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DX銘柄選定4社のディスカッションから分かる"DXできない"企業の特徴

DXに取り組んだ企業のうちどの程度が期待した成果を得られただろう。DX銘柄に選定された先進企業4社の取り組みからみえる成功の道筋とは。

» 2023年08月02日 07時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 多くの企業がこぞってDXに取り組んだが、果たしてどれだけの企業が期待した成果を得られただろうか。DXはITを活用してビジネスそのものを変革することを意味するが、単なる業務のIT化に終始した企業も多いかもしれない。

 DX銘柄に選定された先進企業4社のキーパーソンによるディスカッションから、DXを成功させる道筋が浮かび上がる。

本稿はワークスアプリケーションズが2023年7月19日に主催したイベント「Works Way 2023」におけるトークセッション「DX(ビジネス変革)を支える基幹業務部門の在り方とは」を基に編集部で再構成した。

オープンイノベーションがDXのカギを握る

日揮ホールディングス 花田琢也氏

 まずは各社がDXの取り組み状況を語った。日揮ホールディングスの花田琢也氏(専務執行役員 CHRO)は、数年前に主要取引先であるエクソンモービルのトップから「プラント建設の工数を今の3分の1、スピードを倍にしないと、日揮は十数年後に市場から退場させられる」と指摘されたことがDXのきっかけになったと語る。

 その後、「ITグランドプラン」を策定してDXを推進した。まずはドキュメントドリブンの業務遂行スタイルをデータドリブンへ移行した。次に全社のデータの統合に取り組み、2023年にようやく「データ元年」を迎えたという。

 花田氏はCHRO(最高人事責任者)としてDXプロジェクトにはエース級のメンバーを配置した。「DXでは、何のために(Why)、何を(What)、どう(How to)やるかを明らかにする必要がある。このうち一番重要なのはWhyの共有だ。エース級のメンバーがWhyをしっかりと認識すれば、How toの議論に終始することなくDXを進められる」と語る。

三菱マテリアル 板野則弘氏

 三菱マテリアルはDX推進本部を発足し、2022年から「MMDX2.0」を進めている。2030年に向けた新規中期経営戦略の中で、同社がDXにかける投資額は合計600億円に上るという。三菱マテリアルの板野則弘氏(システム戦略部長 CIO)は、自社の取り組みについて以下のように語る。

 「当社は2018年頃、大きな品質問題を起こした。伝統ある会社だが、古い体質を一新しないといけないと4つの経営改革に取り組み、その一つがMMDXだ。例えば、E-Scrap(廃基板など)を世界中から受け入れ、有価金属へと再生する事業を展開しているが、この取引をオンラインで行うプラットフォームを開始した。こうした取り組みが一定の成果を見せているが、あと3年弱でさらに大きな成果を出していく」

中外製薬 板垣 利明氏

 中外製薬は「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」に取り組む。中外製薬の板垣利明氏(取締役 上席執行役員 CFO)は語る。

 「新薬開発の成功確率は3万分の1、開発期間は10年、そして3000億円の開発費がかかる。この確率を上げ、期間を短縮してコストを下げることは、社会的にも意義がある。そこで当社はデジタルを創薬に生かそうとしている。2030年までに、デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、ヘルスケア産業におけるトップイノベーターになるという目標を掲げている」

 中外製薬はまずデジタル基盤を固め、開発や製造、販売などのバリューチェーンの生産性を上げ、そこで生まれたリソースを創薬に注ぐことを目指す。そして、保有する独自の大量データとAIを活用することで、医薬品開発の成功確率の向上、創薬プロセスの時間やコストの短縮といったことに取り組んでいる。

横河電機 阿部剛士氏

 プラント制御システムの提供といった制御事業を主力とする横河電機では、世界的な脱炭素の潮流の中、主要顧客が戦略的転換期を迎えたため、自社も変革を迫られているという。「マーケティングの力で会社を変える」と意気込むのは、横河電機の阿部剛士氏(常務執行役員 マーケティング本部本部長 CMO)だ。

 「私はDXを企業文化改革だと思っている。カルチャーを変えるために必要なことは従業員のマインドを変えること。すると行動が変わり、環境が変わり、文化が変わる。ただし、これをそのまま進めると最低10年はかかる。そこで我々は逆から取り組み、まず環境を変えた。具体的にはITと人事を変えた。また社内のDX推進だけでなく、他の製造業のDXを支援するために、横河デジタルを立ち上げた」

 4社はいずれも、経済産業省と東京証券取引所が定める「DX銘柄」に選定されたこともあるDX先進企業だ。そんな各社が注目するDX関連の動きは、オープンイノベーションだという。

 「独自の技術、ノウハウを持つスタートアップやベンチャーが、大きな企業とコラボレーションしてイノベーションを創出する例が多くある。DXでもオープンイノベーションがポイントになる。素晴らしい種を持ったスタートアップ企業は圧倒的にアメリカに多い印象だ」(板垣氏)

 これは横河電機の阿部氏も賛同の意を示す。「横河のR&Dでは40以上のプロジェクトが走っているが、いずれも他社と組んでいる。VUCAやDX、コロナ、グレートリセットというバズワードに象徴されるように、どの企業も変化の波に襲われている。もはやコンペティター(競合他社)とも協業する時代になってきた」

 また4社ともに、グローバル企業の動きに注目している。

 「建設業の作業現場は昔から非常にムダが多い。この業界にリーンプロダクションシステム、つまりトヨタ生産システムを導入して、ムダを省こうという企業がアメリカで出てきたが、うまくいかなかった。何がうまくいかなかったか原因を踏まえながら、我々は別のチャレンジに臨む。例えば今、当社はプラントを造る際、工場で作ったモジュールを船で運び、現地で構築した基礎の上で組み立てている。3Dプリンタで基礎が作れるようになれば、建設現場に人が要らなくなる」(花田氏)

Whyを共有し、チャレンジする環境を与える

 DXで成果を上げるために重要なポイントはどこにあるのか。話題は従業員の意識改革や組織改革に及んだ。

 「DXに対する情熱は、経営者と社員のいずれが高いかといえば、おそらく経営者の方が高い。当社も経営者は熱い思いを持っている一方で、中間管理職の意識変革は難しい。そこがDX実現に向けて岩盤のように固くなっている」と阿部氏は懸念を示す。

 花田氏も賛同し、「私はそういう層を『土質工学的に粘土層』と呼んでいる。粘土層の透水性が低いように、トップからのメッセージが下に行き届く前に止まってしまう。デジタルネイティブの若者と非ネイティブの中高年がいるが、粘土層は非ネイティブの層だ。彼らが自ら変わるのは難しいため、若い層の力が重要になる。当社はデジタルインフルエンサー制度をつくり、各部門の若い層にデジタルの推進役を担ってもらっている」と自社の施策を披露した。

 三菱マテリアルも同様に、若い人材をDX活動に参加させ、失敗を恐れずにチャレンジする環境を与えている。

 「製造業は昔からITに取り組んできたが、それとDXでは何が違うのかというと、従業員一人一人がチャレンジできるかどうかだ。チャレンジできる環境をつくるため、当社は『DXチャレンジ制度』を創設した。これに興味を持ったのは若い従業員だ。そういったやる気ある従業員に、お金や専門家、IT環境、研修プログラムなどを提供して、きちんとフォローしている。それがDX推進につながる。データサイエンティストなどのスペシャリストに目がいきがちになるが、最後の最後に力を発揮するのは一従業員の当事者意識だ」(板野氏)

 板垣氏も若者の登用には積極的な姿勢を示す。「新しい価値を生み出すのは、『ばかもの、若者、よそ者』と言われる。若者の活用は間違いなく大事だ。また、よそ者、つまり外部から連れてきた人材も活用するといい。当社も積極的に若者やよそ者に機会を与えている」と語った。

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