BIプラットフォーム「Tableau」は生成AIを用いた対話的な分析を通して、効率的で非専門家でも使えるデータ分析の手法を追求している。生成AIの登場によってBIツールの使い方はどう変わるだろうか。
BIツールベンダーのTableauを傘下に置くSalesforceは2016年頃からAI機能「Salesforce Einstein」を製品に組み込み、AI活用を進めている。Tableauも積極的に生成AI機能をサービスに取り込み、データ分析の民主化を推進している。生成AI機能によってデータ分析はどこまで容易になるのだろうか。
ここからはデータ分析プラットフォーム「Tableau」を例に、BIツールに生成AIが組み込まれることでユーザーが得られる効果や、これまでのデータ分析作業がどのように変わるのかを解説する。
Tableauには生成AIを活用した3つのサービスがある。
1つ目が「Tableau Pulse」だ。データから得られたインサイトを自然言語を使って抽出する。データ分析に慣れない従業員でも迅速にデータを理解し、行動につなげられる。
2つ目が「Einstein Copilot for Tableau」だ。生成AIによってデータの再加工や分析に必要な計算式を出力したり、Tableauの分析機能に必要なデータを自動的に抽出、生成したりと、分析作業をサポートする機能だ。データ抽出に必要なプロンプトが自動的にレコメンドされるため、データ分析に関する十分なノウハウを持たない担当者でも目的のデータを容易に抽出、可視化できる。2024年4月にベータ版の提供が発表された。
そして3つ目が「Service Intelligence」だ。コンタクトセンターなどから集まるさまざまな情報を統合し、AIのサポートを受けながら目的のデータを深掘りできる。
これらの機能は「Salesforce CRM」と連携可能で、プロモーション活動など、目的に応じたデータを利用可能な形式で出力できる。
ここからは、これら3つのサービスについて、デモを交えながら利用イメージを解説しよう。
図1は、求めるデータの計測結果(メトリクス)の変化が「Slack」に通知された様子を示している。どうやらデバイスの販売が急増しているようだ。
Tableau Pulseの画面に切り替えてデータの詳細を見てみると、メトリクス詳細のページでは最新のデータが可視化されている。データソースも同じ画面で確認でき、日付や期別、地域別などでフィルタリングして抽出することも可能だ。
図2は詳細画面の例だ。注目したいのは画面下部に並んでいる質問文だ。「Which Products drove this sudden increase?」(何が販売の増加を押し上げているのか?)など、担当者が知りたい項目を抽出するために適したプロンプトが示されている。自分自身で探索するよりもデータが示す事実をスピーディーに把握できる。
このグラフから販売増加につながったのが3製品であることが分かる。次に、その在庫が充足しているのかどうかが気になるところだ。画面上部の検索用のテキストボックスをクリックすると、目的に応じて新しい質問が幾つか表示される。そこから在庫の充足状況に関する質問をクリックすると、在庫充足率のメトリクスとそのインサイトがグラフとテキストで表示される。
この結果をメンバーに配信することで関係者全員が在庫充足率を把握でき、データを追跡できる。トップページに戻ると現在の充足率が表示され、誰でもチェック可能になる。
メトリクスのデータは自分の興味のあるものを設定していればメールで通知されるので、社内のPCやモバイル端末からでも常に確認可能だ。データ分析の知識がなくてもグラフなどで直感的に状況を理解でき、AIによる分析サポート機能も利用できるため、データ分析に慣れない従業員でも簡単に必要な情報を確認できる。
「Einstein Copilot for Tableau」はデータ分析担当者がAIと対話を重ねることでデータの加工や分析に必要な計算式を自動的に生成する。これまではデータを可視化するためには事前に加工プロセスが必要だったが、分析機能と一体となって動作するETLツール「Tableau Prep」でスムーズにデータを連携可能だ。
デモでは、Tableau Prepに取り込まれた顧客の購入履歴データ(図5)を基に、利用方法が説明された。
顧客の郵便番号が住所の列の中に埋め込まれている。そこから郵便番号だけを取り出したければ郵便番号を取り出すロジックが必要だが、画面上のメニューからEinstein Copilot for Tableauを呼び出すと、プロンプトを入力するパネルが表示される。そこに「住所から郵便番号を抽出してほしい」(図では英語)と入力すると、Einstein Copilot for Tableauが計算式を自動的に生成する(図6、7)。それを保存しデータに適用すると、Tableau Prepのデータに郵便番号列が挿入される(図8)。加工済みのデータは「Salesforce Data Cloud」に接続しているTableauにそのまま渡せる。
Tableauを開いて新しいシートを前に何をしようかと考えていると、Salesforce Einsteinパネルにこれまでの作業に応じたプロンプトが幾つかレコメンドされている。これはTableau Prepで作業したデータをどう活用するかのヒントになる。
例えば商品別、時系列の売り上げグラフを表示すると、画面右側のSalesforce Einsteinがコンテクストに応じた質問を用意してくれる。グラフからスポーツ用品において特定の地域でプロモーション強化が必要だと気付いたら、画面右側のSalesforce Einsteinのパネルで「過去3カ月以内にスポーツ用品を購入した顧客の郵便番号別の所在地を教えてください」と入力する(図9)。
すると、該当する顧客の所在地がマップにプロットされる。さらに「各地の店舗は顧客からどれだけ離れているか」と尋ねると、店舗所在地がマップに重ねて表示される(図10)。それを基にセミナーなどプロモーションを展開する地域を絞り込み、店舗近在の顧客を抽出し、対象のセグメントとしてSalesforceのCRMにパブリッシュすると、対象顧客へのプロモーション活動に必要な情報がすぐに確認できる。
このようにプロンプトを入力するだけでデータの加工や分析が容易に進められ、AIの力を借りながら次のアクションを検討できる。これまでは専門知識が必要だった計算式の作成も、AIを使うことで十分な知識を持たない従業員でも対応可能になる。
注目のトピックは「Service Cloud」で提供される「Service Intelligence」だ。これは主にコンタクトセンターの管理者向けに開発されたEinstein AI機能搭載のダッシュボードだ。コンタクトセンターにはさまざまなチャネルからのデータが集まり、それらのデータはData Cloudに統合され、チャネルごとの作業量などを把握でき、コスト削減とサービス向上に活用できる。Service Intelligenceで探索したデータは、その内容をTableauに連携できる。
特徴的なのは、Einstein AIの会話マイニングによって電子メールや音声通話のやりとりから現在の状況を把握できる点だ。サポートの受付数やチャネル別の顧客満足度などを月次、週次で把握でき、特定の事象に関してその主要因を探ることができる。
例えばサポート受付件数の状況はダッシュボードで確認できるが(図11)、なぜエスカレーションが必要なのかという主要因を探るのは困難だ。プロンプトを入力してEinstein AIに尋ねると要因別の数がグラフで表示され、主要因を直感的に把握できる(図12)。Einstein AIがあらかじめ探索作業のコンテキストに沿った質問をレコメンドするので、目的にマッチしたプロンプトをクリックするだけで済む。
さらにデータを深掘り分析するには、BIツールであるTableauを利用する。相互でサービスが連携されているので、Tableauで同じインサイトを確認できる。データのコンテクストが維持されているからだ。
また、Tableauではドラッグ&ドロップの操作だけでどの地域のサポート件数が多いのかを色分けして表示できる(図13)。これをService Intelligenceにパブリッシュすれば、Service Intelligenceの画面に挿入されて、主要因別グラフとマップを一覧できるようになる。
このようにTableauのAI機能は、プロンプトを入力するだけでデータ分析を容易にする。現在。さまざまな領域のITベンダーが生成AIを活用した新しいサービスの開発に注力しているところだが、これらのサービスもその一つとなりそうだ。
本稿は「Salesforce World Tour Tokyo」(Salesforce主催)での講演内容を基に編集部で再構成した。
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