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災害時に経験した、事業継続計画(BCP)にまつわる「5大トラブル」とは?【後編】安否確認サービス、事業継続計画(BCP)に関する調査(2023)/後編

非常事態が発生したときでもビジネスを継続するためには、平時の備えが欠かせない。被災した企業が明かす「5大トラブル」から学べることとは。

» 2024年02月15日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 自然災害が頻発化、激甚化する中で、ビジネスを継続できるようにリスク管理を実施することは規模の大小を問わず日本企業の重要課題となっている。デロイトトーマツ ミック経済研究所が2023年7月に発刊した「事業継続マネジメント(BCM)ソリューション市場の実態と展望【2023年度版】」(注1) によると、危機管理・防災情報ソリューションや安否確認ソリューションを含むBCMソリューションの2022年度における市場は、前年度比114.8%の178億8000万円だった。2023〜2027年度では年平均成長率17.9%の397億円の成長が見込まれている。

 キーマンズネットは「安否確認サービスの利用状況に関する調査」(実施期間:2024年1月15日〜26日、回答件数:303件)」を実施した。前編ではBCPの一環としても重要な、緊急事態発生直後に従業員の安否を確認するための「安否確認サービス」の利用状況についての調査結果を紹介した。後編となる本稿ではBCPの策定状況や、BCPに基づいて購入したITシステムや設備、そして安否確認サービスの運用面での課題について調査結果を紹介する。

 大災害発生時に事業を継続できるかどうかが社会全体に大きな影響を及ぼすとみられる情報通信や電力、ガス、公共交通など、14分野にわたる重要インフラ事業者の取り組みは、安否確認などBCPに関連するシステムやサービスを選定する上で参考となるだろう。

緊急時に備えて最も導入されている「ITツール」は"これ"

 安否確認サービスやUPS(無停電電源装置)、非常用バッテリーなど、BCPに基づいて導入したITツールや設備、備品はどのようなものだろうか。

BCPに基づいて購入したITツール、設備 BCPに基づいて購入したITツール、設備

 IT関連の項目では回答が多い順に「Web会議システム」(50.2%)、「データバックアップシステム」(45.4%)が挙がった(複数回答可)。

 非常用電源等としては「UPS(無停電電源装置)、非常用発電装置、非常用バッテリー」(41.8%)、「自家発電システム(火力発電機を含む)、移動電源車」(16.3%)が挙がった。近年、停電時における非常用電源として注目を集める「EV(電気自動車)」は2.4%にとどまった。

 その他の設備や備品では「非常持ち出し袋、毛布や非常食、水などの避難行動や避難生活を支えるための備蓄品」(47.0%)が約半数を占め、「土のう袋やスコップ等の防災対策用品」(14.7%)や「がれき除去などに利用する重機」(0.8%)は合わせて2割以下にとどまる結果となった。

 Web会議システムやデータバックアップシステムなど緊急時以外にも利用可能なITツールの導入率の高さが目立つ。「UPS(無停電電源装置)、非常用発電装置、非常用バッテリー」(41.8%)の導入率の高さは、後段で見るような停電時に困りごとが多発したことがメディアなどを通じて共有された影響もあるだろう。

 特に、重要インフラ事業者はITツール以外の導入率も高い。アンケートの選択肢12項目の中でおそらく最も高額な「自家発電システム(火力発電機を含む)、移動電源車」は31.6%、「UPS(無停電電源装置)、非常用発電装置、非常用バッテリー」は68.4%と、それぞれ全体と比べて1.6〜2倍高い導入率となった。原子力発電所における非常用発電機や移動電源車の高台への設置など、非常用電源の設置が義務付けられている重要インフラ事業者もあることから、業種全体の数字が押し上げられたものとみられる。

 導入しているツールや設備の中で最も多くコストをかけている項目は何か。

BCPに基づいてBCPに基づいて導入したツールや設備の中で最も多くコストをかけたもの BCPに基づいて導入したツールや設備の中で最も多くコストをかけたもの

 全体で見ると、割合の高い項目順に「データバックアップシステム」(19.9%)、「安否確認サービス」(15.9%)、「非常持ち出し袋、毛布や非常食、水などの避難行動や避難生活を支えるための備蓄品」(10.8%)となった。従業員規模別で見ると、500人以下の中堅・中小企業帯は「データバックアップシステム」に、1001人以上の大企業帯は「安否確認サービス」にコストをかける傾向にあり、企業規模によって重視する課題の違いが見て取れた。

 なお、安否確認サービスはその性質上、「安否確認に特化したサービスもしくはシステムを利用している」企業が88.2%と大多数を占め、「他システムに付帯する安否確認機能を利用する」企業は1割以下にとどまった。重要インフラ事業者に限ると、「安否確認に特化したサービスもしくはシステムを利用している」割合は94.4%と極めて高いことが分かった。

重要インフラ事業者のBCP策定率は85.8%

 BCPの認知度や策定状況はどうか。「名前も具体的な内容も知っている」(78.9%)と「BCPという名前では認識していなかったが、上記で説明されている内容は知っている」(5.0%)を合わせると、83.9%と広く認知されていることが分かった。

BCPの認知度 BCPの認知度

 続いてBCP策定状況は「全社で策定している」(56.7%)と「全社での取り組みではなく一部の部署で策定している」(5.9%)を合わせると62.6%で、「BCPという枠組みではないが、同様の内容を全社で策定している」(6.2%)や「BCPという枠組みではないが、同様の内容を一部の部署で策定している」(5.9%)を合わせると、74.7%の企業がBCP、あるいは同様の行動計画を何らかの形で策定していることが明らかになった。

BCPの策定状況 BCPの策定状況

 2022年1月に実施した同調査で策定している企業の割合が68.6%だったことを鑑みると、2年で6.1ポイント増えている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界規模のパンデミックや自然災害の頻発化・激甚化、巧妙化するサイバー攻撃など企業を取り巻くリスクの高まりが背景にあるとみられる。

 従業員規模別に見ると、1001〜5000人の大企業では86.6%と9割近くが策定している一方で、100人以下の中小企業では21.0%と4倍以上の差がついた。従業員規模が大きくなるほど策定割合が高い傾向にある。101〜500人の中堅・中小企業帯では49%と約半数の策定状況だったことから、100人を超える辺りからBCP策定が必要だと考える企業が増えるようだ。

 情報通信や公共交通機関、電気やガス、水道や医療に携わる重要インフラ事業者が、85.7%と他業種よりも割合が高く、社会基盤を支える事業者のリスクマネジメント意識の高さが表れた。

災害時の事例に学ぶ 「5大トラブル」を回避するには?

 東日本大震災(2011年)直後に発生した福島第一原子力発電所の事故には「想定外」という声もあったが、BCPは策定時にどこまでの被害を想定しておくべきだろうか。災害時に実際に発生したトラブル事例を紹介しよう。

 フリーコメントで寄せられた自然災害などによるトラブル例を大別すると”5つ”に絞られた。

1. 電力不足

 「大規模停電の発生後、会社の自家発電で業務は継続できた。自家発電の燃料が枯渇寸前で電力会社からの送電でしのげた」や、「地震で停電し、自家発電機によってしのいでいたが、燃料が枯渇する寸前だった」「データセンター拠点で被災に伴う停電が発生した。自家発電用燃料の輸送ルートと小型タンクローリーの確保が大変だった」など、電力確保に奔走した経験が多く挙がった。中には「大規模停電によって休業」せざるを得なかったケースも見られる。

 これらのコメントでも分かるように、自家発電機を準備していても燃料が枯渇すれば電力を確保できない。緊急時における電力確保の重要度とその困難さがよく分かる。

 北海道胆振東部地震(2018年)で起きたブラックアウト(全域停電)や、全面復旧まで19日かかった千葉台風15号(2019年)のように、複数の要因が重なると予期しない大規模停電が発生したり、停電期間が長期化したりする可能性がある。停電に備えて複数の対応策を用意する必要があるだろう。

2. ネットワークの接続不良

 「LANケーブル切断による通信不能(どこが原因か探すのに苦労する)」や「災害影響でネットワーク通信の接続不良が発生」「ブラックアウト時に基幹サーバがダウンしたため、社内ネットワークが一時不安定になった」があった。

3. 電話不通

 「使用者多数により電話回線の不通」や「落雷によるPBX(構内交換機)故障」「携帯キャリアの不都合により、社内連絡が取れない時間帯が発生」など、社内外での通信手段が断たれた事例も多く見受けられた。

4. 機器の故障によるトラブル

 「洪水被害で情報機器が水没」や「大雪で工場の屋根が崩落しスプリンクラーの配管が破損、内部の機器が水浸しで業務停止」といった水害から、「免震構造のサーバラックが大きな地震でレールから外れた」「地震による機器の破損故障」などの破損事故まで数多くの事例が寄せられた。「(サーバなどの)ハードウェアの不具合を修理したかったが、データセンターの立地条件が悪く台風のため現地に行けなかった」のように、緊急対応したくても物理的に修復作業が不可能なケースを想定した備えも必要だ。

5.緊急時の対応準備不足でトラブル発生

 「本社からの指示待ちで、行動が大きく後れがち」や「地震で機器の落下や断線が発生した。余震や天井落下が続く中、ヘルメットなどの安全装備もなく業務復旧に当たらざるを得ないことがあった」「確認内容が迷惑メールに振り分けられて届かなかった」などの声が上がった。

303人が指摘 安否確認サービス運用における「3つの課題」

 今回の調査で寄せられた安否確認サービスに関連する課題を次の3つに分けて紹介する(自由回答)。

1. 使い勝手の悪さ

 確認手段として電子メールを設定しているサービスについての指摘が多く寄せられた。「各自の電子メールアドレスを連絡先として管理しているが、携帯キャリアの変更などに伴い、電子メールアドレスも変更していた従業員がいた。安否確認サービスからの通知そのものが届かないケースがあった」や「安否確認を電子メールで確認したが、迷惑メールが多くなったなどで電話確認に逆行した」「電子メール送信のみ対応であるため、受信率や登録率が伸びない。SMS発信などの機能が必要だと思われる」があった。

 電子メールを主とした安否確認手法を採用するサービスも多いことから、登録内容の変更や迷惑メール設定によって連絡が届かないことがあるようだ。中には「電子メールベースのため、最近では気付かない従業員も多い」と、そもそも電子メールでの連絡が時代に合っていないとの指摘もあった。

2. 運用設計不足

 「現場で安否が確認できなかった場合の対応など、具体的なアクションは未定のまま」や「安否確認できなかった場合、どのような形で確認作業を続けていくのか。非常時対応する公共サービスとの連携はどうなるのかが依然不明」があった。

 能登半島地震(2024年)が元日に発生したこともあり、「帰省中の安否確認対応」や「休日に帰省先や旅行先で被害に遭う場合が想定されていなかった」と危機感を募らせる回答者も多い。対策については「休日にスマートフォンを携帯しなければ安否確認できない」や「社給機器を休日に持ち歩かない。安全確保が優先」などさまざまな意見が寄せられた。非常時にスムーズに運用できるサービスを選定するだけでなく、「従業員の安否が確認できない場合、次にどうするか」を含めた非常時対応の在り方の方針を策定する必要がありそうだ。

3. 従業員の意識

 「大災害は頻繁に発生するイベントではないため、多くの従業員が安否確認サービスの実用性を感じず、その存在や使い方が忘れ去られていた」ことから、「大きな災害時などは従業員側も能動的に安否情報を登録するという意識が必要」との意見が多く寄せられた。

 中には「企画部門でいろいろ計画・策定をしても実際に運用をする総務部門の認識が低く、適切な運用がされていない」や「幹部は何も考えていない」「経営陣に問題意識がない」など、上位層の意識の低さや部門間での温度感の違いをボトルネックと指摘する声もあった。


 ここまで前後編にわたって、BCPの策定状況や安否確認サービスの利用実態を見てきた。ここ数年に限ってもパンデミックや自然災害、大規模サイバー攻撃などさまざまなリスクに直面し、その都度、想定外の事態が起こり得ることやリスクマネジメントの重要性を学習してきた。BCPの策定や緊急時の安否確認は事業継続のための重要事項だという認識を持つのは大切だ。しかし、策定やサービス導入で安心するのではなく、「実際に被災した企業の事例」などを参考にしながら定期的に運用を改善すべきだろう。

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