近ごろはジェネレーティブAI(生成AI)の進化が顕著だ。こうした世界を突然変えるテクノロジーには、先端のテック企業でさえ不安を覚えている。
社会心理学や経営学を通じてリーダーシップを研究する村瀬俊朗氏(早稲田大学 商学部 准教授)は、ある記事を引用して「GoogleやMicrosoftなどの巨大テック企業ですら、急激な環境変化に不安を覚えている。このAI戦争において、OpenAIも決して安泰とは言えない。今後は、オープンソースとの戦いで苦戦するだろう。どの時代でもこうした変化は起こるものだ。これからは、単純な連帯行動ではなく環境変化に適応できるチームワークの構築が重要になる」と語る。
本稿では、村瀬氏の講演を基にAI時代のリーダーシップとチームワークの在り方について解説する。
前述した環境変化に適応できるチームワークとはどのようなものか。また、どう構築すればいいのだろうか。
チームや組織に変革をもたらすチームリーダーが重要な役割を担う。だが、人は良質な変革に対して不安を覚え、変化を嫌悪する生き物だ。だからこそ、「個人の能力は限定的であるため、一定の方向へ導くリーダーの資質が求められる」と村瀬氏は説明する。
同氏によれば、「1.方向を示す」「2.思考の柔軟性」「3.学習の姿勢」「4.心理的安全性」「5.振り返り」の5つの要素によって環境変化に適応するチームの対応力を生み出せるという。
2022年にMcKinsey & Companyが実施した調査によれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)に対応できる組織と苦労する組織の違いはリーダーが発するメッセージによるという。
例えば、リーダーが変化の必要性を語ると、22%の組織がDXに成功し、変化の必要性に対する危機意識を提訴すると、その数値は23%に拡大する。村瀬氏は「優先順位を定めながらゴールの方向性と意義を明確化することで、個々のエネルギーを特定の方向に導くことができる」とし、リーダーの存在意義を語った。
村瀬氏の調査によれば、組織の従業員からは「リーダーの説明にイメージが持てない」「ゴールを明確にしてほしい」「ゴールの重要性を伝えてほしい」などの声が多いという。リーダーの態度や思考、行動はチームに伝染する。リーダーはチームの“エンジン”であることを自覚するのが、1つ目の「方向性を示す」のポイントだ。
2つ目の「思考の柔軟性」は、リーダーが率先して学習に取り組む柔軟性を指す。技術に明るい企業であれば、毎週デジタルテクノロジーに関する学習や社内の実験的な取り組みを情報共有するのが重要だという。
3つ目の「学習の姿勢」について村瀬氏は「柔軟かつ広い視野を常に持ち続けながらアップデートし、学習するマインドセットを持つことが重要」だと説明する。一連の要素を持たなければメンバーをゴールに導けず、4つ目の「心理的安全性」を醸成する場を作り出せないという。
村瀬氏は「心理的安全性は情報共有を促し、チームは学習機会を得られる」と述べながら、同語を生み出したエイミー・C・エドモンドソン氏の検証例として、病院内で心理的安全性を高めると事故の報告件数が増えたケースを紹介した。
「ミスは学習の機会だ。ミスの種類や量を院内で共有するとシステムアップデートにつながる」(村瀬氏)
最後の「振り返り」は経験を知識につなげる工程を指す。プロジェクトで発生したトラブルを事後分析し、改善策を考えるAAR(アフターアクションレビュー)の定期的な実行が欠かせないという。
村瀬氏は「例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を振り返ると、テレワークに前向きに取り組んできた組織は新しい環境変化に適応できている」と一例を示した。続けて「われわれはAIだけを考えるのではなく、変化に対応する力を持つチームを作らなければならない。リーダーとメンバーが協力し合う組織体の継続成長が有用だ」と選択すべき手段を指し示した。
ZVC JAPANによるオンラインイベント「働き方改革サミット」の村瀬俊朗氏による「AI時代のリーダーシップ、創造的なチームの在り方」の講演内容を基に編集部で再構成した。
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