コロナ禍で導入が進んだバーチャルオフィス。テレワークのコミュニケーション不足を背景に広まったサービスだが、昨今のオフィス回帰の流れに対応して変化しているようだ。「つながるインフラ」を目指すoviceの事例を紹介する。
コロナ禍が少しずつ終息に近づき、オフィスに出社する企業も増えてきた。東京都の調査によると、2020〜2021年に約6割だったテレワーク実施率は、2022年後半以降は約5割で推移している(注)。
このような状況で苦境を強いられるサービスがバーチャルオフィスだ。仮想空間上にオフィスを構築し、従業員はその中で自身のアバターを操作して、他の従業員とのコミュニケーションを取る。テレワークのコミュニケーション不全という課題を解決するためのサービスゆえに、オフィス回帰が進めば利用者が減ってしまう。
オフィスワークとテレワークのハイブリッド化に対応するため、バーチャルオフィスはリアルとの融合も視野に進化しているようだ。本稿では、oviceの事例を基にバーチャルオフィスの最新事情をお届けする。
oViceの代表取締役CEO(最高経営責任者)ジョン・セーヒョン氏によれば、2022年後半以降のオフィス回帰によって解約する企業も出てきたため、「どのようなサービスとして(ユーザーに)打ち出していけばいいか分からなくなった」という。
そのような状況で、同社はこれまでの「コミュニケーションツール」としてのイメージを刷新し、「つながるインフラ」というコンセプトを打ち出した。それに伴い、さまざまな機能の実装も図っているようだ。
同社は2022年8月、オフィスデザインに強みを持つコクヨとの業務提携を発表し、新しいハイブリッドワーク環境「デジタルワークプレース」の構築を模索している。デジタルワークプレースでは、従業員同士が離れていても自然とつながれる状態を目指すという。
バーチャルとリアルを融合させる方法として、ビーコンを用いた機能の実装を検討中だ。ビーコンで取得した位置情報を基に、本人が実際に居る場所とバーチャル空間に表示させる場所を連動させる機能だ。天井や床、壁などに設置したビーコンが従業員の携帯電話の位置を把握し、現実の空間で従業員が動くと、バーチャルオフィス上でその従業員のアバターも動く。
これによって「テレワークをしている従業員からは、リアルオフィスに出社している人がどこで何をしているのか分からない」という問題も解消できる。さらに、oviceはスマートフォン用アプリも用意しており、PCが操作できない場所でもバーチャルオフィスでのコミュニケーションに参加できる仕組みも整えている。これをさらにブラッシュアップしていく予定だ。
バーチャルのコミュニケーションをよりリアルに近づける機能として、既に実装されているものもある。
「ライブアバター」と呼ばれる機能を使うと、アバターの顔の部分に実際のユーザーの顔を表示させることができる。システムが顔を認識し、アバターの中央に表示してくれるため、不自然に背景が映ることもない。
oviceでは自分の声が届く範囲(図4の黒い円)が設定されているが、「ウィスパー」機能を用いると、この範囲を狭められる。リアルのオフィスでは隣の人に小声で話しかけることもあるが、これをバーチャルオフィスで実現した形だ。「肩ポン」機能を使えば、「トントン」という音と共に、相手に話しかけることもできる。
このように、oviceはユーザーの「リアルだったらこうするのに」というポイントを仮想空間に落とし込んだ機能を次々と実装し、リアルとバーチャルの垣根を減らしている。
「われわれは”つながるためのツール”を追求する。(従業員同士が)つながれば、コミュニケーションは自然と生まれる」とCEOのジョン氏は意気込む。バーチャルオフィスがWeb会議ツールやグループウェアに続く「インフラ」になるのだろうか。今後に注目していきたい。
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