ここ数年で値上げが続くなか、Microsoftは2024年4月に法人向けソフトウェアとクラウドサービスの価格を改定すると発表した。円安や世界情勢の影響によって値上げが続き予算が圧迫される中で、どのサービスを利用するかだけでなく、どのプランを契約するかも重要だ。
Business Research Insightsが公開した「グローバルオフィススイート業界調査レポート」(注)の予測によれば、2021年に135億ドルだった世界のオフィススイート市場規模は、2031年には1255億7600万ドルに達するという。クラウドサービスの利用拡大によって、オフィススイート市場にもポジティブな影響があるとのことだ。
キーマンズネットでは「Microsoft 365とGoogle Workspaceの利用状況」と題したアンケートを実施した(実施期間:2023年12月8日〜12月22日、回答件数:311件)。本稿ではオフィススイートの中でも「Microsoft 365」と「Google Workspace」に焦点を当て、両サービスの利用状況を概観しながらユーザーの不満や課題を掘り下げていく。
まずはMicrosoft 365とGoogle Workspaceの利用割合について、2023年の調査を比較しながら割合の変化を見ていく。
アンケート回答者に勤務先で利用しているオフィススイートを尋ねたところ「Microsoft 365」が48.2%と半数を占め、2023年の調査と比較すると1.5ポイント上昇した。次いで「Microsoft Office(パッケージ型)のみ」が17.4%、「Microsoft Office(パッケージ型)とMicrosoft 365を併用」が14.8%と続いた(図1)。
従業員数5001人以上の企業ではMicrosoft 365の利用割合が高く、100人以下の中小企業では半数がパッケージ版Officeのみと回答した。501〜1000人以下の中堅企業ではMicrosoft 365もしくはGoogle Workspaceとパッケージ版Officeとの併用が高い傾向にあった。
Microsoft 365のプランは中堅・中小企業向けの「一般企業向け」と「大企業向け」に分かれる。2023年11月にリリースされたAI機能「Copilot for Microsoft 365」を利用するにはMicrosoft 365 E3またはE5のライセンス契約が必要になるなど、それぞれで利用できるサービスや料金は異なる。自社の利用状況に適したプランを選定することが重要だ。
勤務先で「Microsoft 365を利用している」とした回答者に対して、勤務先で契約しているMicrosoft 365のプランを尋ね、企業規模別にまとめたものが図2だ。
最も多く回答が集まったのが「Microsoft 365 Business Standard」で24.4%、次に「Microsoft 365 E3」が19.7%、「Microsoft 365 Apps for business」が16.7%と続いた(図2)。
この結果を2023年2月に実施した調査と比較すると、「Microsoft 365 Business Standard」や「Microsoft 365 Business Basic」「Microsoft 365 Apps for business」「Microsoft 365 Business Premium」といった、中堅・中小企業向けとされる「一般法人向けプラン」の利用割合が55.9%から62.0%と6.1ポイント増加した。Microsoftは2023年4月に日本円の為替変動を背景とした価格改定を実施したこともあり、値上げ前の駆け込み需要が関係しているという見方もできる。
同じくGoogle Workspaceユーザーに利用プランを尋ねたところ、「Business Standard」が最も回答が多く46.2%、「Enterprise」が28.8%(図3)。「Business Starter」「Business Standard」「Business Plus」の利用割合を合計すると61.6%となった。これらのプランの最大利用ユーザー数は300人であることから、Google Workspaceは中小企業が主なユーザー層であることが見て取れる。
次に、Microsoft 365とGoogle Workspaceについて、月額利用料金の相場をみていこう。
Microsoft 365とした回答者に対してユーザー当たりの月額料金を尋ねたところ、「1000円未満」が最多で16.0%、その次に「1001〜1500円」が12.7%、「1501〜2000円」が9.4%と続いた。これらを合計すると「3000円以下」とした割合は52.6%になる(図5)。Microsoft 365は、2022年3月、2023年4月に続き、2024年4月にも法人向けソフトウェアおよびクラウドサービスの価格改定を予定している。現時点で対象サービスや値上げ率は公表されていないが、今後契約更新や新規契約を計画する企業は注視しておく必要があるだろう。
続いてGoogle Workspaceの1ユーザー当たり月額料金だが、最多は「1000円未満」で28.8%、「1001〜1500円」が23.1%となり、「1500円以下」とした割合は51.9%となった。Google Workspaceでは下位プランの「Buisiness Starter」が1ユーザー当たり月額680円で利用できることから、Microsoft 365と比較するとユーザー当たりの料金がやや低い結果となった。Googleも2023年4月に価格改定を実施していることもあり、今後の価格変動は注視したいところだ。
オフィススイートのSaaSシフトが進む中で、現在も中小企業を中心に根強い需要があるパッケージ版Office。「Microsoft Office(パッケージ型)のみ」とした回答者に対してMicrosodt 365などのSaaS型オフィススイートへ移行を検討しているかと尋ねたところ、44.4%が「移行する予定はない」と回答した(図5)。
SaaS型に移行しない理由をフリーコメントで聞いたところ、意見が3つに分かれた。
1つ目は「コスト」に関する懸念の声だ。「(継続的に利用料が発生する)サブスクリプション型サービスに移行しないことで固定費を節約し、複数のライセンスが一度に購入可能な永続版(パッケージ型)をできる限り使い続ける予定」「買い切り型の方が安価だから」「サブスクリプション契約によって発生する固定費を可能な限り節約するため」などの意見だ。円安などの影響で価格改定を繰り返している様子を見て、懸念を示す声が寄せられた。
2つ目は「セキュリティ」に関する意見だ。「(勤務先では)クラウドサービスを使わない方針」「取引先との(契約)関係で利用できない」など、セキュリティポリシーの関係で利用を控えざるを得ないといった声だ。そして、3つ目は「通信環境」に関する意見だ。「オフライン環境で作業することもあるため、(SaaSが)第一選択とならない」など、業種や職種によってはオフライン環境下での作業を余儀なくされることもあることから、SaaS型は不向きだと判断したようだ。
前編ではMicrosoft 365とGoogle Workspaceの利用状況と、読者企業が利用しているライセンスプランとコスト、パッケージ型からSaaS型への移行の有無について、回答結果を紹介した。後編では、両サービスの満足度や機能の利用シーンと活用法について見ていく。
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