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SaaS型ERPの懸念「アドオン」「四半期アップデート」にどう対応する? アクセンチュアが語る最適解

SaaS型ERPはアドオンに関する懸念や、四半期アップデートに対する懸念を持たれがちだ。アクセンチュアのERP導入ディレクターがSaaS型ERPを導入する際の懸念を解消する。

» 2024年07月01日 07時00分 公開
[斎藤公二インサイト合同会社]

 SaaS型ERPは、「標準機能で実現できない業務要件はどうしたらよいのか」といったアドオンに関する懸念や、「強制的にアップデートされてしまう」「リグレッションテストや不具合発生時にどう対応すればいい」といった四半期アップデートに関する懸念を持たれがちだ。

アクセンチュア 那須章利氏

 アクセンチュアはSaaS型ERPの「Oracle Fusion Cloud ERP」(以下、Fusion Cloud ERP)を導入している。同社の那須章利氏(テクノロジーコンサルティング本部 Oracleビジネスグループ日本統括 マネジング・ディレクター)が、Fusion Cloud ERPを例にSaaS型ERPを導入するためのポイントを解説した。

SaaS型ERPはオンプレミス型ERPとは全く異なる

 アクセンチュアは日本国内におけるOracle Cloud活用を約7年にわたって支援してきた。Fusion Cloud ERPや「Oracle Fusion Cloud EPM」(以下、Fusion Cloud EPM)といったSaaSから、「Oracle Cloud Infrastructure」(以下、OCI)へのクラウドマイグレーション、「Oracle Autonomous Database」(以下、Autonomous DB)を活用したBIやデータウェアハウス(DWH)の構築まで多岐にわたる支援実績を持つ。

 那須氏は「クラウドサービスの利用が進む中、OracleのERPの在り方は大きく変わった」と指摘した。

 「アクセンチュアでは『Oracle E-Business Suite』(Oracle EBS)や『PeopleSoft』といったオンプレミス、買い切り型ERPを多く導入してきましたが、現在はSaaSや完全マネージド型ERPが主流です。両者のオンプレミスとの違いは3点あり、1点目はアドオンです。Oracle EBSやPeoplesoftはアドオンのしやすさに定評がありましたが、Fusion Cloud ERPはアドオンに制約があります。2点目はバージョンアップです。オンプレミスではバージョンアップをユーザーの判断で実施しましたが、クラウドはOracleが四半期に一度アップデートします。3点目はアプローチの違いです。オンプレミスではFit&Gap型でしたが、クラウドではFit To Standard型でアプローチします」(那須氏)

アクセンチュアが提供しているOracleサービス(出典:那須氏の講演資料)

 ここで生じる懸念が、SaaS型、完全マネージド型ERPを利用する際に、アドオン制約や四半期アップデートにどう対応すればいいのかということだ。

 「アクセンチュアも『SaaSなのでアドオンができない』『標準機能で実現できない業務要件はどうしたらよいのか』という点を懸念していました。四半期アップデートについても『強制的にアップデートされてしまって大丈夫なのか』『リグレッションテストや不具合発生時にどう対応すればいいのか』が懸念でした」(那須氏)

SaaS型・完全マネージド型ERPを利用する際の懸念(出典:那須氏の講演資料)

クラウド環境のアドオン開発をどうすればよいのか

 那須氏は、アクセンチュアがアドオン制約と四半期アップデートという2つの懸念をどう解決したのかを解説した。

 アドオンについては3つのパターンで対応できるという。1つ目は、Fusion Cloud ERPによるアドオン開発で対応するパターン。2つ目は、Fusion Cloud ERPではアドオン開発ができないが、必要に応じてPaaSや外部システムで開発して対応するパターン。3つ目は、オンプレミスでは提供されていないがFusion Cloud ERPでは提供されている標準機能を利用して対応するパターンだ。

SaaS型ERPのアドオン対応3パターン(出典:那須氏の講演資料)

 「アドオン開発できるのは、帳票やダウンロードなどデータを出力する機能です。ダウンロードは後続システムにインタフェースする機能も含みます。一方、アドオン開発できないのは、バッチや画面など書き込みが発生する機能です。データを出力する機能はアドオン開発できますが、書込みが発生する機能はアドオン開発できません。ただ、Fusion Cloud ERPはオンプレミスよりも標準機能が充実していますので、それらでアドオン開発を減らせます。一括アップロード機能やBI機能など、従来アドオンまたは外部システムで対応していた機能が標準でバンドルされています」(那須氏)

 これら3つのパターンで大きなポイントとなるのが、アドオン開発できないものについて、どのようにPaaSまたは外部システムで実装していくかだ。

 「アクセンチュアは2つのアーキテクチャタイプを採用しています。一つはSaaS単独型です。上流から下流へ不可逆的にデータが流れていくような会計業務などのパターンに適用します。もう一つはSaaS+PaaS型です。上流と下流の双方向でやりとりが発生するようなパターンに適用します。例えば、標準画面で入力したトランザクションをPaaSで加工して標準のトランザクションデータとして戻すパターンです」(那須氏)

アクセンチュアが採用している2つのアーキテクチャ(出典:那須氏の講演資料)

 SaaS単独型の場合、そもそもアドオン開発できないケースが多く、SaaS+PaaS型に比べてアドオン開発は少なくなる傾向がある。一方、SaaS+PaaS型は帳票・データ出力に加え、バッチや画面のアドオン実装が可能となる。ただ、アドオンが増えすぎる傾向があるため、アドオンを増やさないプロジェクト運営が重要だ。

 アクセンチュアが提案しているSaaS+PaaS型のアーキテクチャは、Fusion Cloud ERPとの相性を踏まえ、PaaS基盤にAutonomous DBを採用しているのが特徴だ。

SaaS+PaaS型のアーキテクチャの概要(出典:那須氏の講演資料)

 「SaaSのレイヤーでは標準機能やBI/レポート機能を使い、クリーンな状態でSaaSを保つ(Fit to Standard)ことがポイントです。一方、PaaSのレイヤーはSaaSでは難しい独自業務を実装します。アクセンチュアが留意しているのは、汎用的な技術スタックを使うことです。ローコードツールの『APEX』、Java、PL/SQL、Oracle DBといった、技術者の多いツールを使って保守性を保ちます。PaaS基盤にはSaaSとの相性が良いAutonomous DBを採用しています。パッチやアップグレードが自動で適用されるため、メンテナンスフリーの基盤を構成でき、SaaSと同じような運用負荷で対応できます」(那須氏)

テストから本番まで2週間、四半期アップデートにどう対応する

 アドオンとともに懸念されがちな四半期アップデートについては、こう指摘する。

 「オンプレミスのバージョンアップは、必要な人員をそろえて検証に1年かけるなど一大プロジェクトでした。一方、四半期アップデートは、テスト環境の適用から本番環境の適用まで2週間です。1年かけていたものを2週間でできるのかというのが、大きな懸念です。四半期アップデートにあわせてサイクル化することがポイントです」(那須氏)

四半期アップデートのスケジュールプラン(出典:那須氏の講演資料)

 具体的には、1カ月前から影響分析やテスト準備をし、テスト環境のアップデートされる2週間前から実機テストや課題対応をする。本番アップデート後は、本番運用の課題対応をするという流れだ。

 「Fusion Cloud ERPは、全てのユーザーが同じバージョンを利用しているため、他のユーザーに利用状況を確認できるというメリットがあります。アクセンチュアはグローバルで保守を担当しているので他のお客さまの状況を紹介できます。また、アップデート期間は2週間と短いため、問題があったときに早くレスポンスできなければなりません。保守担当者にとって重要なのは、Oracleと密に連携すること、トラブルの回避策をはじめとしたワークアラウンドを定義することです」(那須氏)

 四半期アップデートが機能に影響を与える可能性もある。その場合、テスト環境の適用から本番環境への適用までのリードタイムを踏まえ、迅速に対応する必要がある。

 「4つの対応方法があります。1つ目はコンフィギュレーションを変更することで動作を正常な状態にする方法。2つ目はOracleから提供されるパッチを適用する方法。3つ目はワークアラウンドで、次回以降の四半期アップデートで恒久対応するまでしのぐという方法。4つ目はアドオンプログラムの修正で、レポートやインタフェースなどのアドオン機能を修正して対応する方法。コンフィギュレーション変更とワークアラウンドが多い印象です」(那須氏)

四半期アップデートが機能に影響を与えた場合の対応(出典:那須氏の講演資料)

Fusion Cloud ERPの導入を成功させるための5つのポイント

 ERPをオンプレミスからクラウドに移行するメリットの一つは、保守工数の削減だ。オンプレミスは定常時の保守工数は少なく済むが、数年に一度のバージョンアップ対応に工数がかかる。一方、クラウド環境は四半期ごとに影響調査が必要だが、自動パッチなどによって常に最新のバージョンで統一される。その結果、累積の保守工数を大幅に減少させられるという。

オンプレミスとSaaSを比べた保守工数(出典:那須氏の講演資料)

 最後に那須氏は、Fusion Cloud ERPの導入を成功させるための重要な留意事項を5つ挙げた。

 「1つ目は『とにかく使い倒す』を粘り強く追求することです。製品知識だけでなく業務知識の重要性が増しています。場合によってはOracleに機能追加を交渉することも増え、連携の重要性が増しています。2つ目は、どうしても必要な非標準機能は思い切って切り出すことです。中途半端に機能を作り込むと複雑になります。機能群を丸ごと切り出して作ることですっきりとしたアーキテクチャになり、保守性も高まります」

Fusion Cloud ERP導入成功に向けた留意事項(出典:那須氏の講演資料)

 「3つ目は、オンプレ時代のERP標準機能の特徴は踏襲されること。管理項目を自由に定義し、モジュール間疎結合による段階導入、部分導入が容易です。4つ目は、Fit To Standard推進のための有効なツールになること。SaaSはアドオンできない、しづらいことが歯止めになります。こだわる部分はPaaSを活用して実現します。5つ目は四半期アップデートのメリットを享受すること。バージョンアップのための大規模追加投資が不要になり、パッチ適用のために要員を確保する必要がなくなり、付加価値業務にシフトさせられます。今後の四半期アップデートでAI機能の充実などに期待もできます」(那須氏)

Fusion Cloud ERPの特徴を踏まえた期待実現事項(出典:那須氏の講演資料)

本稿は、日本オラクルが2024年4月18日に開催した「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」のセッション「アクセンチュアの考えるOracle Fusion ERP最大活用の要諦〜導入事例から学ぶ示唆」の内容を編集部で再構成した。

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