ERPの歴史や特徴を踏まえ、ERP製品を選定するためのポイントを紹介します。基幹システムの刷新を成功に導く、ERP製品選定の大前提、選定ポイントを解説します。
SAP ERPのサポートが最長でも2027年末に終了する「Xデー」が迫っている。国産ERPを25年以上にわたり提供してきたワークスアプリケーションズが、「Xデー」以降の未来を考えるための情報を届ける。
基幹システムの刷新・移行におけるトラブルが頻繁に話題になっています。ERP導入で障害が発生すれば、商品の出荷や決算などさまざまな業務に影響が生じ、事業への影響は計りしれません。
今回は、ERP製品の歴史や特徴を踏まえつつ、実際にERP製品をどのように選定していけばよいか、幾つかのポイントを紹介します。自社に合ったERPを選択し、基幹システム刷新を成功させましょう。
選定ポイントの話をする前に、押さえておきたい選定の大前提についてお伝えします。
ERP製品を選定するに当たり、もっとも重要な軸となるのが「どのような目的でERP製品を導入するのか」という点です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が求められる昨今、目的が明確にされないまま「DX推進=システム入替」と考え、とりあえず新しい製品を選定し導入プロジェクトを推し進めるケースが出てきています。もちろん、新しい製品には優れた部分が存在し、入れ替えることで少なからずメリットが出るというケースもあると思います。
しかし、目的が明確化されていない状態でプロジェクトを進めると、プロジェクトの軸が定まらず途中で目的がぶれてしまうことがあります。また、後述する「コスト」に対する線引きが正しくされないままプロジェクトが進んでしまい、新しい製品を導入したのに現場の負荷が許容できないほどに上がり、ほとんどの機能が利用されず形骸化しかねません。
そのようなケースを回避するためにも、現行業務の実現、管理コストの削減、利便性の向上など、最初にERP製品を導入する目的を明確にすることが重要になります。
製品導入の目的が明確になった後は、「正しいコスト計算」が必要になります。一概に「コスト」といってもその種類はさまざまです。
ERP製品自体の費用や導入時の支援費用の他、導入後の保守サポート費用、追加の機能開発が必要な場合の開発費用、製品のバージョンアップ費用、製品の仕様変更に伴う周辺システムの改修のIF改修費用、製品を動かすためのインフラの保守費用、また、費用だけでなく製品保守やインフラ保守ベンダーとのやり取りにかかる工数、実際に製品を利用する現場の入力工数などもコストに含まれます。
導入時や製品購入時だけではなく、長期的な利用を見据えたランニングコストも計算することで、「導入後に思ったよりもコストがかかってしまう」「現場の満足度が上がらない」といった事象を回避できます。
ERP選定の前提を抑えた上で、自社に合ったシステムを選ぶための選定ポイントをお伝えします。今回は大きく2点の内容と、業務領域によっては重要となるポイントにも触れます。
先の記事でERPの歴史・変遷について触れたように、さまざまなERP製品が登場した中で「Fit to Standard」の考え方が浸透してきているように感じます。Fit to Standardとは、業務内容に合わせてアドオン開発などでERP製品をカスタマイズするのではなく、ERP製品の標準機能に業務を合わせていくという考え方です。
ERP製品の推奨する標準機能に業務を合わせることで、追加開発コストが発生せず長期的にみるとコストメリットが高く、定期的な製品のバージョンアップによって最新の機能を利用し続けられます。
こうした「Fit to Standard」の考え方は重要です。しかし注意すべきは、一つの製品でFit to Standardを実現しようとするあまり、一部の現行業務を実現できず、結局追加開発が発生してしまったり、業務に合わずオペレーション負荷が上がってしまったりすることです。
もちろん、自社の業務にフィットする製品であれば、先ほど記載したようなメリットを長期的に享受することが可能です。しかし、自社の業務にフィットせず、現場が許容できないほどに業務負荷が増えてしまう部分があると、結果的に本来製品が持つメリットを享受できない状態になってしまいます。
そうした状態を回避するために「Fit to Standardに固執し過ぎない」ことがポイントになります。具体的には、一つの製品で無理やり標準機能に業務を寄せるのではなく、例えば、財務会計・管理会計の領域と固定資産領域を分けて各業務領域ごとに製品を選択し組み合わせるという考え方です。
そのために重要な選定ポイントが、「特定の領域ごとに製品を選択できる(疎結合な状態となっている)」こと、「それらの製品が各領域の中で自社の業務にフィットする」ことの2点です。
複数の製品を互いに疎結合で組み合わせながら柔軟に構築する組立型のERPのことをコンポーザブルERPといいますが、これらのポイントを押さえ、自社に合った製品を組み合わせることで、無理なく製品の標準機能を利用し、企業の成長や市場の変化に対して柔軟かつ持続的にシステムを成長させられます。
可視化できていないことで思わぬ落とし穴にはまってしまうコストについて、注意すべきポイントを幾つかお伝えします。
1つ目は「現場のオペレーションコスト」です。ERP製品の導入の目的として「内部統制の強化」や「データの一元化による経営視点での様々な切り口でのデータ活用」といったものを掲げ、実現できる製品を選定したとします。
しかし、現場の方々のオペレーションを考慮できていないまま運用開始すると、データ入力の負荷が上がってしまいます。実際に、現場入力用に別のワークフローシステムなどの組み合わせが必要となり、追加コストがかかってしまったプロジェクトもよく耳にします。そのため、現場の方々でも利用できる製品なのかどうかを事前に確認し、難しい場合は現場利用を周辺製品で補うための追加コストも考慮した上で選定することがポイントになります。
2つ目は「導入時の仕様変更コスト」です。導入時、RFP(提案依頼書)を作成して見積を出し、予算をとって要件定義を進めていく中で、当初想定していた以上に追加開発が必要になり、追加コストが膨らむケースがあります。そういった事態を回避するために重要なのが、「ベンダーとの認識のずれをできるだけ無くす」ことです。そこでポイントとなるのが「自社独自の業務は業務要件やフローだけでなく、その業務の目的も伝える」ことです。
法定業務や多くの企業でも実施されている業務は、ベンダーも目的やフローを理解しやすいため、すれ違いはあまり起きません。しかし、自社独自の業務の場合、業務要件やフローだけではベンダーが正しく目的を理解できず、最適なフローや手段を提案できない場合があります。
自社では当たり前と思っている業務でも、同業他社様では実施していない場合があるため、独自業務かどうかの判断ができない場合は、「転職組」「懇意のベンダー」「同業の集まり」などを活用して確認するのもよいと思います。
3つ目は「インフラ周りの保守コスト」です。ERP製品を導入するためにはサーバ保守が必要になります。自社でサーバを管理するオンプレミス型をはじめ、クラウド型のERP製品でもインフラの種類があり、それぞれ管理主管が異なることから、考慮すべき保守コストが変わります。
例えばオンプレミス型はクラウド型に比べるとランニングコストが安価に見えます。しかし、OSの保守切れなどで数年に1度のリプレースが必要になったり、社内のサーバ運用などで見えないコストが発生したりします。
クラウド型でも「IaaS」はリソース監視や死活監視などの体制は自社で整備する必要があるため、構築・運用のコストが発生します。
一方、「PaaS」はリソース監視や死活監視含め、ベンダー側での管理になるため運用コストは発生しません。しかし、ベンダー側のサービスとして管理してもらうため、サービス保守料といったコストは発生します。また、サービス保守の対象はあくまでベンダーが提供するアプリケーションの領域になるため、個社向けに作ったアプリケーションなどの保守は対象外になる点も注意が必要です。
システムを選定する際は、システム管理に当てられるリソースやコストを考慮した上で、「どの形式で提供されるシステムなのか」「どこまでがサービスに含まれるのか」という観点で確認するのがよいでしょう。
4つ目は「保守ベンダーとのやり取りコスト」です。製品ベンダーとの保守のやり取りでもコストが上振れしやすいため、体制について確認しておく必要があります。月額や年額で保守料を定価で支払うことで、制約なく問い合わせ対応を実施してもらえるものもあれば、あらかじめチケットやトークンを取得し、問い合わせ時にそれらを消費することで対応してもらえるものもあります。
チケットでの対応には、必要な分のチケットだけを利用することで保守コストを削減できるといったメリットもあります。一方で、緊急対応が重なった際に追加でコストがかかってしまうという側面もあります。そのため、緊急時の対応に備えてチケットを取っておくために機能改善の問い合わせを我慢するといった話も聞かれます。
製品ベンダーの保守体制については、保守ベンダーから提示された基本コストだけを見るのではなく、緊急対応や機能改善要望などで発生し得るケースを踏まえた上で、必要な保守体制を維持するのにどれくらいのコストがかかるのかを可視化することが重要です。
ERP製品を選定するに当たって、業務領域によっては「法改正への対応」が重要となります。直近でもインボイス制度や電子帳簿保存法の対応、今後来る新リース会計基準への対応など、次々と対応を迫られているでしょう。
そんな中、標準的なサポート内容だと不足があり、個別対応が必要だったというケースも聞かれます。そうしたケースを回避するポイントとして、法改正に対して「どのようなスケジュールで対応してくれるのか」「過去の対応実績はどうだったのか」を確認しておくことが重要になります。
今回はERP製品の選定ポイントについて紹介しました。次回はERP製品における生成AIなどの最新技術の活用や、ERP製品の未来について触れていきます。
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