内製に取り組む企業の中で、最も大きい課題は「予算」ではなかった。キーマンズネットの最新調査から浮かび上がった内製化の「現在地」とは。
DXに取り組む企業が増加する中で、重要事項の一つとなるのが内製化だ。これまでシステムやアプリケーション(アプリ)の開発・運用を外部企業に委託してきた企業の中には、外部環境への対応スピードの向上を目指して自社開発への切り替えを検討するところもある。
こうした中で、開発の内製化のための選択肢の一つとなるのがノーコード/ローコード開発ツールの利用だ。アイ・ティ・アールが2024年2月に発行した市場調査レポート「ITR Market View:ローコード/ノーコード開発市場2024」(注1)によると、2022年の売上金額は709億4000万円と前年度比で16.0%増加した。2022〜2027年度における同市場のCAGR(年平均成長率)は14.0%の見込みで、2025年度には1000億円規模に拡大すると予測されている。
キーマンズネットでは2023年に引き続き「ノーコード/ローコード開発ツールの利用状況に関する調査(2024年)」(実施期間:2024年10月11日〜30日、有効回答件数:187件)を実施した。前編となる本稿では、内製化への取り組みの現状や課題、内製化を支援するノーコード/ローコード開発ツールの利用状況を紹介する。内製化の「現在地」を早速見てみよう。
まず内製化への取り組み状況を尋ねたところ、「一部のプロジェクトで取り組んでいる」(39.6%)、「全社で取り組んでいる」(16.0%)を合わせて55.6%と、内製化に取り組む企業が過半数に及ぶことが分かった(図1)。従業員規模別に見ると、5001人以上の大企業では73.9%が取り組んでいる一方で、100人以下の中小企業では41.0%にとどまる。規模が大きくなるほど内製化に取り組む企業が多い傾向にあった。
内製化への取り組み課題として、難易度が高いと思われる順に1〜3位を選んでもらったところ、1位(最も難易度が高い)として最も多くの企業が選んだのが「スキルを持つ人材の不足」(51.3%)で、「内製化にかかる初期投資やツールの運用などにかかる予算が確保できない」(10.7%)、「開発にかかる時間の不足」(9.1%)、「システム管理・運用の負担」(8.0%)が続いた(図2)。
「スキルを持つ人材の不足」は他の項目を40ポイント以上引き離していることから、多くの企業で深刻な問題になっていることが分かる。また、「スキルを持つ人材の不足」は全ての従業員規模層で課題の1位に選ばれており、従業員規模にかかわらず、内製化を阻む「壁」になっている。
特に、内製化に取り組む割合が最も高い5001人以上の大企業では60.9%が課題の1位として挙げており、全体よりも高く出ていることから、人材の採用や育成などの人事予算が比較的潤沢な企業帯でも悩みの種となっている様子が伺える。
また、内製化について「以前取り組んでいたが、中止した」企業に絞ると、「スキル人材の不足」に続いて「システム管理・運用の負担」が多く選ばれる傾向にあった。内製化しようにも現場の負担が大きく、負担軽減のために人材確保を試みるも難航する――。こうした背景から内製化を中止せざるを得なくなった現場のジレンマが垣間見えた。
内製化の取り組み状況としては、「特定の業務プロセスやワークフローにおける部分的な内製化」(43.2%)や「特定の業務やプロジェクトに特化したアプリにおける部分的な内製化」(33.3%)、「一部の部門、あるいは部署限定で利用するシステム開発の内製化」(27.0%)など、特定の業務やプロジェクト、あるいは部門単位で開発を内製化しているケースが多い。
それもそのはずで、多くの企業が内製化によって目指す姿として挙げたのも「部分的な内製化」が多かった。「全社的なシステム開発の内製化」(17.2%)や「全社的なITインフラの内製化」(16.2%)、「全社的なシステムの運用管理」(12.1%)といった、「全社的な内製化」に取り組もうとしている企業は2割を下回った。
全社的な内製化への取り組み意欲が最も高かった5001人以上の大企業ですら「全社的なシステム開発の内製化」との回答が28.0%にとどまることからも、内製化の取り組みをあくまで一部分にとどめようと考える企業が一般的であるのが現状だ。
内製化についての現状と目指す姿とのギャップが最も大きかった項目は「データ管理と分析を対象とした部分的な内製化」だった。回答者の29.3%がデータマネジメントの部分的な内製化を目指しているものの、16.2%しか実現できていない。部門やプロジェクト、業務ごとにサイロ化しがちなデータの集約体制や、管理・分析に携わる高度人材の確保など、システム整備や人材の課題が特にデータ関連で積み上がっていることが見て取れる。
こうした内製化への取り組み課題の解決策の一つとなるのが、ソースコードを書かない、または記述量が最小限に抑えられ、専門スキルが高くなくてもアプリやシステム開発を可能にするノーコード/ローコード開発ツールだ。同ツールはここ10年ほどで市場が確立しており、今回の調査でも「名称、機能ともに知っている」という回答が57.8%に上った。
導入割合は37.4%と約4割に迫る勢いだ。キーマンズネットの調査では2021年は20.0%、2022年は27.6%、2023年は31.2%と、4年連続で増加傾向にある(図3)。特に現在「内製化に取り組んでいる企業」に絞ると、部分的に取り組んでいる企業では56.8%が、全社的に取り組んでいる企業では40.0%が「導入している」としており、全体より高い導入割合を誇った。加えて「導入していないが、具体的な導入に向けて検討中」(10.2%)や「導入していないが、興味はある」(18.2%)を合わせ約3割が導入意欲を示していることからも、今後ますます導入企業は増えると予測されよう。
年々導入が進むノーコード/ローコード開発ツールに、企業は何を期待しているのだろうか。ツール利用のメリットを尋ねたところ、最も多かった回答は「開発スピードの向上」(51.3%)で、「アプリケーション開発コストの削減」(43.9%)や「業務プロセスの自動化」(33.2%)、「事業部やユーザー主体での開発による内製化の促進」(29.9%)、「少ない人数での開発」(25.1%)などが続いた。
アプリケーションやシステム開発では大まかに要件定義や基本・詳細設計、開発、テストといった工程を経る。ツールを活用することで開発段階の時間短縮やコスト削減が期待できる。開発スキルがあまり高くなくても開発できることから、部門やプロジェクトによる「EUC」(エンドユーザーコンピューティング)が実現できる点にも期待が寄せられている様子が浮かび上がった。
一方、ツール利用への懸念事項としては「開発人材がいない」(43.9%)や「アプリを適切に管理できずブラックボックス化・属人化する」(33.2%)、「開発・運用ルールの策定が困難」(28.3%)などが挙がった。
内製化の項目でも挙がったように、開発人材の不足は大きな課題であるようだ。解消のためにEUCを進めようとしても「社内に利用が浸透しない」(24.1%)や「管理・メンテナンスの工数がかかる」(21.4%)、「教育コストがかかる」(18.7%)などの運用面や、ブラックボックス化や属人化、「使われないアプリが発生する」(21.4%)といった「セキュリティリスクが増大する」(16.6%)懸念が生じる。多くの企業はノーコード/ローコード開発ツールを活用するための環境整備の途上にあるようだ。
ツールを使って主に開発作業を実施している担当者で最も多いのは、「IT部門・情報システム部門の担当者」(62.7%)だった。DX推進の文脈ではビジネスに深くかかわる事業部門の担当者が、自身の業務に必要なシステムやアプリを開発する重要性が強調されるが、「事業部門の業務担当者」は48.4%にとどまっており、EUCに取り組む企業は半数に満たない。
企業別で見ても、内製化に積極的に取り組む割合が最も多い5001人以上の大企業が「事業部門の担当者」(60.0%)が「IT部門・情報システム部門の担当者」(54.3%)を逆転していたが、従業員規模が小さくなるにつれて「IT部門・情報システム部門の担当者」の割合が高くなる傾向にあった。
委託費用の削減といった単なるコスト削減で満足せず、ビジネスへの貢献を重視するためにツールをさらに活用するのであれば、スキルを持った人材の育成をはじめとする推進体制の構築が重要になりそうだ。
そこで、後編ではノーコード/ローコード開発ツールを利用している企業が取り組んでいる推進策や、ツールで実際に開発しているアプリやシステム、開発者が身に着けているスキルなど、ツール利用の実態を明らかにする。
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