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“電源いらずのIoT”を可能にするかもしれない「Wi-Fi発電」って?:794th Lap

このモバイル時代、Wi-FiやBluetoothなどわれわれの生活の中には多くの電波が飛び交っている。その電波を発電に利用できるのではと考えた研究チームは実証実験をした。

» 2024年09月06日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 Wi-FiやBluetoothの電波を利用して発電する技術「電磁波エネルギーハーベスティング」が研究者の間で注目されている。いわゆる環境発電の一種だ。ただ、Wi-FiやBluetoothは電磁波の中でも最もエネルギーが小さいという特性があり、また、電波の出力が微弱であるため電波から電力を取り出すことは難しい。

 この難題を解決する研究結果が発表され、実証実験にも成功したという。どうやってWi-FiやBluetoothの電波を電力に変換しようというのか?

 東北大学電気通信研究所の深見俊輔教授と、先端スピントロニクス研究開発センターの大野英男教授、そしてシンガポール国立大学のHyunsoo Yang教授の共同研究チームが、Wi-FiやBluetoothの電波から電力を得る研究を進めている。

 論文にまとめられた研究チームの成果が、2024年7月24日に科学誌「Nature Electronics」に掲載された。これを受け、アジア地域の学術研究情報を世界に報じるメディア「Asia Research News」が2024年8月7日に記事を掲載し、今、メディアが注目している。

 研究チームはスピントロニクス技術に基づいてナノスケール(極小)の「スピン整流器」を開発した。これによって微弱な通信用電波から高効率で電力を生み出す実証実験に成功した。そしてこのスピン整流器を搭載した「ハーベスタ」(整流器)を、Wi-FiやBluetooth、各種デバイスに配置して直流の電力を得る。

 スピン整流器は、商用化されている「MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory」(磁気抵抗ランダムアクセスメモリ)で用いられる「CoFeB」(コバルト、鉄、ホウ素)と「MgO」(酸化マグネシウム)から成る「磁気トンネル接合」によって構成される。磁気トンネル接合の形状や磁気異方性、トンネル障壁の特性などを考慮して設計することで、高い効率で電波から電力へ変換できるように設計されているという。

 このスピン整流器は単体で-62〜-20dBm程度の電波から1万mV/mWほどの直流電力へ変換できる。スピン整流器10基を直列接続することで-50dBm程度の電波から3万4500mV/mWの直流電圧への変換を成功した。また、単に電力を得るだけではなく-27dBmの電波から得た電力で市販の温度センサーを駆動させるという実証実験にも成功したという。

 研究チームは、この新技術を実証実験で実際に駆動させたIoT機器(温度センサーなど)に搭載することを目指している。IoT機器は外部電源や内蔵電池を必要とするが、IoT技術を発展させるためには、電源や電池を必要としない機器の存在が重要になるからだ。Wi-FiやBluetoothが電波を発しスピン整流器がそれを電力に変換していけば、電源や電池不要なIoTネットワークの構築も実現可能になるだろう。

 研究チームは今後、単体素子レベルでの電力変換効率の向上を目指すという。さらにオンチップアンテナとのスピン整流器の集積化、素子の直列/並列接続の併用による大出力化にも取り組む計画だという。将来のIoT社会の発展に、このスピン整流器が必ずや貢献することだろう。


上司X

上司X: Wi-FiやBluetoothの微弱な電波から電力を発生させる仕組みが発表された、という話だよ。


ブラックピット

ブラックピット: スピントロニクス技術に基づいたスピン整流器ですか。なるほど。


上司X

上司X: なるほどって完全理解しているような表情だが。まあ、いわば「Wi-Fi発電」ってとこだな。なかなかいいアイデアじゃないか。


ブラックピット

ブラックピット: そうですよねえ。Wi-Fiの電波なんてこの先何があろうと絶えることはないでしょうから。


上司X

上司X: ああ。今後Wi-FiやBluetoothがない社会はあり得ないだろうしな。


ブラックピット

ブラックピット: IoTデバイスに利用するなら、なおさら相性はいいですよね。電源や電池を気にしなくていい、明るいIoT社会の到来も間近ですよ! 別にスピントロニクスについて完全理解していなくても、いろいろ便利になるだろうことは分かります。


上司X

上司X: まあ、その通りだな。俺もスピントロニクスはよく分からん。


ブラックピット

ブラックピット: ですよね……。基本的にはIoT向けの技術ということですけど、いずれ出力が大きくなればPCやスマホにだって利用できるかもしれませんよ。バッテリーの心配なくデバイスを利用できる未来が!


上司X

上司X: やっとスピン整流器の実証実験が終わったとこだからな。実際の製品が出るまではまだ時間がかかりそうだけど、いろいろなデバイスのバッテリー問題を解決しかねないだけに、これは期待しかないな。楽しみにして待ちたいものだよ。

川柳

ブラックピット(本名非公開)

ブラックピット

年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)

昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。

上司X(本名なぜか非公開)

上司X

年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)

中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。


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