企業会計基準委員会(ASBJ)は2024年9月13日、「新リース会計基準」の確定版を公表した。あずさ監査法人の会計の専門家が新基準の概要とスケジュール、社内プロジェクトの進め方について指針を示した。
2024年9月13日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、「新リース会計基準」(以下、新リース基準)の確定版を公表した。今回の基準の元となった「IFRS(国際財務報告基準)16号」を適用した企業には、システム対応を見送った結果、オペレーションが非常に煩雑となり方針転換を余儀なくされた例も多い。
あずさ監査法人の山本勝一氏(アドバイザリー統轄事業部)が、新リース基準の概要とスケジュール、社内プロジェクトの進め方について指針を示した。企業によってはシステム対応が求められる理由や、対応のポイントも紹介する。
ワークスアプリケーションとあずさ監査法人は2024年10月、新リース基準の概要と対応策をまとめたオンラインセミナーを開催。両者は、こうしたセミナーや専用サイトを通じて新リース関連の情報を提供し、企業の対応を支援している。
新リース基準は、3月決算の企業の場合、2028年3月期決算から強制適用となる。登壇した山本氏は「準備期間は約2年ある。そう聞くとかなり先のように思えるが、じつは決して余裕があるわけではない」と語る。
2024年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した基準書によると、新リース基準は、リースの「借手」と「貸手」で扱いが大きく異なる。新基準において、借手は原則として、全てのリースを賃借対照表に記載(オンバランス)しなければいけない。勘定科目としては、使用権資産とリース負債の科目を使って、両建てでオンバランスすることになる。
「業種によるが、資産、負債が大きく増加する企業が多いため、各種の経営指標(KPI)に大きな影響が出ることは避けられない。新リース基準に沿った会計処理をするための情報収集、内部統制の構築には相当な準備が必要で、社内の業務を改めて考え直す必要がある」(山本氏)
一方のリースの貸手は、借手と異なり、新リース基準でも大きな変更はない。ただ、場合によってはシステム対応が必要なほどの大きな変更が必要になるケースがあるという。リースの貸手を広い範囲で実施している企業は、どこが変更の対象になるかを理解することが重要で、対応が必要かどうかを見極める必要がある。
新基準における「リース」は「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約(の一部分)」(山本氏)と解釈される。
「従来の日本の会計において、リースは『リース契約』『リース賃貸借契約』といった契約の取引と認識され、処理されてきた。それで特段問題がなかったのが現状だ。しかし新リース基準では、契約書の名称は関係がなくなり、上記のリースの定義に当てはまる取引は、会計上リースとして扱わなければいけない」(山本氏)
企業がシステムを新基準に適用させるプロジェクトを進めるに当たり、全ての取引をこのリース定義に当てはめて判断しなければいけない。そういった情報をどのように網羅的に集め、特定すればいいのか、ここが企業の一番の悩みどころだ。
そこで山本氏は、リースの定義を3つに分解してみることを勧める。
1つ目は「資産が特定されているかどうか」、2つ目が「資産の使用から生じる経済的利益のほとんど全てを享受する権利を、顧客(借手)が保有しているか」、そして3つ目が「資産の使用を指図する権利を顧客が保有しているか」だ。この3つがそろったときに会計上のリースということになる。
その際、契約の法定形態を問わない点がポイントだ。これまではリースとしての会計処理をしていなかった電力契約、物流センター契約なども、リースとして扱う必要が出てくる可能性がある。
また、契約の一部にリースの定義に当てはまるものが含まれる場合、その部分はリースとして会計処理しなければならない。「最も多いのは業務委託契約だが、その一部にリースに該当するものが含まれていないかどうかを確認する必要がある」
さらに、契約がリースに該当するか否かは、新リース基準の移行に際して遡及的に再評価しなければいけない点にも注意が必要だ。
新リース基準による会計処理は、借手、貸手とも基本的にIFRS第16号の基準で処理することになる。そのうち、借手の会計処理は大きく変わる。300万円以下の少額リース、短期リースを除いて、原則として全てのリースをオンバランス処理しなければいけない。
「従来は、リースを『ファイナンスリース』『オペレーショナルリース』に分類して、ファイナンスリースだけを資産に計上していたが、新リース基準ではその分類はなくなり、全てをオンバランスしなければいけない。その結果、企業のBS(バランスシート)に計上される金額は非常に大きくなる可能性がある」(山本氏)
また、借手のリース料はリース契約の対価(貸手への支払金額)とは必ずしも一致しなくなる。この点も非常に煩雑だ。借手から見たリース期間も、契約の期間と一致しなくなる。規定では、「リースの継続が合理的に確実な期間にわたるリース料」を、リース負債として計上しなければいけない。「ここが財務諸表への影響が最も大きいと考える」と山本氏は語る。
さらに、リース期間の途中で一定の事象が起きた場合、契約条件の変更有無にかかわらず、リース負債を再測定しなければいけないルールも加わる。このトリガーをどう判断するか、仕組みの構築が必要になる。他にも、使用権資産に減損会計をどう適用するかなど、まだコンセンサスが得られていない論点もある。これについては山本氏も「実務が固まることを待ちたい」と説明した。
実際の借手の会計処理では、まずリース期間(これは必ずしもリース契約の期間ではない)を見積もり、その期間に支払うリース料の現在価値をリース負債として計上する。それに前払い金、仲介手数料などを加えたものを使用権資産として計上する。
このように当初オンバランスした使用権資産は定額法で減価償却され、原則としてリース期間で全額償却される。一方のリース負債は、当初は金利の返済部分が多くなり、リース期間の後半にかけて元本部分の負債を返済する。両社の簿価の変化は違うカーブを描くことになる。
続いて山本氏は、貸手の会計処理について説明した。貸手は借手のように大きな変更はないが、新たな問題が生じている。
「従来は借手と貸手の会計処理は、基本的に対称の関係にあった。しかし新リース基準ではそういう関係はなくなる」(山本氏)
従来貸手はファイナンスリースを第1法、第2法、第3法の3つの分類で会計処理していたが、新リース基準では第2法がなくなり、製造・販売業では第1法、それ以外の卸売業などでは第3法を適用する。
またオペレーティングリースでは、フリーレントの考え方が変わる。従来は請求する費用が発生したタイミングで収益として扱ったが、新リース基準では契約期間で平準化して収益認識することになる。「フリーレントが多い貸手は、キャッシュベースで収益認識できないため、場合によってはシステム化する必要がある」と山本氏は言う。
貸手にとって新リース基準の適用で最も重要な項目が、セールアンドリースバック取引である。セールアンドリースバックとは、保有する不動産などをいったん金融会社などに売却した後、引き続きその物件のリース契約を結んで利用する取引形態を指す。この取引の処理は、取引が売却と認められるかどうかや、使用権資産およびリース負債の計上、売却益・損失の認識などでIFRS第16号とは全く異なる対応が求められる。
もう1つ、サブリースについても一部変更がある。例えば親会社が建物をリースしてきて、それを子会社にそのままの条件でリースする場合、従来であればオペレーティングリースで処理していた。それが新リース基準ではファイナンスリースとして扱わなければいけなくなるケースが増えるという。
こうしたリース会計の制度変更が迫る中、企業が新リース基準の適用までにすべきことは何か。山本氏は、3つの手順を推奨する。
「まずは『隠れリース』を探し出す。契約上リースになっていなくても、会計の定義でリース扱いになるものをいかに効率的、網羅的にピックアップする。次に、リースの契約条件をチェックする。特に不動産リースに関しては、契約の対価の中に非リースの要素があるため、それを除外する。延長のオプションなども確認する。そして3つ目が、特に大型案件の場合は経過措置の活用だ」(山本氏)
経過措置では、移行時帳簿価額として、使用権資産の金額をリース開始時点にさかのぼって処理することが認められている。それによって移行時の使用権資産計上額を圧縮することができる。
「いずれにしても財務諸表への影響額が大きいため、早期にシミュレーションを実施して、経営層との情報共有が必要だ」(山本氏)
新リース基準への移行プロジェクトのポイントは「単に会計論点を整理するだけではない」と山本氏は言う。
「論点整理は早期に完了し、業務プロセスデザインやシステム導入に着手することが、プロジェクト成功のカギだ」(山本氏)
では、どのようなシステムが望ましいのか。これは3つのパターンが考えられる。1つ目はERPなどの会計システムの固定資産モジュールのオプションという位置付け。統合性の高さなどから安心感は高いが、導入プロジェクトが高コスト・高負荷となる傾向があるため大規模企業向けの進め方だ。2つ目は、固定資産管理専用システムを使っている場合、それと同シリーズのリースシステムを導入する形で、採用する企業は多い。そして3つ目は、リース専用のシステムをスタンドアロンで導入する形だが、従来は少なかったが今後は増えてきそうなパターンだという。
新リース基準に対応するためには、社内で発生するリース契約の新規締結や条件変更、更新、解約などを把握して、情報を収集する仕組みが必要になる。これについても、(1)既存の稟議書類の回付ルートをチェックして経理部門が情報を抜き出す、(2)表計算シートのテンプレートで毎月の契約情報を書き込む、(3)ワークフロー全体を見直して登録を義務付ける、などの方法がある。
新リース基準へのシステム対応は、どれだけワークフローに入り込むかによって難易度、開発規模も異なるが、企業の状況に合わせて対応することが求められる。ワークスアプリケーションズは、新リース基準に対応したSaaS「HUEリース会計」を2025年春に提供すると発表し、「HUE Asset」「HUE Classic Assets Management」にては新リース基準に対応した機能をリリースしている。
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