけではない」と言う。しかし、雇用主が潜在的な問題を確実に認識し、実践に移すことができるようになる。「従業員の声に耳を傾け、彼らが何をしてきたかを知らなければ、それを実行することは困難だ」と同氏は続ける。
ミラー氏は、エンゲージメントの問題を考えるとき、企業は「その人の全体像を考慮する必要があると言う。
「人は一面的な存在ではない。出社して9〜17時までただ働いているわけではない。母親であり、娘であり、姉妹であり、教会のメンバーであり、地域社会に貢献する人たちだ。彼らは多面的なのだ」(ミラー氏)
雇用主も同様に、エンゲージメントに対して多面的なアプローチを取るべきだとミラー氏は言う。経済面でのウェルネスやメンタルヘルス、介護休暇のような従業員ベネフィットによってサポートされる領域については、職場ごとにエンゲージメントの異なる側面にアプローチする必要がある。
Gallupは、今回の調査で従業員のエンゲージメントが最も低下したのは、「オンサイトでフルに働いていたテレワーク希望の従業員」だったと指摘している。「この発見は重要であり、従業員が少なくとも仕事の一部を独立して行い、通勤を避ける利点を認識している事実の重要性を示している」とハーター氏は述べた。
しかし、雇用主も従業員も、直接会ってコラボレーションすることの利点を指摘している。「この2つのバランスをとるために、多くの従業員がオフィスや現場にいる日を正確に反映した勤務日を設定することを検討してもよいだろう」とハーター氏は述べる(注3)。
これはオフィス内での義務付けとは違うとハーター氏は言う。なぜなら、雇用主は出勤を義務付けるのではなく、特定の日にオフィスで多くの同僚と会うことを従業員に勧めることになるからだ。
「従業員にオフィスにいる時間をどのように決めるか尋ねると、最もエンゲージメントが高かったのは、みんなで決めた時間であることが分かった。これは義務ではなく、新しい働き方であり、コラボレーションのための時間を指定する方法であると伝えることがベストだろう」(ハーター氏)
また、企業はその価値観や文化に着目し、柔軟性について戦略を立てるべきだとミラー氏は話す。「オフィスでの体験を意図的に設計することで、文化に意味を持たせることができる」と同氏は付け加えた。同社はハイブリッドワークを約3日間オフィスにいることと定義し、特にオフィスが密集している水曜日を「アンカーデー」としている。
Gallupは、顧客のサービスや企業のミッションなどとつながりが薄いと感じている若い従業員のエンゲージメントを高めるためにも、現場での経験が有効であると指摘している。例えば、35歳以下の全ての従業員は組織内で自分の成長を促してくれる人がいないことや、学ぶ機会や成長する機会が減少していることを経験している。
ハーター氏は、現場での仕事は若手従業員が潜在的なメンターや管理職、同僚に自分を紹介するのに役立つと述べる。そうすることで、企業の価値観に触れ、成長する機会を得ることができる。しかし雇用主は、変化する職場環境に対応するために、エンゲージメント戦略を進化させ続けなければならないとミラー氏は続ける。
「エンゲージメントが私たちの思考や業務、行動に影響を与える役割を果たすことは、本当に重要なことだ。しかし、私たちは、これが進行中の作業であり、継続的に取り組むべき作業であることを謙虚に受け止めている」(ミラー氏)
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