Windows 10のサポート終了まで1年を切ったにもかかわらず、多くの中堅・中小企業がWindows 11への移行を終えていない。いったいなぜWindows 11の導入は進まないのだろうか。有識者の洞察から企業の本音が明らかになった。
中堅・中小企業のIT部門や情シスの多くは、「少ない予算」や「IT人材不足」という現実に悩まされている。IT資産管理やシステム運用などの定常業務に加え、脅威の進化に伴うセキュリティ強化やデータ活用の推進、「Windows 11」への移行など、やるべきことが急増している。
キーマンズネットとITmediaエンタープライズ共催のオンラインセミナー「Digital Leaders Summit vol.2 2024 Autumn」にノークリサーチの岩上由高氏が登壇し、「Windows 11移行を阻害する要因とそこから学ぶべき打開策 〜700社のユーザ企業に訊いてみた〜 」と題して、2025年10月14日(米国時間)に迫った「Windows 10」からWindows 11への移行状況について、調査結果と得られる考察を説明した。
Windows 11の導入に対してメリットを感じられない企業の本音や、EOL(End of Life)の直前まで移行を引き延ばす思惑が明らかになった。
ノークリサーチは日本の中堅・中小企業を対象にしたIT市場専門の調査会社だ。岩上氏はIT業界に30年近く従事し、製品企画、開発に携わった後に同社に入社。現在は調査活動やコンサルティング、講演などを担っている。
本講演で岩上氏は、同社が2024年春に実施したエンドポイント(PCなどの端末)に関する企業調査の内容を紹介した。調査範囲は、年商500億円以上の企業を除いた中堅・中小、小規模企業で、企業分布では日本企業の大部分がカバーされている。調査では年商別などで細かく調査していたが、岩上氏は本講演に向けて主要な一部を抜粋して紹介した。
最初はエンドポイントOSの概況からで、企業が採用するOSは、「Windows系」が89.6%と突出して多い。スマートフォン向けの「iOS」「Android」も一定存在するが、多くても2割程度にとどまる。しかも、Windows以外のOSについて「今度の導入予定」を聞いた回答では、iOS、Android、そして文教系などで多い「Chrome OS」などWindows以外のOSは横ばい、または微減となっており、Windowsに代わる兆候は見られない(図1)。「企業のエンドポイントは、望むか否かにかかわらず、Windowsなしでは成り立たない状況だ」と岩上氏は話す。
次に、Windows OSのバージョン別の状況で、どの年商規模でもWindows 10とWindows 11の比率は拮抗している。本調査によれば、Windows 10のサポート終了が2025年10月に迫る今でも、依然として使い続けている企業が約半数だ。
さらに、Windows 10ユーザーに対して移行時期を聞いたところ、7割程度の企業が「2025年10月を目指して移行を計画している」と回答した(図3)。しかし同時に、「導入時期未定」と答えている企業が26.4%、「可能な限り遅らせる」と回答した企業が6%で、Windows 10のサポート終了期限まで移行を計画していない企業が約3割存在する。「2025年10月以降は、Windows 10のセキュリティアップデートもなくなるため(セキュリティが)非常に危険な状態になる。それよりも移行を遅らせるという選択肢は現実的ではない」と岩上氏は注意を呼びかける。
ではなぜ、Windows 11への移行をためらう企業が存在するのか。岩上氏は、現在Windows 10を使用中の企業に向けてWindows 11への移行をどう考えているか尋ねた回答結果から分析した。
Windows 11への移行を阻害する大きな要因として挙げられるのは、企業の負担の大きさだ(図4)。Windows 11は、ハードウェアのセキュリティ要件として「Trusted Platform Module 2.0」(TPM 2.0)の搭載が必須要件だ。岩上氏は、「古いPCを使っている企業では、TPM2.0の要件を満たしていないため、PCそのものを買い換えなければいけない。これが、移行を計画しているか否かにかかわらず、課題として最も大きい」と話す。これがWindows 11への移行が単なるOSのアップデートだけでは済まない理由だ。
また、OSの移行はできても、企業が使っている独自の業務アプリケーションが、Windows 11環境で動くかどうかは分からない。その検証が間に合わないと答える企業も多い。
「動作するか分からないからといって待っているだけでは解決しない。Windows 11で業務アプリケーションが動作しないのであれば、引き延ばすのではなく、なおのこと早期に対策を開始しなければいけない」(岩上氏)
一方、早めに移行に着手するよりも、ギリギリまで待ったほうが得をするのでないかと考えている企業も存在する。これは特に、すでに移行を決定している企業に多い(図5)。
例えば、「Windows 10のサポート終了直前に、メーカーがWindows 11対応PCのセールを実施するのではないか」あるいは、「自治体や国から補助金が出るのではないか」という期待だ。加えて、Windows 10のサポート終了直前のほうが、トラブルシューティングなどのノウハウが蓄積されているため移行しやすいという考えも理解できる。Windows 10は一時期「最後のWindows」といわれていたこともあり、企業はこれまでの投資をギリギリまで生かしたいと考える向きもある。
だが岩上氏は、これにも懸念を示す。「地政学的なリスクが高まっており、数年前に起きたような半導体の供給不足が発生するリスクは常にある。導入を遅らせ、Windows 11対応のPCがほしいと思ったときに手に入らない可能性もあるため安全とはいえない」
今回の調査では、Windows 11の機能に対する企業の認識も聞いている。最も多いのが、「(Windows 10から移行して)自社にとってメリットがある改善点がない」という回答だが、それに続くものとして、「設定の分かりにくさ、設定変更の手順が分かりにくい」という点が挙げられている(図6)。
「企業の情報システム部門の立場は、Windows 11は一部のバージョンで不具合が発生したことが懸念している。また、デフォルトのWebブラウザの設定などがWindows 10よりもメニューの深い部分にあるなど、サポートの負担が増えると考える企業もある。しかし、前述したように、企業のエンドポイントとしてWindows以外の選択肢は考えられないため、早く導入して従業員にも慣れてもらう必要がある」(岩上氏)
そこで重要になるのが、従業員に説明できるWindows 11の改善点だと岩上氏は話す。Windows 11には、多くはないものの幾つかの利点が存在する。
最も大きなメリットは、「無償でアップグレードできる」ことだ(図7)。これは調査でも多くの企業から支持されている。ただし、このメリットはいつまで続くか分からないと岩上氏は指摘する。「Microsoftからは何もアナウンスはないが、例えば、Windows 10のサポート終了後に無償アップグレードも終了する可能性がある」と話す。
「ウィジェット」などWindows 11の新機能については企業の評価は高くなく、実際に利用している企業も少ない(図8)。Windows 11の目玉だったAndroidアプリが動作する機能は、残念ながら打ち切られてしまった。
一方、「ハードウェアとの合わせ技」で、Windows 11には幾つかのプラス材料が存在する。その一つが、ファイルサーバへのアクセス速度の向上だ。
「Windows 11は、『Windows Server 2022』以降との組み合わせで、高速なプロトコルを採用することが可能で、通信速度を向上させられる。サーバ側の対応も必要だが、日常の業務で共有フォルダを使っている企業では、じわじわとメリットを感じられる」(岩上氏)
前述したTPM2.0によるセキュリティ強化も、もちろん企業にとってメリットだ。岩上氏は「ランサムウェア攻撃など、中堅・中小企業も被害に遭うケースが増えている。ハードウェアとソフトウェアの両輪で対策をしなければいけないが、Windows 11対応のPCによってセキュリティを強化することが現実解といえるのではないか」と話す。加えて、Windows 11は認証機能の強化も施されており、高いセキュリティを実現することが
IT人材の不足が問題となる中、企業は複雑化が進むセキュリティ対策や業務改善を進めなければならず、PCの安定稼働にリソースをかけられない。岩上氏は、「OSのアップデートは自動車でいうところの車検と考えてほしい」と提案する。
「車検を受けても自動車自体は何も変わらないように見えるが、中の部品は安全なものに交換されている場合がある。PCのOSも、アップデートで目に見えない改善が施されるので、車検と同様に捉え、確実に実施してほしい」
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