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» 2023年09月22日 07時00分 公開

Society 5.0とは? 産官学で目指す「データ駆動型社会」の全貌

情報処理推進機構(IPA)が中心となり、産官学の英知を結集させて「Society 5.0」実現を目指す取り組みを進めているという。Society 5.0で実現する企業間取引とはどのようなものか。

[平 行男合同会社スクライブ]

 世の中の変化により社会や経済の課題が複雑化し、従来の仕組みでは課題解決が困難な局面が増えた。そこで、社会全体のアーキテクチャを設計しなおすために生まれた構想が「Society 5.0」だ。そのビジョンのもと、データ駆動型社会への変革を目指す取り組みが進んでいる。

 Society 5.0を実現するアーキテクチャ設計について、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の清水宏通氏(デジタルアーキテクチャ・デザインセンター 企業間取引プログラム プロジェクトリーダー)が語る。

本稿はワークスアプリケーションズ主催のオンラインイベント「Works Way 2023」における講演「Society 5.0の実現と企業間取引のデジタル完結のあり方」を基に編集部で再構成した。

Society 5.0のアーキテクチャ設計のポイント

 「データが集まるサイバー空間(バーチャル世界)とフィジカル空間(現実世界)が高度に融合したシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する、人間中心の社会のことをSociety 5.0と言う。サイバーフィジカルシステム(CPS)とも言われる」と清水氏は切り出した。

 Society 5.0の特徴は「人間中心であり、各個人が最適な体験を得られる」「脱炭素や少子高齢化などの社会課題にも対応可能」であることを挙げた。人の判断をAIが代替する、人とマシン(AI、ロボット)が共存するような状況も該当するという。

 現代社会は多くのシステムホルダーとシステムが複雑に絡み合っている。互いの連携は難しく、産業構造の変化に対して柔軟な対応もできないため、Society 5.0の実現は困難な状況だ。Society 5.0を実現するには、社会のルールやシステム、技術、ビジネスなどのアーキテクチャを設計し、各取り組みを社会実装することが重要であると説く。

 アーキテクチャ設計のポイントは、「縦と横の連携」「ガバナンス」にあるという。縦の連携は、データ流通やCPSの信頼性を確保し、変化への対応を柔軟にする。横の連携は、企業同士、業界同士の連携を指す。ここに必要なのはモジュール化されたサービスの連携を支援するアーキテクチャを定義することだ。

 縦と横の連携を実現する鍵はガバナンスにある。ルールや制度を作り、ガイドラインを示すことで、縦と横の連携が可能となる。サイバーとフィジカルの融合に際して発生するリスクをガバナンスによって抑えることで、イノベーションを最大化する。

図1 アーキテクチャのポイントとなる縦と横の連携、ガバナンス(出典:講演時の資料より)

 清水氏の所属するIPAのデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)は、Society 5.0の実現に必要なアーキテクチャ設計に取り組んでいるチームだ。産官学の専門性とリーダーシップを有する人材が一堂に会し、132人の体制を形成している。重要分野のアーキテクチャ設計や、アーキテクト人材の育成や循環、海外動向調査、連携などの機能を持つ。Society 5.0を社会実装する上で必要となる、デジタルインフラのアーキテクチャ設計の基本コンセプトについて清水氏は次のように説明する。

 「現状のデジタルインフラは、製造から商品、契約、物流、請求、決済といったフィジカル主体のプロセスをシステムに置き換えているだけなので、システムが乱立している状況だ。これではシステム連携のための労力が大きい。目指すべき将来像は、サイバーとフィジカルが高度に融合した状態だ。そのためには、ヒト、モノ、空間における情報規格(ID、属性)を統一する必要がある。そしてインターネットのような仮想的な統合データベースを設計し、データの入出力や参照を通じて実世界の取引や行為を制御するデジタルインフラを整備する。これにより、データベースを活用した社会全体のデジタル化を実現する」

図2 アーキテクチャの現状と将来像(出典:講演資料より)

日本に求められる産業デジタル戦略

 続いて清水氏は、企業間取引におけるデジタル完結が必要とされる背景やビジョンについて説明した。

 現在日本には、カーボンニュートラルの実現やサプライチェーンの強靱(きょうじん)化、少子高齢化といった長期的な社会課題があれば、2023年のインボイス制度開始、2024年の欧州電池規制のような、直近で対応を迫られている課題もある。

 マクロの観点では、社会の変容により社会や経済の課題が複雑化し、従来の仕組みでの解決が困難となっている状況がある。一方で、諸外国ではGAFAMといったメガプラットフォーマーが、デジタル社会の実現に向けた取り組みを進めている。

 ミクロの観点では、企業にとって三つの危機が顕在化している。まず、電池規制などに対応しないと海外で製品を「売れない(販売できない)」という危機だ。また、半導体不足などで部品が「買えない(調達できない)」、海外の当局や認証機関、企業から「覗かれる(営業秘密を含むデータの提供を求められる)」といった危機だ。日本は企業データを守りながら競争力強化につながる仕組みを構築する必要に迫られている。

 産業構造も変わりつつある。日本企業の競争力の源泉だったタテ型産業構造の有効性は薄れており、業種の異なる企業とも積極的に関わりながら、ビジネスを俊敏に変革することが新たな価値創造と競争力の源泉になる。そのため、メッシュ型産業構造の実現を目指す必要がある。

 これらの社会背景がある中、Society 5.0の実装が求められている。Society 5.0では人の判断を待たずにデータが先に動く世界が実現する。集まったデータを基に需給をリアルタイムで把握し、データがサービスを動かす、データ駆動型の社会と言える。

 「この激動の時代、個別企業だけの取り組みでは荒波を乗り越えられない。目指すべき世界観を具現化し、それを実現する産業デジタル戦略の立案が急務となっている。とりわけ業界横断で利用するサプライチェーンからバリューチェーンまでの、企業間取引に関するデジタル基盤を整備する必要がある」

最初に取り組むのはトレーサビリティー管理

 次に清水氏は、Society 5.0を実現するアーキテクチャ設計において優先して取り組んでいるユースケースを4つ紹介した。

 1つは、資源循環や脱炭素などの「トレーサビリティー管理」。2つ目は「開発製造の効率化・活性化」。これは設計開発の迅速化・効率化、製造ラインのデジタルツイン化などを含む。3つ目は「サプライチェーン強靱化・最適化」。これは需要予測やダイナミックプライシング、在庫可視化・最適化などだ。そして「経理・財務のデジタル完結」で、経理処理のデジタル完結による消し込み自動化、ISO20022への対応負担軽減などに取り組む。

 「最初に取り組むユースケースはトレーサビリティーの管理だ。なかでも脱炭素、調達リスク可視化にはすでに取り掛かっている。欧州の蓄電池規制など喫緊の課題があり、自動車や化学など幅広い産業に影響するためだ」(清水氏)

図3 トレーサビリティー管理でデジタルツイン化を目指す(出典:講演資料より)

 またDADCでは産学官体制を構築し、企業、業界、国境をまたいだデータ連携、利活用の実現を目指すイニシアチブとして「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」を推進中だ。Ouranos Ecosystemは単なるデータ連携基盤ではなく、組織や人材なども連携するエコシステムである。それも大企業やITベンダーだけでなく、スタートアップ企業、中小企業も巻き込んでアーキテクチャ設計や標準化に取り組むという。

 「『人の判断を待たずにデータが先に動く世界』がデジタル完結のイメージだ。相互参照できるデータモデルをつくり、連携させ、業界をまたいで活性化が進む世界を目指す」と清水氏は改めて強調した。

図4 Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)のイメージ(出典:講演資料より)

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