クラウド経費精算サービスを提供しているコンカーは、およそ10年前から経費精算領域のAI活用に取り組んでいる。大規模な経費データを学習したAIによる不正検知機能はどこまで進化したのだろうか。
クラウド経費精算サービスを提供しているコンカーは、2024年9月に都内で国内年次イベント「SAP Concur Fusion Exchange 2024 Tokyo」を開催し、同会場内で「ビッグデータ・AIによる出張・経費精算の新機能および事業構想発表記者会見」を開いた。
会見では、「一度申請した領収書のコピーを再度使う不正」「新幹線のグリーン車を認めていない企業での利用」など、社内規定を違反した経費精算を防ぐ新たなAI機能が紹介された。その詳細を届ける。
会見の冒頭、SAP Concurのクリストファー・ジュノー氏(プロダクトマーケティング最高責任者)が登壇し、SAP ConcurのAI戦略について説明した。ジュノー氏は、13年前にコンカーが日本法人を開設したときから日本市場に携わっている。
ジュノー氏は、SAP Concurにとって日本市場は米国に次ぐ世界第2の市場であるとし、戦略的に投資をしていると話す。「9月上旬には日本国内のデータセンターが稼働し、日本の公共分野の顧客が利用する。米国では連邦政府や地方自治体向けのデータセンター開設の例があるが、他国では日本が初めてだ」と話す。
続けてジュノー氏は、SAPおよびSAP ConcurのAIについての取り組みを説明した。SAP Concurは、およそ10年前から経費精算領域のAI活用に取り組んでいる。現在も独アレフ・アルファ、米コヒアなど急成長しているAI企業への投資を続けている。
加えてSAPは、世界のAI関連企業をパートナーエコシステムとして連携する基盤である「SAP Business Technology Platform(BTP)」を構築し、顧客にさまざまなAI機能を提供できる態勢を作っている。
またSAPは、AIによる独自のデジタルアシスタントである「Joule(ジュール)」も開発している。「SAPコンカーの製品にも、いよいよJouleが搭載される。当社のお客さまにコパイロットを提供する」(ジュノー氏)
これらの技術により、SAPが掲げる「ビジネスAI」をSAP Concurでも提供する予定だ。ジュノー氏は、「当社は、AIをビジネス目標に近いところで活用できるようにする。同時に、他社よりも多くの業務データを保有している立場としてデータをしっかりとガードし、信頼できて責任を果たすAIの導入を提案する」と語る。
同社の調査では、2024年にCFO(最高財務責任者)の63%がAIに投資すると答えており、その比率は前年の33%から倍増している。一方、2023年時点で生成AIを社内業務に組み込んでいる企業は5%にとどまるが、2026年には組み込んでいると予想した企業は80%に達する。
「2024年はAI投資と導入の転換点になる。中でも経理プロセスはAIの活用が必須となるだろう」とジュノー氏は語った。
次に、SAP Concur日本法人(コンカー)代表取締役社長の橋本祥生氏が、今後のコンカー製品のAIによる進化について説明した。
橋本氏は、「コンカーは、『経費精算のない世界』を作ることを目指している。あらゆるビジネスパーソンにとって最も付加価値がない仕事である経費精算を全て自動化することを社会的な使命として活動している」と話す。
そのため同社は以前から、「キャッシュレス」「入力レス」「ペーパレス」「承認レス」「運用高度化」という5つのテーマで製品を開発してきた。すでに多くを達成してきたが、最後まで残されていた承認レスが、ついに可能になると橋本氏は言う。
「ミッシングピースだった承認レスが完成し、コンカーの経費精算業務機能で、経費精算のない世界が実現できる」(橋本氏)
承認レスを実現する機能が、コンカーの立替経費承認機能である「Conquer Expense」に2024年春に搭載される「Verify(ヴェリファイ)」だ。大規模な経費データを学習したAIによる不正検知機能を提供し、経費精算プロセスにおける上長の承認プロセスを自動化する(Verifyの詳細については後述)。
橋本氏は、Verifyのリリース以降もコンカーのAI実装は続くと話す。
「2019年から導入している伝票読み取りのAI-OCRに続いて、AIによる不正検知であるVerifyが登場する。その後は業務の自律運用にもAIを導入、最終的に、業務に示唆を提供する、予測に基づく業務改善提案へと発展していくことで、ビッグデータを生かしたDX支援企業として製品を提供していく」(橋本氏)
続いて、SAP Concur日本法人の舟本憲政氏(コンカーソリューション統括本部ソリューションマーケティング部部長)が登壇し、コンカー製品に搭載されるAI新機能について詳細を説明した。
コンカーでは現在、従業員立替経費業務のConquer Expense、海外出張費精算業務の「Conquer Travel」、そして会社払い経費の請求書処理をする「Conquer Invoice」の3つの製品を中心にサービスを提供している。「コンカーの製品は単に間接業務を便利にするだけでなく、経費のガバナンス、グループ最適化、さらに間接費のESGについての統合管理を実現している」と舟本氏は話す。
すでに主力製品であるConquer Expenseでは、法人クレジットカードはもちろん、交通系ICやQRコード、タクシーアプリなど、あらゆるキャッシュレス決済手段との連携を可能にしている。
「名刺管理クラウドとも連携しており、会食の同席者情報もスマートフォンから簡単に申請できる。規定違反はその場でアラートが表示される。承認は、金額が少ない場合はスキップでき、規定違反の可能性があるものはイエローフラッグが表示されるなど、すでに効率化を実現している」(舟本氏)
だが、それでも不正の発生は避けられないと舟本氏は言う。「個人の道徳だけでは不正を防ぐことはできない。そのためデジタルによる不正検知の仕組みが重要になる」と同氏は語る。
Verifyは、人の目では判断できないワークフローの不正を見つけてアラートを表示する。例えば、領収書の内容と申請内容が一致しているか、規定に違反していないかなどの判定をAIが担う。一度申請した領収書のコピーを再度使う不正の場合、その処理のプロセス内では不正と判定するのは難しい。そこで過去のデータと同じ画像ではないかをAIが判断し、不正を検知する。申請内容が市場価格よりも飛び抜けて高いのではないかといったチェックも、AIなら可能になる。
また、新幹線のグリーン車を使うことを認めていない企業では、乗車区間と料金を都度チェックしなければいけない。出張時のホテルのミニバー利用なども同様だ。Verifyでは、人が担当したら膨大な作業になるこれらの確認を、AIが代行する。さらに、疑わしいものはコンカーの専任監査員のチェックを経ることで、精度の高い経費承認業務を実現する。
「Verifyによって、ガバナンスの強化と生産性向上、不正による被害の削減を実現する。先行導入している米国では、すでに30以上のシナリオをAIで不正検知できる。2024年春の日本リリースまでに、どこまで対応するかを現在検討している」(舟本氏)
Verify以外にも、出張申請の際に旅費の申請を自動化する機能や、出張精算時に1枚のホテルの領収書を読み込むだけで、自動的に日別の明細を作成する機能なども、AIによって可能になる。
海外出張費のConquer TravelではJouleが先行して搭載される。出張先や日程をチャットで入力すると、社内の規定に合わせた航空便の手配やホテルの予約を実行する。この機能は将来、他のサービスにも展開予定だ。
また請求書処理のConquer Invoiceでは、スキャンした請求書の書式から内容をAIが読み取り、処理に必要なデータ項目に分解して格納する機能が搭載される。
従業員向けの機能だけでなく、コンカー製品を管理する経理部門の業務をAIで支援する機能も追加される。サポートポータルに「明細化」といった経費業務の仕方を質問すると、従来は関連する記事が表示されるだけだったが、新機能では生成AIが実際に作業する手順を説明するという。
これらの機能は、日本でも2024年春に向けて順次実装予定だ。
橋本氏は講演の最後に、「AIの技術は学習するデータがあってこそ価値を生む。経費にかかわるデータを世界で最も多く持っているベンダーとして『ビッグデータ×AIカンパニー』へと進化し、お客さまに新しいサービスを提供していきたい」と語った。
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