アシックスはノーコード開発に取り組み、幅広い業務の完全ペーパーレス化を実現した。
アシックスは、紙や電子メールを中心にした業務が各所に残り、その効率や出社を前提としたプロセスに課題を抱えていた。さらにグローバルで多くの拠点を持つ同社は、国籍や地域の多様なメンバーで仕事をする機会がある。コロナ禍を契機にテレワークが普及し働き方も多様化した。こうしたビジネスを取り巻く状況を考慮して、一部の業務を「Microsoft 365」などのグローバル製品で刷新したが、日本独自の複雑な業務をデジタル化する方法に悩んでいたという。
そこで、同社は「あるノーコード/ローコード開発プラットフォーム」で業務アプリケーションを内製化し、日本独自の複雑な要件を考慮しつつ、非効率な業務フローの刷新とペーパーレス化を実現した。アシックスの植村 剛氏(GIT戦略部セキュリティ&インフラチーム)が自社の取り組みを語った。
アシックスでは、20年以上使い続けてきたコミュニケーションツール「Notes」への移行を一つのテーマに据え、各領域でグローバルスタンダードなサービスの導入に取り組んできた。電子メールやカレンダー、Web会議などコミュニケーション領域は「Microsoft 365」に移行したが、一部の業務は、グローバル製品で対応できないという悩みに直面したという。
「特に日本の承認ワークフローや報告関連業務は独自の複雑さがあり、うまく対応できるサービスがありませんでした。そんな時にドリーム・アーツのサービスを知り、幾つかの業務で利用するようになりました」と植村氏は話す。
全社ポータルにはドリーム・アーツの「INSUITE」を、本社と店舗間の通達や業務指示、報告などには「Shopらん」を活用している。各種申請や依頼業務、文書管理業務は「SmartDB」を使って、アプリケーションをノーコード開発している。
アシックスがSmartDBで開発しているアプリケーションの一つに「契約検討依頼」がある。取引先と契約を締結する前に、法務部に相談し、契約内容や書面を検討する業務だ。
従来、契約内容の確認や契約書のチェックは、関係者が紙の文書や電子メールで法務部に依頼していた。だがこの方法では電子メールを見過ごしてしまうことが多く、現状のプロセスを把握することが困難だったという。電子メールを起点に作業をするので、契約依頼を受けた法務担当者以外の法務部メンバーが介入しにくいという問題もあった。
さらに、当時の法務部は神戸本社にしか存在せず、各地域からの社内便を使用しての文書のやりとりに手間がかかっていた。そこで、SmartDBを活用して「契約検討依頼」のフローをデジタル化するアプリケーションを開発した。
SmartDBで実現した業務プロセスは次の通りだ。まず、取引先と契約を結ぶ起票部署はSmartDBの契約検討依頼DBで、契約内容や取引相手の情報を登録する。申請者は海外メンバーであることも多いため、入力画面の言語は英語をメインに日本語を併記している。登録が完了したら、法務部に申請情報が送られる。
ポイントは、関係者が申請画面内でコミュニケーションを取れることだ。「いつ、誰が、どのようなコメントをしたのかが明確で、ファイルのアップロードもできる。案件によっては法務部内の他の担当者や上長とのやりとりが発生するが、それも同じ画面内で完結する。案件にひも付く情報やコミュニケーションの履歴を、一つの画面内に納めることで、情報が属人化しない。
法務部が承認すると、契約管理DBに契約書類が登録される。契約管理DBに登録された契約書は、契約検討依頼DBの関連文書とひも付けて管理されているので、証跡などの情報をすぐに閲覧できる。なお、この契約管理DBは、過去にNotesで運用していたデータベースをSmartDBに移行したものだ。
このアプリケーションを作ったことで、ユーザーから、「進捗(しんちょく)を追いやすくなった」「必要な情報を、必要な人が、必要な時に取得できるようになった」「紙での回付、社内郵便をゼロにできたので、大幅に時間を節約できている」「過去実績や契約文書の継承、共有が可能になり、データを次の業務に生かせる状態になった」といったポジティブな声が上がっている。
運用フェーズで新たなニーズも出てきた。「契約書を共有する人を追加したいという要望があり、利用者の範囲を広げる必要が出てきました。すぐにニーズに対応できるのは、ノーコード開発ツールのメリットです」(植村氏)
世界20カ国、150以上の工場の製造状況や労働状況を評価する「工場監査報告」という業務もSmartDBで効率化した。
従来、この業務は紙や電子メールが中心でプロセスが非効率になっていた。コロナ禍後は出社を前提としない承認フローの構築が強く求められていた。外部環境に左右されない業務環境や、経営リスクマネジメントなど、ガバナンス強化の観点でも、てこ入れが急務だったという。
SmartDBを使った業務の流れは次の通りだ。監査部門が担当工場の監査後、SmartDBの監査報告書アプリケーションで報告書を登録する。報告書には、アシックス基準や国際基準、工場がある国・地域の法律など、工場ごとに異なる重点管理項目が設定されている。改善すべき課題がある場合には、改善提案も記載する。
報告書の記入が終わると、報告者の上長に自動で提出される。上長がその内容を承認後、工場に生産を発注する事業部門に確認依頼が送られる。事業部門が確認し、課題がない工場はそれで完了だ。改善の必要がある場合は、監査部門の責任者に情報が送られる。また、工場監査は経営リスクに関わる重要情報のため、社長や秘書にも情報が送られるフローになっている。
工場監査報告をSmartDBでデジタル化したことで、報告書提出・確認の業務が効率化されただけでなく、各工場の評価状況が一覧で閲覧できるようになり、経営リスクの可視化につながっているという。
アシックスでは、プロモーションなどの各種施策で、顧客の個人情報を取り扱うケースがあるが、その際に必要な申請や情報取得、利用後の廃棄までのプロセスを管理するアプリケーションをSmartDBで開発した。
個人情報管理の業務フローは、「事前申請」「取得時」「廃棄後」の3つのステップに分かれる。事前申請では、個人情報を利用する起票部門が、プロジェクトの概要や利用目的、取得内容を記載した申請書を提出する。申請を受けた上長と、法務部の担当者、最終承認者がそれを承認、確認する。
情報の取得時には、個人情報の件数や収集期間、事前申請時からの変更事項などについて、起票部門が報告書を作成する。このとき、関係者にも通知が送られる。
情報利用後は廃棄のステップがある。「いつ、どのような方法で廃棄したのか」を起票部門が報告し、事前申請と同じフローで申請・承認がされる。フロー自体はシンプルだが、個人情報を取り扱うため、必ず複数メンバーが確認することが特徴だ。
3つのステップの情報は全て単一の画面で確認できる。従来、個人情報の利用申請や管理は紙で実施していたが、SmartDBでデジタル化したことで、ペーパーレスと同時に、効率的な文書管理も実現した。
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