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「ChatGPTを自動化ツールとして使ってみた」 企業のホンネ【読者調査】業務自動化に関するアンケート調査 2024

「生成AIで業務は楽になる」はずが、利用者に聞いてみると意外なホンネが見えてきた。キーマンズネットの調査から成否を分けるポイントを考察する。

» 2024年09月18日 07時00分 公開
[田中広美キーマンズネット]

 「生成AI活用元年」と言われる2024年、業務自動化ツールの選択肢に生成AI、AIが加わった。早くも「幻滅期を迎えた」とも言われる生成AIだが、「ChatGPT」をはじめとする生成AIやAIを業務自動化に使った企業の満足度はどうか。具体的にどのような業務に利用し、どこに課題があると考えているのだろうか。 

 本稿では、生成AIやAIを自動化ツールとして利用している企業の満足度や課題を中心に、RPA(Robotic Process Automation)をはじめとする既存の自動化ツールを生成AIやAIに置き換えを検討する理由や、製品選定の際に「生成AIやAIの搭載」をどの程度考慮しているかも含め、業務自動化ツールとしての生成AIやAIの現在地を明らかにする。 

皆が使っているのはどのAI? 企業の本音は

 キーマンズネットが実施した調査「業務自動化に関するアンケート調査 2024」(期間:2024年8月6〜30日、有効回答数:359件)によると、前回調査「業務自動化に関するアンケート調査 2023」(注1)に比べて生成AIやAIの導入率は上昇したことが分かった。一方で、従業員規模を問わず、AIを利用するに企業が「ある課題」を共通して抱えていることも判明した。

 ChatGPTをはじめとする生成AIやAIを業務自動化に利用している企業は、何を指標に生成AIやAIを評価し、どこに課題を感じているのだろうか。

 まず業務自動化に利用している技術を尋ねた設問に対し、生成AIやAI関連の回答の中では「生成AI(チャットbot以外)」(27.4%)がトップに挙がり、「生成AIを利用したチャットbot」(19.8%)、「生成AI以外のAI/機械学習(ML)」(14.6%)が続いた(複数回答可)。

 前回の同調査で業務自動化のために利用している技術として「AI/機械学習(ML)」という回答は22.1%、「チャットbot」は19.9%だった(複数回答可)。この回答からはチャットbotに生成AIが利用されているかどうかは分からず、2023年の調査には生成AI関連の選択肢がないため単純な比較はできないが、この1年間でチャットbot以外の生成AIの利用が伸びているのは間違いなさそうだ。

 利用の形態としては、「生成AIやAIを単体で利用している」という回答は27.9%、「生成AI、AIを搭載した自動化ツールやアプリ、オフィススイートなどを利用している」という回答は8.6%に上り、単体での利用の方が多いことが分かった。

 利用されているツールとしては「ChatGPT」(58.8%)がトップで、2位の「Microsoft Copilot」(35.1%)を20ポイント以上上回った(複数回答可)。「ChatGPTを搭載した製品」も16.8%に上った。一方、「Copilot for Microsoft 365」(「Microsoft 365」に搭載されている生成AIサービス)を利用する回答者も23.7%に上るなど、Microsoftが提供するサービスの利用者も多くおり、Googleの「Gemini」(11.5%)、Perplexityの「Perplexity」(6.1%)などに10ポイント以上の差を付けた。

Q32 図表 生成AIやAIを業務自動化に利用しているか 生成AIやAIを業務自動化に利用しているか

 利用者を対象に用途を尋ねたところ、「文章要約」(67.9%)という回答が最も多く、「文章生成」(65.6%)、「コード生成」(38.2%)が続いた(複数回答可)。

Q39 図表 生成AIやAIを何に利用しているか(複数回答可) 生成AIやAIを何に利用しているか(複数回答可)

 注目すべきは「自社データの検索」(36.6%)が4位に挙がったことだ。上位3つが汎用的なLLMでも可能なのに対し、これは自社データとAIとの連携が必要だ。最近「RAG」(検索拡張生成)が話題だが、現在生成AIやAIを利用している企業の3分の1以上が自社データを検索していることが分かった。

 なお、従業員規模で見ると、1000人以下の中堅・中小企業では生成AIやAIを「現在は利用しておらず、導入予定はない」が約3割を占めたが、5001人以上の大企業で同じ回答を選んだ割合は約1割にとどまった。

 5001人以上の大企業は「生成AIやAIを単体で利用している」(41.1%)、「生成AI、AIを搭載した自動化ツールやアプリ、オフィススイートなどで利用している」(7.5%)を合わせると約半分が既に生成AIやAIを業務自動化に利用しており、従業員規模がより小さい企業よりも取り組みが進んでいることが分かった。

 また、どの従業員規模の回答層でも「現在は利用しておらず、導入予定はない」と回答した割合よりも、「生成AIやAIを単体で利用している」「生成AI、AIを搭載した自動化ツールやアプリ、オフィススイートなどで利用している」「現在は利用していないが、導入に向けて具体的な検討を進めている」を合計した割合の方が大きかった。全ての層で「現在は利用していないが、導入に向けて具体的な検討を進めている」は2割程度存在することから、業務自動化に生成AIやAIを利用する割合はさらに高まると考えられる。

満足度の理由と課題は?

 では、生成AIやAIを業務自動化ツールとして利用している企業の満足度はどうだろうか。「期待を大きく上回って満足している」(3.1%)、「おおむね期待通りの結果に満足している」(48.9%)を合わせると、52%が「満足」だと評価している。

 一方でフリーコメントからは、「経営者や従業員の期待値が高すぎる」と懸念する声も聞かれた。

 期待通りの結果を得ていると回答した企業からは、その理由として「業務効率化が進んでいると実感」「時短省力化」を挙げるコメントが多く寄せられ、「翻訳の結果で分かりにくい箇所をAIに突っ込んで聞くと、分かりやすく説明してくれる」「議事録要約、資料のたたき台作成、翻訳、コード作成等が容易に行える」「プログラミングのエラー解決、コード組みができる」といった利用分野を絞り込んで使ってることを思わせる回答が多かった。

Q35 図 満足度 満足度

 その他、「ゼロから検討する場合のベース項目の生成として役立つ」「比較検討段階でのアイデア出しで、打ち合わせなどで出ないアイデアを(生成AIが)多く出してくれる」など、叩き台づくりやアイデア出しの役割を評価する声も多く挙がった。

 一方、満足できない理由としては、「特定の人が利用しており、社内への浸透が進んでいない」といった、一部の従業員での利用にとどまっていることを指摘するコメントや、「期待する答えが返ってこない」といった、期待が先行している状況、あるいはプロンプトスキルの不足を感じさせるコメントも寄せられた。

 生成AIが比較的新しい技術であることからか、「今はまだ評価する段階にない」という声も多く挙がった。特に、「利用者の理解度や認識度に差があり、評価できない」というコメントからは、社内でITスキルや認識にバラつきがある中で、業務でどう利用すべきかが固まっていない様子がうかがえる。この辺りは、「経営者や従業員の期待値が高すぎる」という懸念とともに、今後、満足度を左右する要因になりそうだ。

導入・運用課題の2位は「人材不足」、1位は?

 導入・運用課題としては「どのAIモデルを利用すれば良いか判断がつかない」という回答が28.1%でトップだった(複数回答可)。この選択肢を選んだ層は、生成AIの利用用途として「データ分析」「画像認識」「音声認識」を選択した割合が全体よりも約10ポイント高く、より専門性の高い目的で使おうとしているユーザーがベストな選択肢を探している様子が浮かび上がった。

 2位以下には「AIに関する技術的知見がある人材がいない」(26.2%)、「どの業務領域に適用すればよいかが分からない」(25.7%)が続いた。

★40 図表 AIを自動化ツールとして利用するに当たっての導入や運用に関する課題 AIを自動化ツールとして利用するに当たっての導入や運用に関する課題

 生成AIを活用するためにデータは重要な要素である中で、「AIを利用するための学習データを整備できない」(26.5%)も多くの回答者が選んだ。「自社開発の生成AIモデル(他社との共同開発を含む)」「自社開発の生成AIモデル(他者との共同開発を含む)」を利用している企業に絞ると、80%が「AIを利用するための学習データを整備できない」を選んでいる。全体の19.5%が「AIと既存のシステムを連携するための手段がない」を選んでいることと併せて考えると、今後企業全体の取り組みが進むにつれて、データやシステムの連携は、生成AIを十分に活用したいと考える企業にとってさらに大きな課題になりそうだ。 

自動化ツールから生成AIやAIに「置き換え」ようとしている企業の目的は?

 こちらの記事でも紹介したように、自動化対象の業務によっては、自動化のためのAIアプリケーションを作成したり、これまで自動化ツールで実施してきた作業を生成AIに代替させたりといった選択肢もある。

 現在、これまで利用してきた自動化ツールから生成AI やAIへの置き換えを検討している企業はどのぐらいあるのだろうか。AIの導入目的に、他の自動化ツールからの置き換えが「含まれている」と回答したのは19.5%だった。

 母数が少ないので、あくまで参考程度になるが、「含まれている」と回答した人に置き換えの目的を尋ねたところ、「コスト削減のため」が1位となり、「人員削減のため」「予算消化のため」が続いた。

 これらには及ばないものの、「自社でAIを利用したアプリケーションを開発したいから」という回答も5001人以上の大企業を中心に選ぶ回答者が多かった。

 置き換えを検討しているツールとしては、RPAやBIツールを挙げるコメントが複数寄せられたが、多くの企業はまだ情報収集段階にあるようだ。

「生成AIやAIを搭載」といううたい文句は“効いている”?

 生成AIやAIを搭載しているツールが次々に登場するが、生成AIやAIの搭載はツール選定にどの程度影響を与えているのだろうか。生成AIやAIを自動化ツールとして利用したことがある、あるいは導入に向けて具体的な検討を進めている層に聞いたところ、「製品選びのきっかけ、かつ決め手になった」は16.8%、「製品選びのきっかけになり、生成AI、あるいはAI搭載の製品に決めたが、結局別の要素が決め手になった」は9.9%、「製品選びのきっかけになったが、結局は生成AI、あるいはAIを搭載していない製品に決めた」は3.1%で、合計で約3割が「製品選びのきっかけになった」と答えた。

 また、「今のところなっていないが、今後生成AI、あるいはAIを搭載した製品への乗り換えを検討中」(11.5%)という回答もあり、今後も含めると約4割が生成AI、あるいはAIを搭載していることを製品選びで意識していることが分かった。

 生成AIやAIが製品選びのきっかけ、あるいは決め手となった理由としては、「AIを利用した機能により、作業の負担軽減を図れるから」が39.7%でトップに挙がった(複数回答可)。2位以下には「自然言語を使えることでツール操作のハードルが下がるから」(36.6%)、「自然言語を使えることからで時間短縮が期待できるから」(35.9%)、「自然言語を使えることで、これまでツールを利用していなかった従業員にも利用を拡大したいから」(27.5%)といった自然言語を利用できることを評価した回答が多く選ばれ、これまで操作にかかっていた時間の短縮や、ツール操作のハードルを下げ、これまでツールの利用してこなかった従業員にも業務自動化ツールを浸透させる助けとして期待されていることが分かる。

調査結果から見る企業の“本音”

 ここまで生成AIやAIを自動化ツールとして利用している企業が利用しているツールや用途、課題などを中心に見てきた。

 「どのAIモデルを利用すれば良いか判断がつかない」という課題を抱え、「どのように(AIの効果を)評価すべきかは定まっていない」というケースが多かった。

 現在は「文章要約」をはじめとする汎用的な用途で使われているが、「学習用データの整備」に課題を感じる利用者が、特に自社で生成AIモデルやAIモデルを構築しているような本格的な取り組みを進めている企業も含めて多い。今後より専門性の高い用途で使いたいと考える企業が増えた段階では、データ整備や、他のシステムとの連携が課題としてよりクローズアップされるのではないかと考えられる。

 また、今回の調査から、生成AIの利用に満足している企業からは、導入前から利用目的を絞り込んでいたため、期待通りの結果を得られた」といった、目的と手段が合致している様子が浮かび上がった。

 一方で、「期待を大きく下回った」「期待を下回った」とする企業からは、「具体的な成果まで行きつかない事例が多い」「現時点では期待した業務はできないようだ」といった、生成AIやAIを利用することで得られると考えていた成果が得られない状況を嘆く声が寄せられた。

 ツールを導入する際には一般的に利用目的を明確にし、ツールの機能によってその目的が達成されることを確認して選ぶことが求められるが、生成AIやAIのような新しいツールやユースケースが次々に登場する技術では、それらをどれだけ合致させられるかがよりシビアに問われるのかもしれない。

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