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人的資本経営、生成AI、DX……変化の激しい世の中でHCMを効果的に導入するには

人手不足、生成AIの登場、人的資本経営の開示義務化など、働く環境が変化する中、企業の人事管理を統合的に管理するHCMはどのように進化しているのか。製品選定のポイントを解説する。

» 2023年10月30日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]

 日本の労働人口が減少している中、企業は優秀な人材を確保するため、多様な働き方の実現が求められている。これはコロナ禍を経てさらに進んでいる状況だ。また、2022年11月に登場した生成AI(人工知能)の「ChatGPT」は多くの注目を集めており、これも人々の仕事の進め方に影響を与えそうだ。

 さまざまな要因により働く環境が変化している状況で、企業の人事を統合的に管理するHCM(Human Capital Management)はどのように進化しているのか。製品選定のポイントを解説する。

トレンドは人的資本経営、従業員エクスペリエンス、生成AI

 まず、日本におけるHCMのトレンドとして、2023年3月期決算以降に義務化された「人的資本経営の開示」が挙げられる。「顧客から多くの問い合わせがあります」と言うのは、日本オラクルの矢部正光氏(クラウド・アプリケーション統括 ソリューション戦略統括 ソリューション・エンジニアリング本部 HCMソリューション部 部長)だ。

 人的資本経営の開示では、財務や経理部門が担当してきた有価証券報告書にサステナビリティーの項目が追加され、人事関連情報も記載することとなり、財務情報に人事情報を結び付ける方法を考えなければならない。経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」でも指摘があるように、今後は財務と人事情報を組み合わせて、他社と差別化を図ることも求められる。「財務と人事の情報を組み合わせて、"As is"や"To be"の分析も必要となるでしょう」と矢部氏は言う。

人的資本経営の取り組みを人材版伊藤レポートを基に分類(出典:日本オラクルの提供資料)

 もう1つのトレンドが「従業員エクスペリエンス」だ。従業員エクスペリエンスを高めることは、「生産性を上げる」「離職率を下げる」ことにつなげる。企業は成長するために顧客エクスペリエンスを重視する傾向があったが、顧客エクスペリエンスを高めるためにも、従業員エクスペリエンスを向上させる必要があるという認識され始めている。

 3つ目のトレンドが「生成AI」だ。「生成AIを使うことで何をどのように実現できるようになるのか、その部分をサポートして欲しいとの相談が増えています」と矢部氏は語る。2023年にはBtoB領域での生成AIの利用が始まり、今後数年でHCM領域にも拡大するという。

 これらトレンドを踏まえOracleでは、HCMのコンセプトは3つあると考えている。1つ目が、HCMの継続的なイノベーションだ。HCMを取り巻く環境が変化し、それに合わせ顧客ニーズも変わる。変化するニーズに合わせて機能を提供するために、生成AIなどの新しい技術をいち早く取り入れるような継続的なイノベーションを重要視している。

 2つ目のコンセプトが、人事担当者が必要とする機能を網羅して提供することだ。しかし製品機能が豊富で優秀でも、それだけで企業を成功に導けるわけではない。そのため3つ目のコンセプトとして掲げるのが、顧客が成功するためのサポートメニューの用意で、Oracleではこれらコンセプトに沿ってHCMを開発して提供している。

HCM製品の選定ポイント

 市場にはさまざまなHCM製品がある。自社に合った製品をどのように選べばよいのか。矢部氏は、「まず、製品の利用が組織のDX(デジタルトランスフォーメーション)に結び付けられるかどうかを考えるべき」とした。さまざまなレポートでも指摘されているが、DXを進めるにはデータ活用が必須だ。そのためHCMでもデータが一元的に管理され活用しやすい形で蓄積されているかどうかが重要となる。

DXの推進でHCMの果たす役割(出典:日本オラクルの提供資料)

 一元管理されていればデータが共通言語となり、部門や立場を超えたコミュニケーションが可能になる。DXで成功している組織は、そうでない組織と比べ、経営層とIT部門や業務部門などの調和がとれているとの調査結果もある。

 DXを進める上でさらに重要なのが、セキュリティだ。今後はDXのためにも、HCMの中で生成AIを活用するケースが増えるはずだ。その際に、「個人情報などのデータ漏えいが発生しないかどうか」「他社の情報などが入り込まないかどうか」など、情報をしっかり守りながら活用できる仕組みが必要だ。これにはHCMのデータ保護の方針や具体的にデータを守る機能など、高度にセキュリティを確保できているかどうかを判断する必要がある。

 2つ目の製品選定のポイントが、ベンダーが顧客と伴走できるパートナーになっているかどうかだ。機能や価格など製品そのものの差異だけでなく、「ベンダーが将来も信頼できる会社かどうか、その会社がどのような文化を持ち事業に取り組んでいるかも、重要な選定ポイントでしょう」と矢部氏は語る。HCMは人に関わるものであり、ベンダーそのものが「人」に対しどう取り組んでいるかも見ておくべきだという。

 一例としてOracleは、ダイバーシティー&インクルージョンで多様性を確保している。さまざまな考えを持つ人たちがものづくりをすることで、偏った考え方に陥らないようにするためだ。また、地域コミュニティーも重視しており、本社のある青山周辺や江ノ島の海岸などのクリーンアップ活動をしている。こういった取り組みも、人に関わるアプリケーションを提供するベンダーの責務であり信頼性につながると捉えている。

 製品選定の3つ目のポイントは、製品機能や性能の評価だ。これは○×表で機能比較をするようなものではない。重要なのは第三者の客観的な目だ。製品ベンダーの営業担当などは、自社の強みばかりを伝えるだろう。その際に第三者の評価データを提示するかもしれないが、その情報は自社製品に有利なものだけを取り上げていることが多い。

 第三者評価の多くは、レポートとして毎年更新される。ある時点で優位性があっても、数年後にはその評価が変わることもある。つまり、最新レポートでどのような評価がされているのかを確認すべきだ。さらにその評価に至る過程がどうだったのかも確認する。変化の様子が分かれば、製品の方向性や将来性も見えてくるはずだ。そのためには、時系列を追って第三者の評価のレポートを確認するのがよいだろう。

スタート時に100%の正解を求めずアジャイルで取り組む

 矢部氏は「最近はHCMの導入で、顧客がオンプレミスかクラウドかを迷うことはなく、ほぼクラウドが選ばれる」と語る。とはいえ、同じクラウド型のアプリケーションにも違いがある。オンプレミスのものをIaaSに乗せただけのものもあれば、Oracleのようにクラウドネイティブな技術で構築し直した製品もある。オンプレミス製品をクラウドに乗せただけでは、柔軟性や拡張性に欠け、環境の変化に対応するのが難しい場合がある。

 スイート製品をうたっていても、買収製品を集めてそれを実現しているものもある。この場合は機能ごとにデータがばらばらに存在し、DXのためのデータ活用もままならないことが多いという。さらに、個々の機能で設計思想などが異なるので使い勝手が変わり、ユーザーは操作にとまどうかもしれない。このように同じクラウド型のアプリケーションでも、それぞれ違いがあることを認識しておく必要がある。

 もう1つ頻繁に議論になるのが国産か海外製かだ。国産は国内の税法やルールなどにきめ細かく対応しているものが多い。一方海外製は、各国の法制度に準拠し多言語、多通貨対応のものが多い。グローバル展開している企業なら、海外製品を選ぶほうが対応しやすいため、グローバル展開が視野に入っている企業は、最初から海外製の製品を選ぶという考えもある。

 トレンドにも挙がっていた人的資本経営の開示は、欧米など海外で先行している。そのため海外製の製品では、いち早くそれに対応してきた。日本の人的資本経営の開示も、先行する欧米の取り組みを参考にしており、ISOなど国際標準を基にルールが定められている。そのため日本で人的資本経営の開示に対応する際も、海外製のものがむしろ先行して対応できているケースもある。

 もう1つのトレンドの生成AIは、多くのHCM製品が機能の一部に取り込むのは間違いない。Oracleも生成AIを取り込み機能拡張することを明らかにしている。Oracleは、「Oracle Cloud Infrastructure」でIaaS、Pass、SaaSの全てを提供しており、サービス1つで企業が独自に使える生成AIの機能も提供する。SaaSのHCMと企業独自の生成AIが同じインフラで動き、安全に組み合わせて使うことができる。

Oracle Cloud HCMで利用できる生成AI(出典:日本オラクルの提供資料)

 最後に矢部氏は「今後のDXの話にも絡むのですが、最も伝えたいのは製品を新たに導入することでどうしたいかの"To be"を描くことに固執しないで欲しい」と述べた。多くの企業がHCMを導入する際に、理想形を描きそのためにはどうするかをかなり細かく決めようとする。それが決まらないと、製品選定もできないケースは多い。結果的に構想から導入がスタートするまでに半年、1年とかかり、さらに導入にも多くの時間を費やすこととなる。

 「1年前に決めたことが正しいとは限りません。ここを目指すという方向性は必要ですが、それを実現する手段は、アジャイル的に柔軟に考えて欲しいです。そのためのマインドチェンジが重要となります」と指摘する。

 導入前に100%の正解を求めるのではなくマインドチェンジし、変化に対応しながらゴールを目指す。だからこそアジャイルで一緒に伴走してくれる、信頼できるパートナーを選ぶべきだと矢部氏は強調した。

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