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「残業のドクターストップ」に企業が従う義務はあるか

従業員の主治医が時間外労働を禁じている場合、企業はそれに従う必要があるのだろうか。専門家の回答を紹介する。

» 2023年08月28日 07時00分 公開
[Ryan GoldenHR Dive]
HR Dive

 HR Diveのメールボックスシリーズでは、仕事に関するあらゆる質問に回答している。今回寄せられたのは次の質問だ。

Q:従業員の主治医が時間外労働を禁じている。企業はそれに従う必要はあるだろうか。

 従業員の主治医は企業外の人物だが、これに企業が従う義務はあるのだろうか。勤怠管理や医療給付に関するサービスを提供する企業の専門家に話を聞いた。

 Reliance Matrixの製品コンプライアンス・カウンセルディレクターであるシェルビー・フェルトン氏と製品コンプライアンス・カウンセルのアーマンド・ロドリゲス氏の答えはシンプルに「イエス」だ。この2人の講演者は、2023年7月19日(現地時間)に開催された障害管理雇用主連合(DMEC:Disability Management Employer Coalition)のウェビナーで、育児介護休業法(FMLA)や障害を持つ米国人法(ADA)と時間外労働の関係について説明した。

 フェルトン氏とロドリゲス氏は、「群発頭痛を経験した建設作業員が、深刻な健康状態のため時間外労働ができない旨が記載されたFMLAに基づく証明書を上司に提出する」という架空のストーリーを参加者に説明した。ストーリーに登場する民間企業では毎日の時間外労働が義務付けられているが、この従業員が提出した証明書には無期限の時間外労働禁止に関する記載がある。

日本においては長時間労働者への面接指導制度があり、所定の条件を満たす従業員は医師との面談を行う必要がある。面接の結果、労働時間の短縮などが必要と認められた場合、企業は適切な措置を実施しなければならない。

参考:長時間労働者への医師による面接指導制度について(厚生労働省)

労働省の意見書から見えてきたこと

 米国労働省は、2023年2月(現地時間)に発表した意見書でこの問題を取り上げている(注1)。それによると、労働時間の制限を必要とする深刻な健康状態にある従業員は、FMLAに基づく休暇の権利を使い果たさない限り、FMLAに従い1日当たりの労働時間を減らす形で働くことができる。州法または地方法で保証された休暇も適用される場合がある。

 たとえ、チームに所属する他の従業員のほとんどがFMLAに基づく休暇を取得している場合であっても、その建設作業員は休暇を取得する権利がある。ロドリゲス氏によると、その理由は次の通りだ。

 「FMLAに先着順の定めはない。従業員が休暇を申請し、それが要件を満たすものであれば休暇が与えられる。そこに追加の調査や判断は存在しない」

 しかし、雇用主は明確で十分な内容が記載された文書を受け取る権利があり、従業員の主治医に連絡して説明や証明を求めることができる。

 ロドリゲス氏は「不明点があれば、医師に連絡して尋ねて構わないが、すでに医師が判断した内容に、さらに追加で情報を求めることはできない点に注意してほしい」と指摘する。

ADAはどのように関連するのか

 ロドリゲス氏によると、ADAに基づく要件および保護措置はFMLAとは別物である。また、雇用主はFMLAを回避するためにADAを利用することはできない。「従業員がFMLAにのっとって休暇を要求しているのであれば、雇用主は休暇の取得を認めなければならない」とロドリゲス氏は付け加えた。

 一方で、群発頭痛に苦しんでいる建設作業員が、FMLAに基づいて提供される12週間の無給休暇をすでに使い果たしたにも関わらず、健康状態のために時間外労働に対応できない場合はどうなるのだろうか。

 ロドリゲス氏によると、従業員の状態がADAの定義に従って障害と認定される場合(注2)、雇用主は時間外労働が従業員の職務に不可欠なものであるかどうかを評価する必要があるという。雇用主がその判断を行う際に考慮すべき質問には、以下のようなものがある。

  • 従業員の通常の勤務スケジュールにとって、時間外労働がどの程度重要か
  • 従業員はどのくらいの頻度で時間外労働を行うのか
  • 他のチームメンバーはどのくらいの頻度で時間外労働を行うのか
  • 時間外労働のなかでどのような作業が行われ、それがビジネスにどのような影響を与えるか

 ロドリゲス氏は「時間外労働が不可欠なものである場合、ADAは雇用主に対して、従業員の業務からそのような不可欠な機能の排除までを要求しない。先ほどのシナリオに関して言えば、その建設作業員が所属するポジションを完全に停止し、他の誰かに仕事を引き継がせて、建設作業員は一切働かない状態にした方がよいかもしれない」と述べる。

 ADAに基づく雇用者のコンプライアンス義務は、それだけにとどまらない。職業上の配慮や障害者雇用問題に関する情報を提供するJob Accommodation Network(JAN)によると、ある職務に不可欠な機能を遂行できない従業員に対して、配置転換が合理的な配慮になる場合がある(注3)。ただし、企業にはそのために空席のポジションを用意する義務はない。

出典:Mailbag: An employee’s doctor says they can’t work overtime. Do we need to accommodate that?(HR Dive)
注1:Wage and Hour Division Washington, DC 20210(U.S. Department of Labor)
注2:Notice of Rights Under the ADA Amendments Act of 2008(U.S. Equal Employment Opportunity Commission)
注3:Accommodation and Compliance: Reassignment(Job Accommodation Network)

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