オフラインの情シスイベントでコロナ禍を振り返ったところ、注目を集めた話題がPCのキッティングでした。今回は情シスが“PCキッティング地獄”から脱出するための方法をお話します。
「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。
オフラインの情シスイベント「情シス担当者が語り合うコロナ禍対応と負の遺産」が2023年7月28日に開催され、私もモデレーターとして参加させていただきました。コロナ禍における情シスのさまざまな課題を振り返る中、特に注目を集めた話題がPCのキッティングでした。
一言でキッティングと言えども手法は幾つかあります。扱うOSやライセンス保持状況、社内IT環境によって採用するものは異なります。
今回はキッティングを取り巻く話題や、多くの企業に当てはまる“ハマり”ポイント、外注予算を獲得する秘訣をお話します。
キッティングをどこまで情シスが担当し、どこからを従業員に任せるかで方法は大きく変わります。特に社内で採用しているセキュリティポリシーと従業員のITリテラシーが大きく影響します。
要求されるセキュリティレベルがある程度高いと一般従業員によるソフトウェアインストールは許可されません。しかし、全社的に許可しないと運用が回らないことがあるため、開発組織のみ許可している企業もあります。
従業員のソフトウェアインストールを許可する際は注意が必要です。かつて、ソース不明のWeb記事を信じ込み、アタックツールを利用しようとした従業員を見たことがあります。こうしたリスクはIT資産管理ツールの導入である程度回避できます。
キッティングの効率化を考えると自動化一択なのですが、技術の習得やライセンス費用の発生といったハードルの他、つまずく幾つかのポイントがあります。
機種を統一している場合は問題になりません。しかし、コロナ禍初期はPC不足と新卒入社のタイミングが被ったため、「手に入るものを取りあえず買う」という選択をした企業もありました。「Windows OS」のライセンス更新の都合で「ChromeOS」に入れ替える選択をした話も耳にします。そのような状況では、企業によっては制限された自動化しか実現できません。
一般的に部署ごとに利用したいソフトウェアは異なることが多いため、キッティング段階である程度PCをカスタマイズするのが適当でしょう。
カスタマイズ対象の組織が多く、かつ各チームの人数が少数だと手間がかかるため担当者を悩ませます。場合によっては、類似のソフトウェアを一つのソフトウェアにまとめるための交渉をすることになります。
手動キッティングは同じことの繰り返しなので効率は良くないですし、作業者も辛いと思うのですが、人によっては単調作業の繰り返しに喜びを見出すケースがあります。
そういった部下を持つリーダーに「彼のやり甲斐を奪わないで欲しい」と言われたこともあります。タスクの再分配や人員の再配置も検討する必要があるでしょう。
先のイベントでも、フルリモートにおけるキッティングの話題が盛り上がりました。これには幾つかのパターンがあるようです。
後者については幾つかの課題があるとのことです。一つは、高価な「MacBook Pro」などのPCを複数台詰め合わせて発送すると保険の問題が発生することです。
次に情シス担当者がセットアップ済みPCを利用者の自宅に送付するときの個人情報の問題です。人事担当者から名簿を受け取ってPC送付した際に個人情報の取り扱いが正しくできているかどうかを指摘されることもあるため、同意書に記入をしてからPCを送付する必要があります。
現在のキッティング方法を予算をかけて別のものに移行する場合、予算の獲得が必要になります。情シスのようなバックオフィスに近い部署の場合、コストセンターとして扱われがちです。私も苦労したのですが、時間短縮などを主張しても売上につながりにくいことを理由に予算を獲得しづらい傾向にあります。
この状態を回避するためのキーワードは「工数や金額の可視化と比較」です。現状どの程度の工数がかかっており、それが人件費や外注費などを鑑みた際にどの程度の金額に換算ができるのか計算することをお勧めします。一般的に多くの企業は従業員の給与を公開していませんが、部長クラスであれば開示していたり、社内の予算見積もり用に丸めた人月単価を財務経理部が握っていたりする組織もあります。関係各所と連携するとそれらしい金額の算出が可能です。
次に外注したり何かしらのソリューションを導入したりするための稟議対策です。情シスの業務理解が不十分な経営層の場合は「外注した分担当者が暇になる」と考えて決裁を渋る場合があります。外注しても外注管理の仕事が発生するという話だけでなく、現在積み上がっているタスクを整理して見える化し、「次に何をするか」「どのような(工数削減などの)事業改善が見込まれるか」を話せるようにしておきましょう。
交渉のポイントとしては、決裁者が重要視している指標に寄せて議論をするということです。多くの場合は金額なので、工数なり業務効率化なりについて関係各所を交えながら金額を算出し、比較した結果“オトク”であることを主張できると効果的です。拡大している組織であれば、入社予定者数も合わせて試算するとより効果的です。
エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。
2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。
Twitter : @makaibito
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