ある調査では、SAPやOracle、Microsoft、InforをERPのトップクラスのベンダーとして評価した。調査ではコストが最も高く、プロジェクトの期間も最も長いとされたERPも明らかになった。
IT領域のコンサルティングサービスを提供するPanorama Consulting Groupが発表した報告書「2025 Clash of the Titans」によると、ERPベンダーの上位4社が提供するSaaS型ERPが成熟したことで、ホスト型クラウドERPよりもSaaS型が顧客に好まれるようになったという。
この年次報告書は、アプリケーションの機能要件や全体的なグローバルフットプリント、市場シェア、従業員数、収益に基づいてトップクラスのベンダーであるSAPやOracle、Microsoft、Inforを評価した。Panoramaによると、SAPとOracleが依然として主要プレイヤーであり、そこにMicrosoft Dynamics、Inforが続く。
調査では各ベンダーのERPについて、導入するための平均コストと平均プロジェクト期間も明らかにされた。コストが最も高く、プロジェクトの期間も最も長いとされたERPとその理由とは。
この調査は2023年9月から2024年9月にかけて実施され、InforおよびMicrosoft、Oracle、SAPのいずれかのERPを最近導入した172社が回答した。これらの企業は、世界中のさまざまな業種の大企業で、年間売上高の中央値は4億50万ドル、従業員数の中央値は750.5人であった。
顧客はオンプレミス型よりもクラウド型のERPを選択する傾向が強かった。特にInforの顧客はクラウド型に関心が高く、92.9%がクラウド型のERPを選択した。他のベンダーとしてはSAPは77.4%、Oracleは75%、Microsoftは73.3%がクラウド型を選択した。全体としておよそ75%がクラウド型を選択していることになる。
クラウド展開のためのモデルとしては、ホスト型やマネージド型よりもSaaS型が選ばれており、Inforの場合は84.6%、SAPの場合は75%、Microsoftの場合は69.1%、Oracleの場合は66.7%だった。
Panorama Consulting Groupでクライアントサービスを担当するクリス・デボールト氏(シニアマネジャー)は「顧客は、ベンダーがクラウド型のERPモデルを強力にプッシュしているため影響を受けている」と述べた。
「オンプレミス型の購入はまだ可能だが、導入や運用にはかなりの労力が必要になる。ベンダーはオンプレミス型の販売および実装に消極的だ。原則として、ベンダーは新規顧客にクラウド型のモデルを提供している」(デボールト氏)
デボールト氏は「以前との違いの一つは、SaaS型のクラウドERPが成熟したことだ。顧客は自社のインフラやインスタンスを維持する必要がなくなると考え、クラウド型を採用するようになった」と述べている。
現在オンプレミス型を導入している顧客は、クラウド型に移行する際に考え方を改める必要がある。
「オンプレミス型を使用している顧客は、クラウドアプリケーションにどのように移行するかを計画しなければならない。サポートの方法や機能強化のリクエストの方法、アプリケーションの管理方法やそれを担当する人が異なるためだ」
また、報告書によると、クラウド型のERPの成熟により、顧客はデジタル施策を実施しやすくなった。最も一般的なデジタル施策は、モバイル拡張やAI、ビジネスインテリジェンス、予測分析、Webコマースだ。
調査では、ERPベンダーを選ぶ際に顧客が求める機能に関する質問もされた。OracleとSAPの場合、大半の回答者は「販売およびCRMを最優先課題」として挙げ、次いで「レポートと分析」「企業向けの資産管理」が続いた。Inforの場合、「財務および会計」を最優先課題とし、次に「サプライチェーン管理」「レポートと分析」が続いた。Microsoftの顧客の場合、「倉庫と在庫管理」を最優先課題とし、その次に「レポートと分析」を挙げた。
デボールト氏は「販売とCRM機能に焦点が当てられていることは、それらの機能を支える財務や業務の中核的なERPプロセスが裏で円滑に動作していることを示している」と述べた。
「ほとんどの人は、CRMや販売が完全に統合され、大きな価値を追加できない限り、余分な時間を費やしたいとは思わない。これは、人々がSaaSにかなり慣れており、ソフトウェアを保守するだけでなく、新しいアプリケーションにもっと資金を投入したり、機能を拡張したりできることを示している」(デボールト氏)
2025年の報告書によると、以前の報告書「Clash of the Titans」においてベンダー間で大きな差があったプロジェクトコストと期間は、Microsoftを除いて、ベンダー間で均等になっているという。
回答者によると、Microsoftのプロジェクトコストの平均値は540万ドルで最も高く、プロジェクト期間の平均値は155カ月で最も長かったという。次いでOracleは260万ドルと73カ月、SAPは250万ドルと55カ月であった。Inforのプロジェクトコストの平均値は180万ドルで最も低く、プロジェクト期間の平均値は55カ月だった。
デボールト氏によると、Microsoftのプロジェクトコストとプロジェクト期間の平均値が高い数値を示した理由は、付加価値再販業者(VAR)や独立系ソフトウェアベンダー(ISV)を活用し、アプリケーションの「ラストマイル」機能を開発するというチャネル戦略に起因している可能性が高いという。
「Microsoftのソフトウェア自体は安価な場合も多いが、導入コストは非常に高く、現在ではSAPやOracleよりも高いことさえある」(デボールト氏)
また、Microsoftは、SAPやOracleのように即座に使用できる実装のためのアクセラレーターを持っておらず、システムにより多くの設定作業が必要になるケースが多い。デボールト氏によると、Microsoftを選ぶ組織は導入作業の多くを自社で担う傾向があるという。
「顧客はMicrosoftに対して、それほど多くの対価を支払っておらず、内部コストを管理している。一方、顧客が導入作業に自分たちで対応できると考えていても、実際にはそうでない場合もある。そのような場合、最終的なコストが高騰する。設定作業の多さから、Microsoftのプロジェクトにおける導入コストが高くなる傾向はこれまでにもよく見られた」(デボールト氏)
デボルト氏は、顧客がSIerやサービスプロバイダーについても、より詳細に評価していると付け加えた。
「顧客はOracleやSAPにSIを任せるだけでは済まない。彼らは自ら人材を探し、サービスプロバイダー側に対して本当に慎重に精査をしているのだ」
ERPに関する調査結果を発表したコンサルタント会社はPanoramaだけではない。Gartnerも製品中心の企業向けクラウドERPに関するレポートを発表し、ベンダーの成熟度と機能性をランク付けしている。
このレポートでは、「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」「Oracle Fusion Cloud ERP」「Microsoft Dynamics 365」「Infor Cloud」、製造業に特化したERPの「Epicor」など、同様の企業の製品に焦点を当てている。これらは全てリーダーとして特定されており、プロセスをクラウドに移行することでサポートと改善を提供できる能力があると示されている。
また、レポートではオンプレミスに対するクラウドERPの優位性を示す証拠も挙げられている。ガートナーの2023年ERP市場分析によると、クラウドERPの採用、価格上昇、AI、業界クラウドの進展が、2022年の450億ドル規模だったERPソフトウェア市場を13%増の510億ドルに成長させると予測されている。この成長のうち、80%以上がクラウドサービスによるもので、オンプレミスサービスの割合は約20%にとどまると推定されている。この傾向は今後もクラウド採用の方向で続くと予想されている。
さらに、この成長の背景には、一部のベンダーが従来のオンプレミスシステムのサポート終了を発表したことがあるという。
「この現実は、クラウドソリューションからサブスクリプションベースの収益源を追求することがベンダーにとってより魅力的になるため、組織がクラウドERPに移行する流れを促進し続けるだろう」と報告書では述べられている。
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